表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機械仕掛けの異世界生活  作者: ケボ氏
1/7

プロローグ

 病院のベッドで衰弱していく俺はこんなことを考えていた。

 今までの俺に価値なんてあったのだろうか。

 きっと誰もが自分に価値を見出すことなんてできやしないのだろう。

 生きていれば、生きていればきっとと思いつづけるのももう疲れた。

 周りがやけに騒がしいな。もう俺はいいんだ。

 不思議と身体は軽い。でも全く動かない。

 死の匂いが近づいてくる。


 きっと俺は神様の失敗作。

 何も世界に残せない飾り物。

 死んだら俺はどうなるのだろうか。

 何も待っていない、無なのかそれとも天国や地獄があるのだろうか。

 もしも天国や地獄があったら俺は地獄行きかな。

 だってそうだろう?

 何もできないまま人生を終えるなんて、そんなの命のポイ捨てさ。

 そんなことをした俺に天国なんておこがましい。

 ああ、でも、もしもだ。

 もしも、「次の人生」があったなら

 今より強い身体、強い精神が欲しい。

 誰からも負けない、一人で生き抜けていけるような。

 そしていろんな世界を見て、何かを、感じてーーー


 でも、そんな妄想もここまでみたいだ。

 周りが白くなっていく。うるさい声も聞こえない。

 寝ていたベッドの感触も薄れていく。

 途切れゆく意識の中で見たのは、無機質な天井だった。



 ーーー



 ああ、これが死ぬってことか。

 何よりも体験したくないことでもあり、したいことでもある。

 暗闇の中をどこまでも落ちていくような、そんな感じ。

 暗闇というよりは自分の体も普通に見えるし、黒い景色かな。

 そんな中で俺は手のひらを握ったり開いたり、上下させたりした。


「おお、普通に動く」


 久しぶりに聞いた自分の声に驚き、喉を触りながらあーっあーっと発声練習をしてみる。


「これが生きてるってことなんだよな……いや死んだんだけど」


 独り言をつぶやいていると、突如体がふわっと浮くような感覚に襲われた。

 ああ、本当に落下していたのかと時別な感慨もなく綺麗に着地した。

 景色は一向に黒一色のままだ。

 周りを見渡してみると、背後の方に光が見える。

 俺は何も考えずにその光に向かった。


 数分歩いてみると、その光の下までたどり着けた。

 よく見てみると、地面から発光しているわけではないみたいだ。

 真上にある筒状に凹んだ部分にある、ステンドグラスからこぼれる光。

 そんな光の中へ、自然と体が導かれるように俺の体は動いた。

 筒状にできた光のサークルの中を見てみると、なんだかメルヘンな絵が照らし出されていた。


「妙に引き込まれる、変な絵だ」

「変な絵とはなんですか!」


 !?

 突然天井のステンドグラスの奥から声がした。

 思わぬ反応を得た俺はバランスを崩して、尻餅を着いてしまう。


「ああ、ごめんなさい、ごめんなさい。驚かせるつもりはなかったのだけれど、つい。

 まあ、それは置いといてと。」


 何も声が出ない。こんなバカにされているのに、何一つ声が出せない。


「ああ、ごめんなさいね。死んだ人って毎回うるさいからつい……

 でもあなたは事情が事情だし、ね」

「っっっっっはあ!」


 動悸がおさまらない。なんだこの状況は!?

 どうしてこんな風になっているのかは知らないけど、まずは聞いておかないと。


「ここは地獄ですか?」

「ぶち○すわよ」


 声とともに、額に衝撃が走る。デコピンをされたかのような痛みだ。


「あのねえ!ここは神聖な天国なのよ?それなのに地獄呼ばわりだなんて……」

「いや、天国ってもっとこう……雲の上にあるとか、常に太陽が昇っているだとか……」

「え、何それこわい。私高いところ苦手だから雲の上なんかにあったら失神しちゃう。

 太陽なんかずっと昇ってたらきっと天使はみんな真っ黒ね」


 ……。ちょっと納得してしまった。

 でもこの天使っぽい立場の人と俺は多分相性悪い。


「まあ、ここも前はもうちょっとしっかりとした施設で、こんな真っ黒に塗られた監獄みたいなところじゃなかったんだけどね?最近あなたの世界って長寿傾向にあるから私たちの仕事も減ってきてるんだけど、この仕事って歩合制なのよね〜。なんとも世知辛い世の中になったものよ……。天使には一つずつ、【命の選別】の空間が与えられるんだけど、私は経費削減のためにがっつりリソース削っちゃった!てへ?」

「てへ?じゃねえよ!天使業が世知辛いのは伝わってきたけどこんなブラックな空間なんて死後に来たくなかったよ!もっと明るいキューピッドが浮かんでいるような……ん?……命の選別ってなんだ?」

「ふう、やっと落ち着いたみたいね。これでようやく本題に入れるわ。まあ、あなたは『はい』か『いいえ』の二択で答えるしかないのだけれど」



 さらっと天使宣言したこいつとの今までの会話は、俺に気を遣ってのことらしい。

 思わぬところで見せた優しさに戸惑いを隠せない。


「ちょっと。あなた失礼じゃない?」

 !?

「私は一応天使だから、この選別でのツールとして人の考えてることなんてお見通しになる『お見透しくん』を支給されているのよ!ふふん」

「一応天使って言ったってことは一応天使っぽくないと自覚はしているのか……いてっ!」


 またデコピンのような痛みを食らった。


「それでは気を取り直して、本題に入ります。命の選別とは、まあアンケートのようなものね。

 その結果によってあなたのこれからが決まるわ。これから、の候補はまあまずは人間ね。

 あとは動物とか虫とか、葉っぱとか。もう本当にたくさんね。

 もちろんお見透しくんを使えば本音はわかるからアンケート結果は非常に正確なんだけど、まあちゃんと答えてね?

 なりたいものは漠然でも、なりたくないものはあるでしょ?」


 ああ、絶対に虫とかにはなりたくない。小さい頃から苦手だったものにどうしてなりたい奴がいるだろうか。

 俺は気を引き締めて、地べたに座っていた体を起こした。


「あなたは、今回の人生に満足していますか?」「い、いいえ」

「あなたは、何かを残せましたか?」「…いいえ」

「あなたは、強靭な肉体が欲しいですか?」「はい」


 そんなふうにアンケートのようなものが数分に渡り行われた。

 どれも俺の中に確信を持った答えを出せるものばかりなのが妙に心地よかった。


「新しい人生を、過ごしたいですか?」

「『はい』だ。それに関して間違いはない」

「はい、これにて【命の選別】しゅーりょー!では結果をお待ちくださーい!」


 なんだか拍子抜けだ。これが命の選別だなんて仰々しい名前をつけられているなんて。

 結果を待っている間、今までのことを考えていた。

 しかし、考えても考えても思い出すのは辛い記憶ばかりだ。

 まあいいさ。新しい人生ってことは俺の自我は多分失われるだろう。

 すぐに失われる俺という存在のことを考えていても時間の無駄さ。

 今できることは、ただ結果を待つばかり。

 それだけだ。


 そんな風にステンドグラスの光に包まれながら、大の字になって寝ていると、天使の声が返ってきた。


「あれー?生きてるー?」

「……死んでるよ馬鹿野郎」

「あ、生きてたー。喜んで!あなたの次の人生が決まったわ!」


 体がこわばる。受験番号を合格版から探すだとか、そんなことが瑣末なことに感じられるくらいの緊張が襲う。


「さて、あなたの次の人生はまあレアよ!間違いなく前例はいないわ!」

「え?前例がないってなんだ?それは喜んで良いのか?」

「喜ぶべきよ!特性上、校区は保持されるし、あなたのアンケートの喧嘩にも概ね合致する、超優良物件よ!

 ただ、地球ではないことだけは残念かもね?」


 立て続けに喜んで良いことと悪いことが入り乱れたような返答に俺は困惑する。


「いやいや待て待て待て!なんだ前例がないって?!それ人間じゃないよな!前の記憶を保持できるって!?それに地球じゃないってじゃあどこだよ!俺は火星人にでもなるのか!?」

「もううるさいなあ……私が決めたわけじゃないし、それにこの世界が地球だけだと思っているの?

 地球に紛れ込んでる地球外生命体なんていくらでもいるのに。」


 ダメだ。全く理解が追いつかない。頭がショートしそうだ。


「まあ、これ以上の説明はいらないかな?多分いってもわからないだろうし。んじゃあ……」

「待て、なんか嫌な予感がするぞ。まだ聞きたいことはあるんだ。それを説明しないだなんて職務ほ」


「行ってこーーーーい!」


 そんな締まらない声で、俺は命の選別の場から退場することになった。




 ーーー




 なんだ、体が重い。まるでなまりみたいだ。

 そういえばベッドで寝ている時もこんな感じだったな。

 でもその時とは明らかに異質なものだ。これは明らかに、重い!

 瞼すら重く、開くのにかなりの力を込めないと上がらない。

 少しずつ開いていくまぶたの隙間から、光が漏れてくる。

 癖で顔をしかめたが、不思議と眩しいと感じない。

 脳が瞬時に明るい画面を適切な明度に処理してくれるような感覚と共に、ようやく目の前の景色を見る。

 重い首を回すと、工具やなんだか奇妙な金属の塊が見下ろせる。

 どうやら俺は直立不動で立っていたようだ。一体なんだこれは?

 自分の体を見ようとした時に、自分の真下にひたいにタオルを巻いた、薄汚れた袖のない薄手の布と、いろんな工具の入った非常に厚手のズボンを着ている茶髪の女が仰向けに倒れていた。どうやら寝ているようだ。

 歳は多分成人したくらいか。スースーと寝息にドキッとするも、オイルで汚れた顔でよだれを垂らしているのを見ると、途端に笑いがこぼれた。

 すると途端に、茶髪の女がカッ!と目を開けたと思うと、俺のことをしげしげと身始めた。


「な……な……」

「な?」

「なんかできたあああ!!!!!」

「なんか……『できた』?」


 焦って自分の体をいざ見て見ると、普通の体に見える。鉛の重さは未だ感じるが、いたって普通の体だ。

 もう普通に動くようになってきたし、多分転生の弊害だろうか?

 俺の体にこの子が作成した何かがついているのか?わからない。なんだ、できたって。


 女は跳ね起きで立ち上がると、途端に


「ねえ!ねえ!このボタン押して!これ!」


 差し出された四角い箱の中に赤いスイッチがある簡素な作りなものを差し出された。

 なんだこの女?まあ、別に押さない理由はないけど。

 俺がスイッチを押そうとすると、やけに目を輝かせている。

 怪しさを感じながらも俺はスイッチをポチっと深く押し込んだ。


 スポーーーーーーーン!!!


 俺の首は突然飛んで、工房のような部屋を隅々と見渡し、その間に見えた女のガッツポーズを心底憎みながら金属音を鳴らしながら地面に落下した。


「おい。これはなんだ」

「あれ、もしかして怒ってる?」

「当たり前だろ!一体俺はどうなっちまったんだ!なんで人間の首が飛んで、そんで生きてんだよ!?」


 もう意味がわからない。死んでからの俺の人生が激動すぎる。


「あ、天才ゆえの失敗がここに……出来が良すぎるというのもあれね…そうあれ。

 まずは自己紹介から始めましょうか。私はニーナ。あなたの『製作者』よ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ