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璃理恵の翼  作者: 植村夕月
第1章 璃理恵に穿たれた楔
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7.大熊院邸より 

 7、大熊院邸より 


「雀崎さま、当主も間もなく参りますので少々お待ちください」

 女中は居間で正座しているアタシにそういうとそそくさと奥へ下がっていった。

 アタシは今町一番のお屋敷に来ている。このお屋敷は二百年ほど前に建てられたそうだ。名は大熊院といって、数百年つづく家系だそうだ。

 大きな家にお手伝いさんが何人もいて、アタシみたいな人間がこんなたいそうな家にいることがおかしいのだ。

 アタシは今から望む庭園を眺めて息を吐いた。灯篭が一つ大きな池に沿うようにしてあり、池には赤い太鼓橋というほどではないが、傾斜のある木製の橋が架かっていた。もみじが数本、その下を砂利が敷き詰められている。

 専属の庭師でもいるのだろうかって、ふと思った。

 廊下から足音が近づいてきたので、アタシは背筋を伸ばす。

 アタシが座る左側の廊下より、オールバックで着物姿の男性が姿を現した。男性はお辞儀する。

「お待たせした、雀崎殿」

「い、いえいえ。滅相もございません」

 およそ四十頃のその男性は、私と向かい合うように腰を落ち着けた。

「さて、すでにご存じかと思いますが、私、大熊院家当主、大熊院影平と申します。なにとぞよろしく」

「い、いえ。わ、私は雀崎飛燕すずめざき ひえんと申します。こちらこそよろしくお願いします」

 アタシは慌てて頭を下げる。

 丁寧語、尊敬語とか普段使わないような言葉だけど、アタシ、まちがってつかってないやろなあ。むちゃ心配やで。て、いうか、思った以上にあがってもうとるがな。

 アタシは心を鎮めるために、瞳を閉じて深呼吸した。

 若干心の余裕を取り戻したアタシは、今日ここへ伺った理由を影平さんに話す。

「早速、本題に入りたいと思います。経験の浅い私では、どうしたものかわからないモノで」

「ほぉ、戦闘のプロフェッショナルである雀崎殿が、どういったことで」

 アタシは影平さんに向ける視線を細める。

「あなた方のほうで預かっていただいている少女の母親、柳原霧子に関してです」

「瘴気に憑りつかれ、柳原璃理恵を殺めた女ですね」

 大切な友人の母親がこれからどういう扱いを受けるのか、アタシは心配だった。警察が解決できない、非科学的な犯罪に対して対応できる彼等には彼らなりのやり方がある。その方法は法律によるところではなく、あくまでも自分たちのルールに従っているのだ。

「私は化け物相手が専門でして、瘴気に取り付かれた人間への対処法は分からないのです」

「なるほど、そういうことですか」

 影平さんは私のひざ元に目をやると、「おや」と小さくつぶやく。そして両手を叩いた。女中が廊下より現れて居間の前で正座し頭を下げた。

「雀崎殿のお茶が冷めてしまっている。温かいのに入れ替えて差し上げろ」

「畏まりました」

 女中がアタシの前に置かれたお茶に手を伸ばそうとする。

「あ、結構です。お気遣いありがとうございます」

 アタシは余計な気を使わせるのは悪いと思って、慌てて止めた。十代後半だろう、髪を綺麗に結った女性は軽く会釈して居間を出ていった。

「雀崎殿、何かございましたら遠慮なさらずに」

「はい、ありがとうございます。それで、柳原霧子に関してですが、彼女の存在自体が町の不安定化をもたらしています。どうなさるので?」

 影平氏は湯のみを口元へ寄せて傾けた。熱いのだろうか、ずずっと音を立てている。それを口から離すと、しばらく、湯呑に視線を向けていた。しばし沈黙ののちに、彼は口を開いた。

「まず、瘴気に取り付かれた人間には速やかに除霊を行うのがセオリーです。しかし、このように町など、広範にわたって影響を与え、よもや災害の原因にすらなりえる存在は、除霊が難しいです。もし、第三者の呪いによって、ああなったとしたら術者を洗脳し、その状況を解呪させることができます。

 しかし、自然発生的なものなら、最高位神官によってのみ除霊が可能でしょう。ただ、それも場合によります」

 アタシは考える。

 霧子さんが瘴気に好まれ、自然的にそうなってしまうような原因を。少し考えればすぐに思い当たることが出てきた。

 いやあ、でも家庭内不和とか、離婚なんてそこら中であるようなことやし、そんな程度ではここまで酷いことにはならんやろうなあ。なら術者かなあ。まあ、どちらにせよ最高位神官なら両方に対応できるゆうことやろ。

「最高位神官の除霊は、可能ですか?」

 アタシに向かい合うオールバックの男性は眉間にしわを寄せ、唇をキュッと結ぶ。

「最高位神官は、滅多なことがない限り表に出てこんのです」

 最高位神官の力を得られない。そうなると封印という手段が出てくる。

 アタシは唇を噛みしめた。

 鉄の味がほのかに口の中に広がった。

 


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