スーパーマンの落下
赤髪の男が開けてきた扉から、外への道をニーナと男が先導し、それに俺がついていく形で石階段を登っていた。それほど暗くはなく、螺旋のように続いている階段は外の光が差し込んでおり、あまり長い階段ではない。
あっという間に登り切って見えた光景は、藁でできた小さな家がずらっと並んでいる街並みだった。家の合間には杭で囲まれた畑があり、どれも美味そうに実っていた。だが俺はここである疑問を抱える。
「異様に人が少なくないか?それに、畑が荒らされているって言ってもそんな形跡全くないぞ?」
「あれは個人で作ってる畑で、他にもこの村全体で管理してる大きな畑があるんだよ!
村の人たちはそこを守ってる!」
ああ、なるほど。それで人が少ないのか。
しかし……村の人たちの相当数が畑の防衛に行ったのにさらに俺たちの手を借りるなんて大げさだな。見る限り村にある民家は何十軒にもわたる。ここまで人がいないとなると百人近くは畑に向かっているんじゃないか?ボアとか呼ばれる動物相手にそこまで苦戦しているのか……大丈夫かこの村は。
「何ボーっとしてんだ!ロボット?に考え事なんて似合わねえぞ!」
「ちょっと!今私の発明品にケチつけたわね!?いい、この子は人工知能を超えた人工知能で、ヒトが無意識に認知している活動を脳部分にある」
「わかった!すまん、お前の発明品にケチをつけた俺が悪かったからさっさと畑に向かおう……」
相変わらずニーナの言ってることはわかんねえな…と言う男のつぶやきを聞きながら俺たちは畑へと向かった。
ーーー
数百メートル程走った俺たちを地鳴りが襲った。あまりに突然で、思わず立ち止まり周りを見渡したが見えるのは広々とした草原だけだ。
「やばいな。相当興奮してる」
「急ぎましょ。そろそろ本腰入れないとまずいわ」
俺に合わせて止まった二人は地鳴りの原因に何か心当たりがあるようだ。
「今の地鳴りってなんだ。俺にも教えてくれ」
「今は教えている時間すら惜しいわ。畑に着けばわかるとだけ言っておくね。」
「ああ、それに畑まではもう目と鼻の先だ、急げ!」
男がそう言うと、二人ともまた一本道を走りだしてしまった。全く、この世界は俺に対して説明不足すぎる!
不条理にぐちぐち文句を言いながら、俺も二人を追うように再び走り出した。不思議なことに、この体は全く疲れがない。スーパーマンのようにグングンと加速するし、飛ぼうと思えば五メートルは飛べるんじゃないかと思う。俺の心はそのままなだけに、人間だった頃のギャップが大きい。昔のように動こうとするとそれ以上の速度が出るので、正直、二人の早さに合わせるのはそれなりに大変だった。
いい機会だ。ここらであいつらに俺の力を見せつけてやろう。
ロボットの性能をフルに使って、先に畑に向かった二人に追いつこうと全力で駆ける。俺の加速が始まりグングンと周りの景色を追い抜いていくような感覚に陥る。電車や新幹線でしか見たことのない光景が身体一つで体現できることに興奮を覚えながら、俺は突然立ち止まった二人を追い抜いてーーーーーー
落下した。
「「「えっ」」」
見事に三人揃った「「「えっ」」」と共に、俺だけは落下していった。