人間の頃の俺と今の俺
俺は愕然としていた。
よりにもよって俺の来世がロボットだなんて。ロボットって言えばあの下手くそな歩行をしたり、機械的な音声であらかじめ入力されてあることしか話せないようなものだと思っていた。
今の俺は、フィクションの世界でしか見ないような姿だった。
身長はそれなりに高く、髪の毛もある。全身のどこにも金属は全く見えず、皮膚のようなもので覆われているようだ。
「馬鹿らしいけど、これが今の俺なんだよな……」
不思議と俺の心はこの状況を噛み砕いて、飲み込みつつあった。命の選別なんてとんでもないようなことをされたばかりだ。常識じゃ考えられないこともきっとこの世にはあるのだろう。
「馬鹿らしいとは何!せっかく天才メカニックの私が作ってあげたんだから、もっと自信を持ちなさい!」
「ああ、そりゃすまない、ニーナ。首が飛ぶなんて、なんて不良品に生まれたんだと思ってね。」
「っっ!いいわよ、あんな機能、この私が考えた天才的発明の本の一端にしか過ぎないことを教えて」
「おい、ニーナ!!ボアが畑を荒らしている!藁にも縋りたいんだ。お前の発明品で使えそうなやつないか!?」
ニーナの話を遮るように、赤髪の男が乱入してきた。ボアというのはなんだろうか?畑を荒らすというならばおそらく動物だろうか。
「あら!あらあらあら!御誂え向きのクエストが向こうから来てくれたわ!
ここであなたの真価を大いに発揮してもらおうじゃない!!」
「ええ…。動物除けの鈴でもついてるのか…?」
「そんな時代錯誤のおもちゃみたいなものはついてないわよ!
まあ、私からは何も言わないわ。あなたは嫌でも気づくでしょう。」
「いいから早く来てくれ!最近は盗賊もここらに住み着いてただでさえ辛い状況なんだ!
ボアに畑を食い尽くされちまうともうこの村はおしまいだぞ!」
思ったよりも事態は切迫しているようだ。
しかし、この世界に生まれたばかりの俺に何ができるのだろうか。今まで病に伏して、ベッドで横になっていた俺に今更何ができるというのだろうか。ずっとずっと、何もしてこなかったやつにこんなこと任せるなよ。
「ほら、さっさといくよ!」
「お前の他の発明品の方がきっとうまくいくよ。俺には何もできやしない」
ニーナの言葉に間髪入れず放った。スピーカーから出た声はヘラヘラとした口調で、我ながらうまく言えたと思う。これでいい。これでいいんだ。俺なんかに物事を任せたら破綻するぞ。
「いいえ、それは違う。」
ニーナが誇らしそうな顔で堂々と言う。
「もう、あなたは私の期待に応えてくれたもの。
……さっきの首が飛んだ時のあなたの顔、今のあなたからは想像できないよ!
ロボットを驚かせることができたなんて、製作者としては最高の気分だったわ!」
こいつ!
あの宴会芸でしか使えないような機能は何か利便性を求めてのことじゃなくて、ただ単に、自分の欲求のためだけに実装したのかよ!
…………ああ、馬鹿らしい。なんだか笑いがこみ上げて来た。
「初対面の時から思ってたけど、お前って本当になんと言うか…自分勝手だよなあ」
「あら、初対面だなんてよそよそしい。私はあなたの顔を小さい頃から、それこそ毎日見てきたよ」
「熱烈な告白ありがとうよ。…多分俺は思った以上に何もできないぞ?」
「できることなんてやってみないとわからない!ならやるしかないよ!」
そうさ。新しい人生を望んでおいてなんだこの体たらくは。生きたいんだろう?何かを残したいんだろう?
だったらこんな態度は、今捨てよう。
「…ああ、ならお前のために粉骨砕身の思いで働いてやるよ」
「砕けちゃうのはあんまりよろしくないかな。直すのが大変じゃない!」