第144話 宗形の必殺シュートが炸裂!
一年一組は一回戦を勝ち抜いただけあって、かなり手ごわいチームだった。
前線のメンバーはサッカー部員たちだから、正面から攻められると、あっさり抜かれてしまう。
しかし、サッカー部員はうちのクラスにも多い。点を取られたら、すぐに取り返す。お互いのゴールネットが揺れる激しい試合だ。
「村田っ!」
こぼれ球を拾った村田が、また持ち場を離れてオーバーラップしてきた。
仲間のフォローを無視して、なんとしても俺に勝つ気か。
「どけっ!」
村田が愚直な正面突破を狙ってくる。サッカー部じゃないやつになんて抜かれるかっ。
村田のドリブルは、サッカー部員のそれよりもはるかに遅い。フェイントなどの技術も使われないから、阻止するだけなら簡単だ。
「くそっ、邪魔すんなよ!」
「攻撃を邪魔するのが俺の役割だっ」
村田が、背中で俺を押し出そうとしてくる。しかし、背の低いこいつよりも俺は体格がいい。
村田の威勢と裏腹に、力はさほど強くなかった。
「なんで、お前みたいなやつが邪魔すんだよ。お前、ほんと邪魔だよ!」
「だから、攻撃を邪魔するのが俺の――」
「お前のせいで、俺の計画が全部台無しだよっ。ほんと、ざけんなよっ!」
俺の、計画?
また虚を突かれて、村田に抜かれそうになった。
「させるかっ!」
捨て身のタックルを仕掛けると、足のつま先が運よくボールに当たってくれた。
「宗形、ナイースっ!」
如月の呑気な声援がコートにひびく。こぼれ球は艸加が拾ってくれた。
相手チームのサッカー部員が艸加に肉薄する!
「艸加、こっちだ!」
急いで起き上がり、艸加に手を上げる。
「あわわっ」
ボールを奪われる前に、艸加はボールを返してくれた。
目の前のコートは空いている。俺も微妙にオーバーラップだっ。
「にいっ、がんばっ!」
比奈子の声が聞こえる。柚木さんも応援してくれているかもしれない。
「宗形、パス!」
センターサークルに足を踏み入れた頃に、右斜め前を走っていたフォワードのメンバーが手を上げた。
サッカー部員の原田だ。迷いもせずにボールを渡した。
持ち場に戻るべきかもしれないが、攻勢で人のいない自陣に戻っても意味はないように思える。
如月と艸加もセンターラインのそばまで上がっているから、ここで様子を見よう。
サッカー部員たちがコートの右から攻め上がるが、相手のクラスの戻りも早い。隙のない守備にフォワードの足が止まる。
ほどなくして、先ほど渡したボールが俺の下へ戻ってきた。
サッカーで攻撃になんて参加したことがない。だれにパスしようか迷っていると、
「宗形、後ろっ!」
艸加の悲鳴が聞こえて、ふりかえると村田が真後ろに迫っていた!
「死ねっ!」
村田がボールへ足を伸ばしてくる。それをすんでのところでかわした。
「お前だけはっ!」
肩のあたりを強めにつかまれる。やつの手を振り払って前進するしかないっ。
終いには体操着のシャツまで引っ張られたが、そんなものにかまっていられるかっ。
前に向かって夢中に突き進む。相手クラスのサッカー部員らしき子が飛び出してきたが、闇雲に左へ逃げたら、それ以上追ってこなかった。
ゴール前まで来てしまったが、これからどう――。
「にいっ、今よ!」
無限に降り注がれる声援の中、だれかがそう叫んだ気がした。
まわりの景色が、水の中にいるような、いやスローモーションで再生している映画のような、妙に現実離れした空間になっていた。
俺の右足が自然に動いて、真下から空へ向かって蹴り上げた。
足元にあるはずのボールが、相手クラスのゴールの右端へ向かって飛来する。
銃弾のような、いや大砲のような速さで。
相手クラスのキーパーが、かなり遅れて反応した。
腰を落としてボールへ向かって跳躍するが、伸ばした指先は届かない。
ボールは右のゴールポストの内側に当たって、反対側へ軌道を大きく変えた。
ボールがゴールネットへ突き刺さり、ネットの表面が大きくくぼんだ。
ボールが地面に落ちた瞬間、スローモーションになっていた外界の流れが戻った。
「入っ、た?」
肩で大きく息をしていることに、今さら気づく。こんなところで、俺は何してるんだ。
「宗形、すげー!」
その直後、ひときわ大きな歓声が沸き起こった。
「あいつ、マジかよっ!」
「すごくね!?」
前線のサッカー部員たちが、諸手を上げて俺に抱き付いてきた。
「お前、ディフェンダーなのに、なに調子に乗ってんだよっ!」
「こいつ、サッカー部に入れるんじゃね!?」
四人くらいから、髪やシャツをむちゃくちゃに引っ張られる。
如月や艸加も歓喜の輪にまざってきた。
「きみ、いきなりオーバーラップするかと思ったら、すんごいミラクルプレーじゃないのさ!」
「絶対に自滅すると思ってたのに、宗形マジですごいよ!」
クラスのみんなから揉みくしゃにされて、もうわけがわからない。
だけど、なんていうのだろう。古本屋で適当に探したライトノベルが、むちゃくちゃ面白かったときくらいに最高だっ!
コート内外の歓声が少し収まった頃、ホイッスルが高らかに鳴った。
「やった!」
「俺たち、勝ったぞ!」
「二連勝だっ!」
うちのクラスのメンバーが、また両手を上げて叫んだ。
サッカーコートが歓喜に包まれて、俺も高らかに勝利を宣言した。




