表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
璃理恵の翼  作者: 植村夕月
第1章 璃理恵に穿たれた楔
29/31

28、決戦 NO1

   決戦 NO1


 俺は他生徒や教師に見つからないように、裏門からこっそりと抜け出した。

 通りをくるりと見渡すと、雀崎をすぐに見つけることができた。彼女は今朝と違って私服姿となっている。

 俺は彼女のもとへ走った。

「体は大丈夫か?」

「まあまあやな。それより、大体のことは予想できる。ただ確認のために、新宮から聞いた話、私に話してくれへんか」


 俺たちは走りながら、状況を説明した。走りながらしゃべるというのは本当に辛いが、今はそんなことを言っていられなかった。説明を聞いていた雀崎はスマフォの地図アプリを開く。

「情けない話や。情報のソースを一つしか持たんアタシからして大熊院はありがたかった。そしてあいつは、何の疑いもなく話を信じてくれるアタシの存在が都合がよかった。結果として、アタシは利用されたか」

 雀崎は大熊院に騙されたことがかなりこたえているようだ。

 怒り故に、眉間には深いしわができてしまっている。

 雀崎が騙されたことは、分かった。ただ、疑問に思うことがある。どうして彼女をだます必要があるのか。大熊院が璃理恵とその母を瘴気の蔓延者、災禍の因となりうるものと言って拘束することに何の利がある。

 横断歩道で信号につかまってしまう。

「お前は騙されたことばかりを悔いているが、そんなものも俺からして自己満足に見える。奴らはどうしてお前をだましたのか。そうすることによって何が得られるかを考えないといけない。そうしないと状況の根本的な解決には程遠いぞ」

 雀崎は自身の顔を両の手でパシンと叩く。

「そやな。しっかりせんとあかん。まずやつらの目的を考えよか。

 まず、大熊院は璃理恵と霧子さんの両方を封印しようとしているみたいや。そうすることで、身体の自由を奪える。ただ、それをするには、相応の理由が必要。その理由を第三者である私が保証するという事やろう」

 信号が青になり、横断歩道を渡る。

 雀崎の先導で、たどり着いた場所は道の両方が竹林となっており、侵入を防ぐように古風な土塀がそびえている。

「対して霊力も神性もないもんにそこまで執着するなんて、陰陽師とかそういう役のもんからして意味のないことや。それらを抜きにしても、捕らえる必要なんて、もう個人的なもんやな」

 道路に黒塗りの車が、走ってくる。

「奴さんがきよった」

 俺は雀崎の傍らによる。

「俺も闘う。俺がいながらにお前をあんなふうに傷だらけになんて、もうさせたくない」

 雀崎は、ふっと笑う。

「なかなかかっこいいこと言ってくれるやん。昨日あんたが両の手に光を携えていたのを見た時から、アタシらと同じ才能があると思った。でも釘はさしとく。ヤバくなったら逃げろよ」

「バカ言うなよ。女の子一人置いて逃げれるかよ」

 陰陽師同士の戦いが始まるかもしれない。そんなところへ俺の同行を許したということは、少なくとも俺を戦力として見てくれている。足を引っ張らないように立ち回らないと。

 心の中へ問いかける。

『璃理恵、力を貸してくれ』

『はい。いつどんな時も時雨クンの助っ人になりますよー。私の翼をどんどん使って』

 元気はつらつな少女の声を聴いて、少し緊張がほぐれた。

『ありがとう』

『あ、車が止まったよ』

 璃理恵に指摘され、目を開く。

 黒い車の助手席から大熊院影平が降りてきた。運転席の男はぐったりとしている。後部座席にも誰か座っているようだ。

「さて、雀崎殿。一体どうなされたのです?」

「どうもなにも、アンタらを止めに来た」

 雀崎の言葉に苛立たし気な顔をする。

「封印の邪魔をする、という事ですか。私たちは純然たる職務遂行を旨として、行動しています。それを邪魔されるいわれはない」

 雀崎は大熊院のふてぶてしい態度を腹立たしげに見ていた。

「私をだましておいてよく言う」

 車の奥部座席より、青いテンガロンハットに黒のスーツ。金ぴかのネクタイにピンクのマントを羽織った男が出てくる。強烈な印象と不愉快さゆえにその男をすぐに思い出した。

「ルート・バンカー!」

「ああ、あア。よく覚えていらっしゃいました。神原時雨サン。ワタクシ、ワタクーシ、大変うれしくおもいまス」

 仰々しく首を垂れる男は、やはり顔色が悪く、地面を擦れるほどの赤い髪に眉が緑で唇は割れていた。

「なんでお前が、大熊院と同じ車に」

 俺の疑問に答えることなく、不健康ななりをした男は雀崎に目をやった。

「ああ、これはこれは。お会いできて光栄です。『鮮血の飛燕』」

 ルート・バンカーの言葉は彼女にとってもっとも言われたくなかったモノらしい。歯をむき出しにして、目は充血していた。

「貴様、アタシの忌み名をよくも言ってくれたな」

 雀崎は、刀袋を開き柄を握る。そして刀を一気に引き抜き、ルート・バンカーめがけて走り出した。しかしその男の前を、大熊院影平がふさぐ。雀崎の振るわれる刀は、影平のドスによって受け止められる。

 気が付くと俺は、右手に扇子を握っていた。

 この扇子は昨日初めて手に入れた。実体、非実体化が可能なものだ。どうしてかわからないが、この扇子の使い方を知っている。

 俺は扇子をもって構える。

「やれやれ、血の気の多い人ダ。そんなことだから『鮮血』なんて名前をつけられるんですヨ」

 鬱陶しそうに雀崎を眺めた後、ルートバンカーは俺に気味の悪い笑みを浮かべた。

「神原時雨サン、ワタシはあなたに会いたかったのですヨ」

「俺は会いたくなかったぞ」

 俺はルートバンカー目がけて、扇を仰ぐ。

 扇からは強烈な風が発生し、周囲の砂埃を舞い上げる。風の威力はそれだけでなく、塀の瓦を吹き飛ばした。車が横転する中、ルートバンカーは飛ばされないよう、左手に持った四、五十センチの大きな針を地面にさしている。

「ほほう、目覚めましたネ。嬉しい、うれしい。ウレシイデス。やはり神性保持者は違ウ。何としても手に入れたいものでス」

「何のこと言ってんのか、さっぱりわからん」

 こんな奴の言葉に耳を貸す必要なんてない。早くこいつを倒して、雀崎を助けないと。

「ものを考える暇なんて、あげませン」

 ルートバンカーは肉薄すると、右手の大きなはさみで俺の腹に突きを入れる。反応が遅れた。避けるだけの時間的余裕はない。目が腹に近づく針を捉える。

 もう刺さる。

 そんな時だった。

 背後から強烈な力で引っ張られた。奴からの難を逃れた俺は、後ろを見やる。すると白くて眩しい翼が生えていた。すぐにわかった。これは璃理恵の翼だと。俺の体が動かないから、璃理恵が翼で俺を動かしてくれたんだ。

『璃理恵、ありがとう。助かった』

『一人で戦っているんじゃないよ。私だっているんだから。……力を合わせれば、あんな奴になんかに私たちは負けない』

『ああ、そうだな』

 俺は璃理恵を頼もしく思う。俺の足りない部分は、彼女が補ってくれる。

「ルートバンカー。俺は、お前なんかに負けない」


 おかしい。

 あの赤髪不健康男もといルートバンカーは、俺の攻撃を避け続けている。激しく動き回っているにも関わらず、あの男は全く疲弊している様子なんてなかった。むしろ表情は一種類、俺と顔を合わせた時の不気味な笑みのままだ。

「おやおヤ、あなたの風はただの扇風機ですカ? とても快適でス」

「ふざけやがって」

 俺はルートバンカーの挑発に乗って、風の刃を無数に放つ。

 アスファルトは、俺の正面から扇状に切り裂かれ、土塀をも叩き壊した。

 扇を何度と振るっていくうちに、奴は癖を見切っていった。風の刃をぎりぎりで避けて肉薄、俺が羽で後ろか上に飛躍することも見通していたみたいだ。

「くそっ」

 奴のハサミが俺の胴体目がけて突き進む。

 避けることは叶わず、そのはさみは俺の胴、端の肉を削り取っていく。

 それだけじゃなかった。俺ははさみの状態を見て、一気に脂汗が出た。恐怖心が湧き出て、血の気がサーと引いていく。

 ハサミは開いていて、俺の左腕を挟む形をとっていたのだ。

 ルートバンカーは、血走った眼をぎょっと開く。

「さあさア、鮮やかな赤ヲ、温かな血ヲたくさん見せてくだサーイ」


 !?


「きぃひゃはハハハハハ、愉快愉快、どうでス? 痛いですカ?」

 狂人は一際大きな笑い声をあげた。

 その様子を見た雀崎が泣き叫ぶように俺の名を呼んだ。


「シグぅ――」

 

「じゃまじゃ、どけやコラ」

 雀崎は、影平のドスを刀ではじくと柄で顔面を思いっきり殴りつける。そして自分の血を目一杯刀に塗り付けると、それを真上に構えて振り下ろした。

「鮮血の飛燕!」

 ルートバンカーは、彼女の様子に驚きを隠せない。

 斬撃は真っすぐに俺たちのほうへと向かってきたように見えた。しかし、それは俺の前を素通りする形となった。恐らく前の男は、これによって見る影もなくなっているだろうと思う。

 高さ十メートル、距離数百メートルの斬撃が放たれてすぐ、雀崎は俺に駆け寄った。地面に転がる俺の腕を回収して。

 雀崎は、パーカーをを脱いでおもむろに引き裂く。裂いた布を俺の左腕切断面より上にきつく巻き付ける。

「クソ、出血が全然治まらへんがな」

 雀崎は俺の腕を見て泣きそうになる。

 血が出すぎて死にかけているのか、痛みが酷すぎるのか意識は妙にしっかりしていた。

 俺は埃が舞って見えない前方のほうへ注意を払う。

 あの不健康ででたらめな男は、新宮の炎で焼かれたはずなのに死に耐えることはなかった。

 雀崎の鋼すら引き裂くような斬撃を奴は真正面から食らったはずだ。なのに、新宮に助けてもらった時を考えたら、奴が死んだなんて到底思わなかった。

 案の定、土ぼこりが消えていくにつれあの男が姿を現した。服はズタズタになって、地面を擦っていた髪が肩辺りまで切れていた。そんな状態ですら、男は笑っている。

「ハア、ハア、まったく恐ろしい女ダ。新宮愛華ほどではないにせヨ」

 ルートバンカーがブツブツ何かを言っている。

 そのずっと後ろ、横転した黒塗りの車の傍で、ぐったりしていた大熊院影平が突然発狂しだす。よたよたと数歩ふら付いて、頭を抱えたまま膝をつく。

 ルートバンカーはその様子を見て、苦々しい表情になる。あの男の数少ない表情の変化だ。雀崎もその変化に驚いていた。

「く、マズイ。呪いが解けかけている。影平、思い出すのでス。あなたの心を縛り、苦しめたあの女たちのことを! さあ、瘴気に身をゆだねるのでス」

 ズタズタのテンガロンハットをかぶった赤髪の男が声高に叫んでいる。俺はそれの意味を解することができない。ただ、影平は男の言葉を聞けば聞くほどひどく苦しんでいた。


「五月蝿い。五月蝿いぞ。この亡者めが!」


 影平の鷹のように鋭い眼光がこちらを向く。

 すると、体中の力が一気に抜けた。目の前は徐々にぼんやりしていく。瞼は重く、強烈な睡魔がおそった。それに抗おうとするもむなしく、視界は黒に染まった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ