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璃理恵の翼  作者: 植村夕月
第0章 翼を手に入れた少女、璃理恵
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2、居候の璃理恵 NO1

夕月です。こんにちは投稿が若干遅れてしまいました。ごめんなさい。今回は量も少なめとなっております。

2、居候の璃理恵


 璃理恵が目の前にいる。

 在りし日の可愛らしい笑顔で俺を窺っていた。俺はこの現状を到底理解できなかった。だから都合のいいことを考えた。というのも俺は璃理恵の遺体を直接この目にしているわけではない。もしかしたら彼女が死んだというのは、酷い冗談で本当は今も元気に生きているんじゃないか。出ないと目の前の人物に関しての説明がつかない。

俺は頭が混乱していた。その最中に璃理恵は口を開いた。

「時雨クン、やっと来てくれたね。お願いがあるんだけど、私を助けてください」

 璃理恵の言葉に一番に反応したのは、雀崎だった。彼女は璃理恵に詰め寄って、現状に関する疑問をぶつけた。彼女の存在に対する究極的な疑問。

「ちょっと、それはどういうことやねん。あんたは昨日死んだ。それは間違いないねんで」

「うん、私は死んじゃった。だってものに触れられない時点でそうだもの。ただ、ずっとここから動けなくて、周りからは変な気配も感じるし、怖くて」

 雀崎は璃理恵の言葉にとにかく冷静になって聞こうとする。そして何か納得した様子で公園内の様子を調べ始めた。公園内を隅々まで歩いて、地面に触れてみたり、匂いを嗅いでみたり、耳を地面にくってけて何か聴こうともしていた。

日は沈んで影がより一層濃くなっていく。それと同時に、璃理恵の表情も苦しげなものへと変化していった。そして地面へ崩れ落ちる。

「おい、璃理恵!」

 俺は彼女に駆け寄った。地面に倒れ込んだ璃理恵を抱きかかえて、必死に話しかけるも反応しない。あまりしたくはなかったが、痛みを与えて意識を覚醒させようとする。ほっぺをつねったり、つむじをぐりぐり押し込んだりした。

 俺は必死になっていた。背後から足音が聞こえるので、雀崎が来たのだろうと考える。

「シグ、あんたはリリーが見えるだけじゃなくて、触れることもできるのか?」

「何言って?」

 正直雀崎が言っていることは理解できなかった。ただ次の言葉で、俺は正気に戻った。

「リリーはもう死んでしまってるんや。それやのに、なんでその子と話ができるんや、どうして普通に触れることができるんや。あんたが今やっていることがいかに異常か認識しなあかんで」

 俺は自身の異常を雀崎によって知らされる。彼女をゆっくりと地面に横たえると、俺はこれからどうするべきか彼女を窺う。璃理恵は難しそうな顔を浮かべた。

「リリーの周りをじっくりと見つめてみた?」

「いや、璃理恵ばっかり見ていて、その気付かなかったが、この黒い奴は?」

「霊を地面に縛る鎖や。この土地は周りに比べて瘴気が濃いみたいや。どうもここで死んでしまったんは難儀やで。ほっといたら地縛霊になってしまう。その前に助けたらな」

 現状を淡々と説明する雀崎。俺は兎に角彼女の言葉を理解しようと必死になる。イレギュラーなことが起きすぎて脳の処理が追い付かない。頭の中がもうごちゃごちゃだ。璃理恵はそんな俺を察してか説明することをやめた。

 そして彼女は俺を後ろの方へやると、左手親指を噛み切った。さらに彼女はポケットからハンカチをとりだすと、それを斜めに引っ張る。大体三十センチくらいになったそれに、じっくりと血を染み込ませていく。ハンカチは真っ赤になった。

「さて、どのくらいの切れ味か」

 雀崎は舞い落ちてきた葉っぱをそれで横に薙ぐ。すると葉っぱは真っ二つになった。彼女はそれを見ると何かに納得したように頷いた。そして璃理恵のほうへ駆け寄って彼女の四肢と胴、首に巻き付いた真っ黒い綱というか鎖を断ち切っていく。

 拘束から解放された璃理恵は地面に倒れ込んだ。

 しかし璃理恵を逃がさない、とでもいうように地面からは無数の黒い縄が飛び出す。数は十数本、一斉に璃理恵を襲いにかかる。雀崎は彼女の前に出ると、紅いハンカチで華麗にそれを切断していく。しかし黒い綱はいくら切っても地面から湯水のごとく湧き出てくる。

「まったく、キリがないやんか。こんクソが」

 雀崎が毒づいたその時、璃理恵を中心に黒い渦が巻き起こる。俺は雀崎のでたらめな能力に言葉もなかった。ただ目の前で起こっていることに見ているだけしかなかった。そしてそんな自分を恥ずかしく思った。いや恥ずかしい、そんなものとは違う。自分が無力であることに悲しみと怒りを感じた。璃理恵の相談を受けた時も何一つすることができなかった。親友の苦しみを分かつことすらできず、面倒だから、彼女の話をちゃんと聞かなかった。また前の繰り返しにするのだけは絶対に許さない。今度こそ、ちゃんと助けてやるからな。

「雀崎、俺もいることを忘れてるんじゃないか」

 俺は立ち上がろうとするも、恐怖で動けない。口の中を噛み切って一瞬だけ、それから逃れると、俺は璃理恵のほうへ走っていく。あの黒い渦からアイツを引っ張り出さないといけない。でないと、絶対だめだ。根拠なんてものはない。ただ、直感がそう告げていた。

 俺は璃理恵のもとへ走り寄ると後ろから抱きしめる。そして彼女を渦の中から引っ張り出そうとする。ありったけの力を込めて、外へ外へ出ようとする。

 しかし、渦が俺たちを中のほうへはじき返す。外から中へは入れたのに中から外へは出れない。一方通行。

 どうしようもなくなった俺に対して、ある人の声が聞こえた。

「時雨クン、私のためなら魂だって犠牲にできる?」

 璃理恵の弱弱しい言葉。俺は彼女の言葉に何ら迷うことはなかった。

「構わないさ。お前を助けてやる。どんな手段を使っても」

「ありがとう」

 璃理恵は静かに俺に抱き着いた。

 渦の外で雀崎が何か話している。よく耳を澄ませた。ビュービュー吹く風の音が邪魔だ。消えろよ雑音。そう思った時だ。雀崎の言葉が俺の耳にダイレクトに伝わってきた。

「シグ、アンタの心の中でアンタとリリーが共生しているイメージをして。自分という人間に、もう一人の人間の魂を飲み込んでいくように。肉体という器に入った自分、そしてそれにリリーが新たに入ってくるイメージや」

 俺は言われるままに、イメージした。胸の中で静かにしている璃理恵。俺は彼女をありったけの力で抱きしめる。温もりを感じる。髪の毛はさらさらとして、艶があった。甘くて優しい匂いが鼻をつく。彼女の特徴の一つ一つを一身に感じ取っていく。そしてぼんやりと彼女と俺が一体になるイメージ。ゆっくりとゆっくりと溶け込んでいくように。

 彼女が俺の胸にスーと入っていく。接地面からは強烈な熱が発生する。炎のような暑さに強烈な痛みを感じるも歯を食いしばってそれに耐える。しばらくそれに耐えていると、璃理恵は完全に俺に中へと入ってしまった。胸の中はいっぱいだ。なんだか中身があふれそうな気分になる。きわめて不快だ。

 平衡感覚が失われて俺はその場に倒れ込む。俺の周りにあった黒い渦は霧散した。ぼんやりする視界から、雀崎が走り寄る姿が映った。その姿が最後だった。


 俺と璃理恵は綺麗に色づいた木々に囲まれて山道を歩いていた。他に人らしい姿は見えない。鳥や動物の泣き声も全くしない。ただ、風の音だけは聞こえてきた。

「綺麗だな」

「そだねえ。でもさ、何だか死んでしまったような気がしない」

 璃理恵の言葉の意味が分からず、俺は首を傾げた。

「ほら、動物の気配が全くなくて、ただ綺麗な景色だけがある。まるであの世っていうのかなあ。あ、ほら見てよ、鹿」

 璃理恵が指差した先には、首から血を流すし鹿が横たわっていた。よく見れば赤くきれいだと思っていたものはいろいろな動物の血の色だった。先へ進めば進むほどに、鳥のし甲斐が地面に落ちている。

 そして、人間。

 死屍累々。血だまりが至る所にできている。鉄臭く酸っぱい臭い。あまりの光景に俺は吐き気を催した。

「あれえ、どうしたのかな?」

 隣で璃理恵が心配そうにのぞき込んだ。そんな彼女の顔がグズグズになって崩れ落ちる。最後には骨だけとなった。

「う、おえええええええええええええ――」

 おう吐した後、俺の視界は暗くなっていった。


最後まで読んでいただいてありがとうございます。次回投稿に関してですが、一週間程度を予想しております。早ければ3日以内を考えております。よろしくです。

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