頭から見える光景
「う、うおおおぉぉぉあああぁぁぁああ!!」
ニーナと男の二人が半開きにした口を見ながら、俺は突然落下する。
走り幅跳びのように飛び降りた俺は眼下の光景に驚愕する。
目的地であった畑とは、異様に段差ごとの高さが激しい段々畑だったのだ。距離感が掴めなくてよくわからないが、二階建ての家くらいはあるだろうか。そんな落差のある畑に俺は水平投射されたわけだが、ロボットの力は凄まじく、一段目の畑など軽々と飛び越えてしまった。幅十メートルはありそうな畑を、二段、三段と飛び越えていく。四段目となると俺の体に畑の角の部分が掠りそうになる程度には跳躍のノビが失われていた。
「うおおおおおおおお伸びろ伸びろ伸びろ伸びろ!!!」
空中で平泳ぎなどもして見て必死の抵抗をするも虚しく、ついに五段目で俺は足から畑と激突した。
「があっ!」
足から落下した俺はみっともなく顔を打ち、衝撃を横に流すように横に転がる。体がバラバラになるかのような強い衝撃と共に、前後左右がわからなくなるほど荒々しく転がる。身体の至る所の自由が利かない。なんとか停止しようと指先だけでも動かして地面を掻く。しかしそれでも衝撃は抑えきれず、ゴロゴロと転がりながら縁を乗り越え、六段目に落ちてしまった。
まずいまずいまずい!
このままだと頭から落下して俺は致命傷を負う……気がする!
と、とにかくせめて足から着地だけでもーーー
スポーーーーーン!!!!
……え?
俺は突然落下が収まったような錯覚を覚えた。それもそのはず。だって頭部は体から切り離された際の衝撃で上に飛んだのだから。もちろん今も体は絶賛落下中だろう。
ドンガラゴロガシャァアアァアーーー!!!
ほら今まさに着地したみたいだ。
こんなことをするのはニーナしかいないだろう。この無駄に高性能な眼のおかげで呆然と立ってるあいつら見えたけど焦った顔のニーナの手に握られてるスイッチ見たことあるもん!
頭部はきっと大事な部位だからニーナもせめてと思ったんだろうが……まあファインプレーだったけど。
少しだけ心に余裕ができた。それじゃあ後は頭を体でキャッチして
ブォオオォオオオォオオォオオオ!!
突然の咆哮に戦慄する。
辺りを見渡しても何も見えない。一面畑だらけだ。もう畑も六段目が最下層のようで、奥には森があるだけだ。左右には草原が広がっており、この畑はなだらかな山に階段があるような構造になっているらしい。
そろそろ地面にも近くなってきたみたいだ。体がキャッチできるように動かさなくちゃと真下を見たときに、俺は自分の呑気さにほとほと呆れた。
「おい……嘘だろ?」
嘘であったらどれだけ良いか。先ほどの方向は間違いなくこいつだ。
俺の真下には俺の体と、俺の体が背中にめり込んでいる毛の逆立った黒毛のイノシシがいた。
イノシシと表現するのは少し甘いかもしれない。だって、まだ俺の体3つは埋まりそうなほどお背中がお広いんですけど。なるほど、大体わかった。こいつが【ボア】。そしてこいつを倒そうと躍起になっていたらしいのが、ボアの半径十数メートル先に倒れている奴らだってことか。
そりゃ地響きなるわ。だってこんなの戦車が足踏みしながら歩いているようなものじゃないか。そしてこの戦車は絶賛俺にご執心のようだ。俺の体埋め込んじゃったからね。そりゃそうか。明らかに殺意を持った目で頭上にいる俺を見ている。
良いじゃないか上等だ。ロボットが戦車を倒すなんて最高じゃないか。
まずは、この状況を打破するためにも……
ボアさん頭返してください!!
頭しかないロボットの体奪還作戦の開始だ。