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第24話 文研のパソコンが壊れた?

「先輩。どうして、朝のホームルームの前に部室へ行ったんですか?」


 後ろで柚木さんが席を立った。


「昨日、部室に忘れ物をしちゃってね。それを取りに行ったんだよ。そうしたら――」


 木戸先生の顔が過ぎって、とっさに口を閉じた。


「そうしたら?」


「そうしたら、部室の扉が開いていたから、驚いたんだよ。なんか盗まれちゃったのかなと思って、ひやひやしたよ」


「そうだったんですね。なくなっていたものは、何かあったんですか?」


「いや、特になかったよ」


 部室の備品が盗まれていないか、チェックしていなかった。


「先輩が確認してるんでしたら、だいじょうぶですね」


 柚木さんの言葉に、罪悪感が込み上げてくる。


 みんなが帰ったら、こっそり備品をチェックしよう。


 自分の机に戻って、「きみの夢は」のしおりを挟んだページを広げる。


「先輩は、『きみの夢は』を読んでるんですかっ?」


 柚木さんの横顔が間近にあって、どきっとする。


「あ、ああ。そうだよ。これは面白いね」


「映画が原作なんですよね。映画館で観て感動しましたっ」


「これって映画が原作だったんだ。知らなかったよ」


「テレビで何回もコマーシャルが流れてましたよ。先輩は観なかったんですか?」


「コマーシャルなんて流れてたっけ? テレビはあんまり観てないから、わからな――」


 突然、先生の悲鳴が部室に響いた。


 柚木さんも突然の出来事に肩を振るわせる。


 ノートパソコンで作業していた先生は、また身体を大きく仰け反らせて、倒れそうになっていた。


 床へ倒れる寸前に、三年生が取り押さえてくれた。


「先生、どうかしましたか!?」


 机に手をついて立ち上がる。椅子がバランスを崩して床に倒れた。


「な、なにこれっ」


 先生がノートパソコンのディスプレイを眺めて、凍りついていた。


「どうしたんですか?」


「こ、これ」


 先生が指すディスプレイを見やる。


 そこには、血のような赤い色で塗りつぶされた画面があった。


 重大な事故を示す背景色に、英語らしき文字列が白い文字で綴られている。


 画面の中央には、ダイアログボックスが表示されている。


 そのウィンドウも真っ赤で、さらに髑髏どくろのイラストが左上に大きく表示されていた。


「な、なんなんですか、これ」


 柚木さんが、後ろから俺のシャツをつかむ。


「わからない。こんなおかしい画面、見たことないよ」


 こんなにも強烈で恐ろしい画面は、今まで見たことがない。


 真っ先に思いつく原因は、コンピュータウィルスの仕業!?


 ダイアログボックス左下には「残り時間」と書かれている。


 そのさらに下に、タイムリミットを示す時間が表示されている。残り時間が刻々と少なくなっていく。


「残り時間って、なんなの? あたしはどうすればいいのっ?」


「先生、落ち着いてっ」


 残り時間というのは、「秘密鍵」が破壊されるまでの時間なのか。


 秘密鍵って、なんだ? 部室の鍵のことなのか?


 ダイアログボックスの右上に、「あなたのファイルは暗号化されました!」と太字で表示されている。


 その下に説明文がつらつらと書かれていた。



  × × ×



  あなたのコンピュータ上のファイルは暗号化されました。


  あなたは×××をクリックして、暗号化されたファイルのリストを確認することができます。


  暗号化は、このコンピュータで生成された固有の公開鍵で行われました。


  コンピュータ上のファイルを復号するには、公開鍵と対になる秘密鍵を取得する必要があります。


  秘密鍵は、インターネット上のサーバに置かれています。


  サーバは、このダイアログで指定されている時刻を超過すると、自動的に秘密鍵を破壊します。


  サーバから秘密鍵を手に入れるためには、あなたは五万円を支払う必要があります。


  お支払いの準備が整いましたら、×××をクリックしてください。





「宗形くん。どう?」


「先輩、わかりましたか?」


 先生や柚木さんから注目されて緊張が走る。


「ここに書かれている内容は、まったく理解できません。とりあえず言えることは、どこのだれかが、うちのパソコンにいたずらをしたということ。そして、そのだれかは、パソコンを修理するのにお金を要求しているということです」


「お金?」


「はい。ここに『あなたは五万円を支払う必要があります』と書いてあります」


「あっ、ほんとだ!」


 俺の指した文字列を読んで先生が声を上げた。


 柚木さんも不安がって、


「どうして、わたしたちがお金を払わないといけないんですか? 一体だれが、こんなひどいことをしたんですかっ」


「わからない。暗号化とか秘密鍵と書かれているけど、それはなんだろう」


 先生に席を替わってもらって、ノートパソコンをタッチパッドで操作する。


 ハードディスクを覗いて、絶句した。


 ディスクの中身のファイルが、すべて意味不明な記号の羅列に変わっていた。


 とんでもないことが起きてしまったぞ。


 最悪のシナリオが頭を過ぎりつつ、ひとつのファイルを適当に選んでクリックする。


 メモ帳で開かれたファイルの中身も、意味不明な記号の羅列に変えられていた。


「昨日まで普通に見られていたファイルが、おかしなファイルにすり替わっている。どうしてなんだっ」


「ファイルが、全部変えられちゃったんですかっ!?」


「わからない。でも、この結果を見ると、そう断定せざるを得ないかもしれない」


 何者かによってすり替えられてしまったファイルを元に戻すために、お金が要求されているのか。


 先生が愕然と膝を折る。


「パソコンを元に戻すのに、お金が必要なの? でも、だれに送ればいいの」


「お金の用意ができたら、このボタンをクリックしろと書いてありますけど、素直に応じるのは危険じゃないですか?」


「でもっ、お金を払わないと、パソコンが壊されちゃうのよ! お金を払うしかないじゃないっ」


 そうだけど、その前に、パソコンのファイルがすり替えられることを疑問に思うべきじゃないか。


 ノートパソコンに表示されているダイアログを見やる。


 タイムリミットは刻々と終焉へ近づいていた。


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