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第143話 村田とサッカー対決!

 夜に比奈子からドヤ顔で試合の武勇伝を聞かされて、こんなやつにカリスマ性なんて、絶対にあるわけがないと思い悩んだ次の日。


「宗形。今日の試合の相手。知ってるかい?」


 朝のホームルームの後に、如月が普段のすました顔で俺の肩を叩いた。


「ああ。一年一組だろ」


「なんだ、知ってたのか。きみにしては意外なのさ」


 無理して「さ」で言い終わらせなくてもいいのにさ。


「あのクラスはサッカー部が多いみたいだから、けっこう手ごわいらしいのさ」


「それは難儀するな」


「それをきみにわざわざ伝えるために、私はここまで来てあげたのさ」


 如月が前髪をわざとらしく掻き上げる。お前の目当ては、俺のとなりの席の有栖川だろ。


 有栖川は体操着に着替えて、人のよさそうな笑顔で俺たちを見つめている。


「昨日の対戦相手のクラスは弱かったが、今回ばかりは私たちも呑気に傍観していられないのさ」


「俺は別に負けても――」


 そう言いかけて、口を噤んだ。有栖川の純粋な視線が気になって仕方がない。


「だいじょうぶですわ。宗形くんたちでしたら、一年一組には負けませんわっ」


 ほら、やっぱりだ。有栖川は俺たちが真面目にサッカーの試合に取り組むことを、一ミリも疑っていない。


 冗談が通じない性格って、いろんな意味でけっこう卑怯だ。


「僕たちだったら、だいじょうぶでしょっ」


 いつの間にか俺の席に座っていた艸加が言った。胸を叩いて、無駄に勇壮な顔で見るな。


「宗形と僕と如月の三人でゴール前を守れば、どんなやつらだって通れないよ。でしょ、宗形」


「あ、ああ。そうかもな」


 昨日は早く負けたいって連呼してたくせに、単純なやつらだ。


「じゃあ、そろそろ行こうぜ!」


「そうなのさっ」


 有栖川に見守られながら、俺は引き摺られるように教室を後にする。


「有栖川に見られてるからって、適当なことを言うなよ」


 階段を下りながら不平を漏らしてみるが、


「まあまあ。堅いこと言わないでよ」


「そうさ。きみばかり有栖川を独占して、ずるいのさ」


 あっさり突き返されてしまった。有栖川の独占なんて、俺はしていない。


 一階と二階の間の階段の踊り場で、如月が俺の肩に腕をまわしてきた。


「昨日は、有栖川とどこまでいったのさっ。包み隠さず教えたまえよ」


「どこまでいったって、なんだよ。あの後にすぐ別れて帰ったよ」


「本当なのかいっ? AとかBとか、いったんじゃないのかい!?」


 AとかBって、もう死語なんじゃないのか? 女子に聞かれたら、恋愛偏差値の低さがばれるぞ。


「AとかBって、なんだよ。そんなの、あるわけないだろ」


 如月のうっとうしい腕を引き離した。


「本当なのかい? きみ、親友の私たちに、大事なことを隠してるんじゃないのさ!?」


「隠してるわけないだろ。語尾に無駄に『さ』をつけるな」


 言いながら、有栖川のうちへ遊びに行ったことが脳裏を過ぎった。


 あれは、大事なことの部類に入るかもな。


「きみっ! やっぱり何か隠してるだろっ!」


「如月、声が大きいって!」


 如月に忠告する艸加の声も、めずらしく大きかった。



  * * *



 朝の九時三十分。快晴の下の校庭にホイッスルが高らかに鳴り響く。


 サッカーコートの中央で、一年一組との小競り合いがはじまった。


 サッカー部の部員や、サッカー経験者はうちのクラスにも多い。


 俺にはよくわからないが、高度な技術の攻防が繰り広げられてるんだろうな。


「宗形。油断するなよ。あいつらはすぐに攻めてくるからさ」


「わかってるよ」


 相手チームにまだ攻められていないのに、緊張が走る。


 野球のバックネットのそばに、有栖川とクラスメイトたちの姿がある。


 柚木さんや比奈子は、テニスコートのそばで俺たちの試合を眺めている。


 絶対に負けられない試合だ。プレッシャーの大きさに今さら気づかされる。


「来たぞ!」


 相手クラスのフォワードが前線を抜け出してきた。


 まっすぐに突進してくるのは、村田っ!?


「村田っ、下がれ!」


「お前はディフェンダーだろ!」


 相手クラスのサッカー部員と思われる子たちの怒声など聞きもせず、村田は俺を目がけて突進してきた。


 どうする!? 俺の取るべきコマンドは、タックルか、それともパスカットか――。


「やっときたぜ。この瞬間が」


 村田が足を止めて、不敵な笑みを浮かべる。


「副部長。あんたと真っ向から戦って、完璧に打ち負かしたかったんだ。覚悟してもらうぜ」


 村田が左側にボールを蹴る。抜かせてたまるかっ!


「俺だって、簡単には負けないよ。一応先輩なんだからっ」


「けっ。てめえなんかに、ぜってー負けるもんかっ!」


 村田の前に立ちはだかって前進を阻止する。


 こいつからボールを奪おうだなんて、考えなくていい。こいつの前進を阻止して、後ろまで下がってきたサッカー部員と取り囲めば――。


「ゆずは、ぜってーわたさねえ。てめえなんかに、わたしてたまるかよっ」


 なんで、柚木さんの名前が出るんだっ!?


「宗形っ!」


 一瞬の隙を突かれて、村田に抜かれそうになった。抜かれてたまるかっ。


「くそっ、こいつ!」


「俺だって負けないぞ!」


 柚木さんや有栖川で無様に敗北した姿をさらすわけにはいかないんだっ。


「村田、こっちだっ!」


 相手クラスのフォワードが、コートの左側からまっすぐに駆けてくる。センタリングっていうやつかっ!


 村田のパスを警戒するが、村田は彼をまったく見ていない。


「村田!」


北迫きたさこに早くパスしろ!」


 後ろの仲間から催促されるが、村田はパスするのが嫌なのか、ボールを離そうとしなかった。


 コートの左で様子を見ていた如月が加わって、ふたりで村田を取り囲む。


 村田は、運動神経がいいのかもしれないが、サッカー経験者ではなさそうなので、ドリブルはさほどうまくない。


 サッカー素人で運動神経の悪い俺と如月で、充分に抑えられるやつだった。


 やがて、うちのクラスのサッカー部の部員まで合流して、村田からあっさりとボールを奪っていった。


「くそっ!」


 村田は小学校の悪童のように地面を何度も踏んだ。


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