6、無人駅にて
6、無人駅にて
璃理恵は山の最寄りにある無人駅前に降り立つと翼をたたんだ。初めてとんだとあって、着地は酷いものだった。雀崎は、ある程度地面に近づくと璃理恵の足首から手を放し、勝手に降りていった。
俺は璃理恵に抱えられていたから、降りるタイミングを失っていたために足を地面に擦ったのち、顔から盛大に地面にダイブすることとなった。
『時雨クン、大丈夫?』
俺は顔に言突いた土を払た。ところどころ擦りむいたのだろう。手で触れた部分が沁みた。
「うん、まあ、何とか大丈夫だ」
俺は地面から顔を上げた。目に入ったのは裸電球によって照らされたくらいホームだった。改札横には駅員室があるが、窓口はカーテンでとじられている。無人駅で、利用者も特にいない。
券売機で切符を二人分購入。一つを雀崎に渡す。改札を通った後、閑散としたホームに設置された、長椅子に俺たちは腰を下ろした。
そして俺は、璃理恵を挟んで座っている雀崎に目をやった。
俺と璃理恵が襲われた際に、雀崎はどうしてこうもタイミングよく現れたのか。少し気になった。自宅から数十分離れたこんなど田舎で、偶然にもばったり会うなんてことはないだろう。それともなにか。陰陽師とはいかないが、幽霊とかそういうものに関わっている奴は、友人など親しいものの危機を察知することができるのか?
だけど、まずは。
「助けてくれてありがとう。雀崎がいなかったら、俺たちどうなっていたか」
本当に、雀崎に助けられてばかりだな。
雀崎は唇を尖らせて、そっぽを向いた。
「べ、別に感謝なんて必要ないやん。当然のことをした。そんだけ、うん、そんだけなんやで」
「ところで、話は少し変わるが――」
俺は照れているのだろうか顔を赤くして目を合わそうとしない彼女に半眼になった。
「なんでこんなタイミングよく、助けに来ることができたんだ? 助けてくれたことは本当に感謝しているけど、その部分が気になってな」
率直に尾行してましたかって聞きたい。後を付けられていたとしたら気分は少し悪くなるとして、それならそれで仕方なくも思う。今の璃理恵と俺の現状を鑑みれば仕方ないことだ。それに気分がいい悪いにかかわらず、助けてくれた人に対してそんなことを聞くのはあまりに失礼だろう。それに人を疑ってかかるような奴ではありたくないし。
でも、気になるものは気になるのだ。疑問は早めに解消してすっきりすべきだ。
雀崎は俺に対してしょんぼりした表情を見せた。
「うーんと、実はな、悪いことやとは思っていたけど二人の居場所を察知できるように、ある細工を施させてもらってん」
「細工?」
俺は雀崎の言葉に首を傾げる。
雀崎はこくりと頷いて話をつづけた。
「璃理恵を公園で見つけた日の夜、二人に出したお茶に願を込めたんさ」
雀崎曰く、お茶への願というのは自身の霊力を液体に混ぜ合わせたという事だそうだ。そもそも霊障を発現させる元は瘴気にあるそうだ。瘴気とは山や森の清らかな水によってあらい流され、一所に溜まるものではない。しかし何らかの異常をきたし流れが止まれば、瘴気は蓄積されて、生者と死者を隔てる壁に影響を与える。
しかしそれを洗練することによって、害を取り除いた霊力は出来上がる。また水によって流される性質、留められる性質は引き継がれる。
そして霊力をとどめた水(お茶)を呑んだことによって俺の体内に雀崎の霊力が取り込まれた。
「えーと、つまりは雀崎が俺の体内に発信機みたいなものを入れたという事?」
「ちょっと違う。発信機は特定の場所を電波で発信し続けるのに対して、私のしたことは、高濃度の瘴気に触れた際、花火のように一瞬にして豪快な信号を送れってもんやね。不器用なアタシからしたら、膂力以外何もないし――」
雀崎が話している途中に、携帯の着信音が鳴り響いた。無機質なベルで、それは雀崎の携帯によるものだった。
彼女はスマフォ画面より発信者を確認してから、電話に出た。
俺と雀崎の間に座っていた璃理恵はいつの間にやら、姿を消していた。とはいってもどこかへ行ってしまったとか、俺たちから離れていっているのではない。俺の中に還っていたのだ。
通話を終えた雀崎は、スマフォをポケットになおすと拳を膝の上に置いてシュンとしていた。
彼女の目はうるんでいる。
俺はどうしたんだって、彼女の肩をつかんで問うた。
彼女が何かに動揺するなか、通過列車を知らせるアラームが構内に鳴り響く。
「リリーを、こんな目に合わせた奴が、分かった。分かってんけど、その人は――」
雀崎が話す最中、列車が通過する。
結局、聞き逃してしまった。