24、Research3
「ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎに……、なあ、牛肉ってどこに売ってんやったっけ?」
「牛肉売り場はこことは反対側の位置にあります」
私はカートに乗せたかごに、食材を放り込んでいく。新宮愛華は何かブツブツと呟きながらも、私の買い物を手伝っていた。
「私はなぜ、あなたの買い物に付き合わなくてはいけないんでしょうか?」
「荷物持ちにちょうど良かったんが、愛華やったから」
新宮愛華は眉間に手をやって、やれやれと言った様子だ。
うふふ、この綺麗な新宮愛華の眉間にこのまま深いしわが刻みついてしまえばいいのに、なんてあくどいことをほんの少しは考えた。さすがにこの子は同性から見ても腹が立つくらいに綺麗だ。
男が十人通れば十人すべてが振り返るような程。
「ああ、嫉妬しすぎでおかしくなりそうや」
ぼそぼそっと聞こえないようにつぶやいたつもりだった。なのに、どうやら彼女には聞こえていたみたいだ。手をほっぺに添えて嬉しそうにしている。
「ええー、私が美人ですって、嬉しいことを言ってくれるんですね」
私はテンションが絶賛上昇中の彼女をジト目で見ていた。
「誰一人として、そんなことを言っていないんやけどなあ。ドーんな調子のいい耳してはるんやろうか。羨ましいわ」
新宮愛華は私の嫌味なんて、微塵も気にする気配はない。ただ微笑んでいた。
食品の購入が終わると、私たちはしばらくデパートの中で服やらCDやら電化製品を見ていた。なかなか興味のあるものが目に入ると、それをじっくり見たくて仕方ない。そうやって余計なことに時間を割くから、女の買い物はとても長いなんて言われるんだろう。
「長くて何が悪い!」
唐突に叫び私に、愛華は体をびくっとさせて驚いていた。
「どうしたんです。いきなりそんな大きな声を出さないで下さいよ。心臓に悪い」
「いやあ、買い物が長い長いって、家族の男共がよく言うんやけどさ、別に大した事ちゃうやんって思ってな」
「それであの下りですか」
愛華は嘆息する。
彼女の両手にはそれぞれ、びっしり中身が詰まったビニール袋。野菜とか重いモノばかりだ。
「あなた、遠慮がないから男性にそんなことを言われるんでしょ。こんな荷物持たされる身になれば、その発言をする者の気も少しは理解できます」
「あはは、悪い悪い」
「ところで」
私は言葉を区切って、愛華の目をじっと見つめた。先ほどまでの緩い空気がどこかへ消えてしまう。そして残るのは、ピリピリしたこの雰囲気。
「巫女さんとしての愛華は、今回の不浄騒ぎにどう動く気なん?」
愛華の顔から、先ほどの優しい表情は消え失せて、酷く冷たいものへとなった。
「なんだ、今日誘ってくれたのは、結局このためだったんだ。ちょっと残念」
「バカ言うな、話するだけちゃう。荷物持ちは本当に必要やったし」
「そ、それは本音なんですね。なんかムカつきますけど、まあいいでしょ」
私が愛華にデパートへ誘った。
彼女はそのことを単純に友人としてのことだと素直に思ってくれていたんだ。私はその期待を裏切ることになって、申し訳ない気持ちで一杯だ。
立場の垣根を超えた友人関係というのは難しい。
「ハア、この荷物持ちの借りは今度一緒に遊びに行くことで帳消しですからね」
「わかったよ」
私のマンションにつくと、荷物を台所に置いた。愛華にはリビングにある椅子に座ってもらっている。
「はい」
愛華の前のテーブルに紅茶を置いて、私は向かいに座る。
「で、巫女としての私の今後の方針を教えてほしいんでしたね」
「うん」
「想像ついていると思うでしょうが、私たちはぎりぎりまで動きません。社と周辺、ご神体に影響が出ない限りはね。ただ、鳥居の中にアレが入り込もうものならその元凶は排除します」
淡々と話す少女。
彼女の話の中で気になった言葉、「元凶」の排除。およそ検討はついているが、念のために聞いておく。
「それってどういうことや?」
「柳原霧子の抹殺ですよ。あなたたちはのんのんと瘴気の抑え込みなんてことをしているみたいですけど、元を絶たないと解決なんてしませんよ。甘いあなたなら、霧子を助けたいなんてことを考えて、向こうに働きかけているでしょうけど、私たちはそうはいかない」
彼女は話し終えると、席を立った。
「あなたから弁明を聞くつもりはありませから。では」
彼女が家を去った後、私は彼女のために用意した口のつけられていない紅茶のカップを手の甲で飛ばす。机の下に落ちて、瀬戸物が砕ける時、特有の甲高い音が耳に入り込んでくる。
やっぱり、こうなってまうか。どないしよ。大熊院は彼女を保護してくれるやろう。でもアイツが割り込んできたら、命の保証ができひんがな。




