第108話 比奈子たちと源平無双!
「お父さんもお母さんも夜まで帰って来ないから、みんなでゲームでもやろっか」
昼食のコンビニ弁当を食べ終えた頃に、比奈子がそう言った。
「あ、それいいかもっ」
「でしょっ」
「みんなでゲームやろうっ!」
柚木さんと四橋さんが賛成して、ゲーム大会の開始だ。
「にいのゲーム機貸してっ」
「ああ。ちょっと待ってろ」
みんなでゲームができるなんて最高だ。面白い一日になってきたぞ。
みんなでゲームを楽しむんだったら、源氏無双が絶対にいい。
ふたりで協力して遊べるし、操作も簡単だ。
他には、モンスターバスター――モンバスも楽しいけど、あれは初心者には難しいからなあ。
あとは、みんなでパーティ――みんパーが比奈子の部屋にあったはずだから、これも念のために持っていこう。
あれは小学生の低学年でもできるゲームだし、みんなで遊べるから無難だよな。
二階に上がって俺の部屋にあるゲーム機――ワークステーションのコードをコンセントから引き抜く。
ゲームソフトをパッケージごとワークステーションの上に乗せて持ち運ぶ。
リビングへ颯爽と移動して、少し心配そうに見つめる柚木さんの視線を感じながら、ワークステーションをセットする。
テーブルに置いたゲームソフトを比奈子がつかんだ。
「ゲームは何を持ってきたの?」
「無双とみんパーだよ。お前の部屋から拝借してきたぞ」
「いいよ別に。早くやろうっ」
トレイ開閉ボタンを押して、無双のCDをトレイに乗せる。
「あ、無双やるの?」
「ああ。ふたりで遊べるし、面白いだろ」
「そうだね。無双やるの久しぶりっ」
無双を買ったときは、こいつと夜中まで無双をやってたっけ。
柚木さんと四橋さんは、ソファで並んで座っている。
ゲームを用意する俺と比奈子を呆然と見つめている。
「柚木さんと四橋さんは無双をやったことある?」
「無双ですか? わたしは、まったく」
「あたしは弟がやっているので、何回かやったことがあります」
四橋さんには弟がいるのか。
「四橋さんって弟がいるんだね。何個下?」
「えっと、二個下です」
「二個下だと今は中二か。四橋さんと同じで、おとなしい?」
「い、いえっ。弟は、その、うるさい方、ですからっ」
四橋さんの弟は比奈子みたいな感じなのか。比奈子と並べて比較してみたいな。
「にい、早くっ」
比奈子がコントローラをにぎって待っている。俺とお前で遊んだら、いつもと変わらないな。
「ひなと遊んでも意味がないから、じゃあ、四橋さん。これ」
「あ、はいっ」
コントローラを差し出すと、四橋さんが慌てて受け取った。
「くみちゃんは弁慶にして。僕は義経にするからっ」
「う、うん。わかったっ」
比奈子は、お気に入りの義経を選ぶんだな。
レベルはMAXだから、これ以上戦わせても能力は上がらないが。
弁慶のレベルもMAXだったよな。
レベル十の武器を取るのは面倒だから、武器のレベルは九だった気がするけど、問題は特にないだろう。
柚木さんのとなりに腰かけて、テレビを眺める。
白頭巾を被ったキャラクターが、画面の右側で薙刀を構えている。
武将の選択画面から戦場の選択画面へ遷移する。
「壇ノ浦は敵がうざいから、一ノ谷にしよっか」
「うんっ」
義経と弁慶の組み合わせで一ノ谷を選ぶのは、かなりべただな。
でも敵は強くないから、四橋さんを配慮した良い選択だ。
宇治川の戦いも面白いけど、あそこは木曽義仲が強いからなあ。
「先輩はゲームやるんですか?」
となりの柚木さんが俺に顔を向けていた。
「ゲームはやるよ。人並みにね」
「そうなんですね。知らなかったです」
「小学生のときに、ひなと三人でゲームやらなかったっけ?」
「やったような気がするんですけど、よく覚えていないです」
谷が深いフィールドで、赤い鎧に身を包んだ美形キャラが刀をしきりに振り回している。
兵士の撃破数がみるみる上昇していく。
「ひなちゃんは、ゲーム上手ですよね」
「そうだね。キャラを操作するだけだったら、俺よりあいつの方がうまいし」
「ひなちゃんは反射神経がすごくいいですから、ゲームもきっと上手なんですよね」
「反射神経の塊みたいなやつだからね。アクションゲームはあいつに敵わないよ」
比奈子が、持ち前の反射神経で敵の武将を瞬殺する。
「えいっ、えいっ」
一方の四橋さんは、無双をあまりやったことがないのだろうから、操作がかなりぎこちない。
兵士の撃破数なんて、まだ九人だし。
弁慶はかなり使いやすいし、薙刀の攻撃範囲も相当広いんだけどな。
義経のだいぶ後ろで薙刀を振り回している弁慶に、敵の武将が近づいてきた。
モブキャラの平師盛だ。
「きゃっ、武将が来たっ」
「だいじょうぶ。そいつは弱いから」
「そ、そうなの!?」
難易度が普通でレベルMAXの弁慶だったら、三回くらい攻撃を当てれば武将は倒せるだろう。
「やった! 武将を倒したっ」
「ね。簡単に倒せるでしょ」
「うんっ!」
画面が切り替わって、義経の有名な逆落としのイベントがはじまった。
メインキャラの平教経と平敦盛は強いけど、レベルMAXの義経と弁慶の敵じゃないからなあ。
「無双って、楽しいねっ。弟といっしょにやってるときは、全然楽しくなかったけど」
「協力して遊べないと、しらけるからね。弟が協力してくれないんでしょ」
「そうなの。アイテムとか勝手に取っちゃうし、武将もどんどん倒しちゃうから、全然楽しくないんだもん」
「いっしょにプレイしてるんだから、ちょっとくらいは空気を読んでほしいよねえ」
俺といっしょにプレイしてるときは、お前も空気を読まないけどな。
「じゃあ次は、ことちゃんと、にいの番だよ」
比奈子が差し出したコントローラを、柚木さんが腫れ物にさわるような手つきで受け取る。
「わたし、無双って全然やったことないんだけど」
「だいじょうぶ、だいじょうぶ。にいが手取り足取り教えてくれるからあ」
おまかせください、お姫様。私めが僭越ながらお教えいたします。
「ひなと四橋さんは義経と弁慶でやってたから、俺たちは違うキャラにしようか」
「はい。でも、だれを選べばいいんでしょう」
「ちょっと待ってね」
柚木さんに使わせる武将はだれがいいかな。
美形キャラだったら、那須与一あたりが無難か? 藤原泰衡はマニアックだから、いまいちか。
そういえば木曽義仲の陣営に巴御前がいたなあ。
「柚木さんは巴御前がいいんじゃないかな。割と使いやすいし、女キャラだから」
「はいっ。あ、可愛いですねっ」
武将の選択画面に、長い黒髪を額の真ん中で分けた美女が映し出される。
モデルのように細い身体で長い薙刀を持つ姿が美しい。
巴御前は義経に次ぐ人気キャラだ。
動きは少し癖があるけど、俺が木曽義仲を操作するときに比奈子がよく使っていた。
「じゃあ俺は木曽義仲だな」
弁慶のような巨体に、義経と同様に赤い鎧に身を包んでいる。
けれども兜は被らずに、無造作なウルフカットヘアを晒す姿が荒々しくてかっこいい。
木曽義仲は、弁慶を超える最強キャラだ。
どちらかというと悪役キャラだけど、三国志の呂布のように強いキャラだから男性プレイヤーから絶大な支持を得ている。
「にい、木曽義仲にするの? 木曽義仲って最強じゃん」
「いいだろ別に。お前だって義経にしてたじゃんか」
「つまんないの。にいは、受けを狙って清盛とかにすればいいのに」
後ろで不平を漏らす比奈子さんを見て、柚木さんが強張った表情をわずかに緩めてくれた。