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璃理恵の翼  作者: 植村夕月
第1章 璃理恵に穿たれた楔
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22、雀崎飛燕の想い NO2

   雀崎飛燕の想い NO2


 図書室にて、ガムテープで封をされた段ボールを開いていく。寄贈品だろうか、中にあった本は、日に焼けていた。

「この段ボール三箱分の本をいったん全てぶちかましてくれへんか」

「わかった」

 箱から取り出す本はバリエーションが豊かだ。

 純文学小説に、文芸評論書、哲学に経済学やらなにやらの新書といった具合だ。

「雀崎って本とか読む?」

「そりゃあ、読むことは読むけどさ、それは小説に限った話やな」

 俺は経済学の新書を彼女にちらつかせる。

「こういう学問書とかは読まない?」

「そういうのは読まんなあ。一回興味本位で読んでみたことあったけど、すぐに閉じたことは覚えてるわ」

 梅干を食べた時みたいな顔をさせている雀崎がおかしくて、笑ってしまった。

「な、何がおかしいんや?」

「いや、本一冊でそこまで苦手意識を露骨に表さなくてもいいのになって思って」

「フン」

 雀崎は不機嫌そうに鼻を鳴らして顔を背けた。なかなか彼女の反応が面白くてついついからかってしまいたくなる。

「シグ! 手が止まってるで。ぱっぱとするよ」

「はいはい」

 俺たちはせっせと箱から出した本にバーコードを貼っていった。

 日が暮れたころには新しく棚に並べる本のバーコード貼りもほぼ終わっていた。

 作業が一段落ついた俺たちは、本棚の直ぐ横に置いてある読書、勉強用のテーブルの椅子で休んでいた。

「疲れたなあ」

 雀崎は深く息を吐いた。

「もともとこの作業を全部一人でやろうとするとか、無理があるぞ」

「はは、ホンマやなあ。シグに手伝ってもらって大分助かったで。……ありがとう」

 普段から仏頂面の雀崎が、珍しく笑みを浮かべている。その上で酷く畏まった様子でお礼を言われたものだから驚くのなんの。

「そんな、別にいいって」

「こうやって、自分がなしたことの成果に鼻を掛けるようなこともしない。お前は無類のお人よしや」

 太陽の残光が、部屋の中をわずかに照らしている。部屋の中を舞っている埃が紅い光によってキラキラと光る。なんだか変な気分になってくる。

 静まり返った図書館で窓の外を見ていたとき、雀崎がぼつりといった。さも当然のように、普段する会話と何ら変わらない様子で、堂々としていた。


「好き」


 俺は窓から彼女に視線を向ける。あまりにあっさりと言われて、驚く余裕もなかった。

 雀崎は、俺の顔を見て自分が言ったことがどういうことかわかり、咄嗟に口元を手で押さえた。

 目はきょろきょろさせて、決して俺に合わせないようにしている。

 唇を震わせて、目をウルウルさせていた。

「い、今のはやな。そ、その……」

 ようやく言われて事の意味を解した俺は、何を言うべきか分からず口を閉ざしていた。

 胸の鼓動が大きくなった。まるで爆弾のように心臓が弾けてしまいそうだった。

 心臓がバクバクしすぎて、口が開かない。

 無言の俺に対して不安になったのか、雀崎は泣きそうな表情になっていく。

「ご、ごめん。何かの間違いや。い、今言ったこと、……忘れて」

 俺は席を立ち、向かい側にいる雀崎のもとへ歩む。

 口がふさがってしまった。

 このまま黙ったままじゃいけない。

 どうして言葉が出てこない。口が開いても、喉を震わせることすらできない。まるで呪われた人魚のように。

 まるで、見えない何かの意志でも働いているかのようだった。

 俺は言葉で応える代わりに、彼女を抱き寄せた。

「えっ! シ、シグ。ちょっと」

 腕の中でビクンとさせている少女。彼女の頭をゆっくりと撫でてあげた。

彼女は徐々に抵抗を解き、頭を胸に凭れさせた。


ファミリーレストランの窓際の席に、俺と雀崎は座った。

「大丈夫なの? シグはいつも早くに帰ってご飯を作らなきゃいけないって聞いてたけど」

 雀崎は不安そうに見つめてきた。

「大丈夫だ。今日は美月がするって」

「そうなん」

 窓側に立てかけてあるメニューを彼女に渡す。

 店員さんが、水とおしぼりを二つずつテーブルに置く。

 雀崎は出されたコップを掴むと店員が去らぬうちに全部それを飲みほしてしまった。

「え、えっと、お水を入れてきますね」

 店員の女性は雀崎の行動に困惑しつつも、水を入れなおしてきた。

 見ていてなんだが、こいつも相当テンパっているな。

「な、なあ。お前はこういうところってよく来るんか?」

「あんまり来ないな。どうしたんだ?」

「アタシさ、外食なんてほとんどしないから、こういうのはどれがいいか分からない」

 開いたメニューを俺に見えるよう、テーブルに置いた。

「今食欲はあるの?」

「ほとんどないなあ」

「ならサンドイッチセットにしといたらどうだ? あとドリンクバーはどうする?」

「ドリンクバー?」

 その言葉に首を傾げる雀崎。

 俺は彼女が案外浮世離れしているという事を初めて知った。

 ドリンクバーなるものの説明をすると、彼女はいらないと言った。

 ちょうど夕食時であるものの、レストランの中は比較的すいていた。

 そもそも俺が来るとき、いつも空いているような印象がある。客の入りが悪いんだろうか、なんてことを考えてみたりした。

 十数分して、俺が頼んだハンバーグセットと雀崎のサンドイッチセットがテーブルに並べられた。

 俺はナイフでハンバーグを切って食べる。

 食べていると何だか視線を感じたので、雀崎を窺った。彼女はまだサンドイッチに手を付けていなかった。

 お腹すいていないのか? 

 それとも調子が悪いんだろうか?

「食べないのか?」

「い、いや。食べる」

 そういってからも彼女から視線を感じる。

「もしかして、俺のハンバーグ欲しいのか?」

「ち、違うし」

 と否定しつつも、ハンバーグへ視線を向け続けるので、俺はいくらか切って彼女の皿にのせた。

「う、……」

「食べたいんだろ」

 雀崎は口をへの字に曲げた。

「こ、このお節介め」

 何かとぶつくさ言っていたが、雀崎は俺がわけたハンバーグをきっちり残さずに食べた。


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