21、雀崎飛燕の想い NO1
21、雀崎飛燕の想い NO1
俺は新宮さんと、渡り廊下を歩いていた。
「参りましたね。言った傍から、交通事故に巻き込まれるなんて思いもしませんでした」
「新宮さんさ『不幸に気をつけろ』なんて言った傍からだもんな」
彼女は苦々しい顔をしている。可憐な少女のその表情。それは強烈な電撃となって俺の胸を強く打った。
「あ、いや。俺の注意力が足りなかったのも原因だし。新宮さんのせいじゃない」
「しかし……」
俯く転入生、新宮愛華に視線を向けていたから気付かなかった。前方より、段ボールをいくつも積んで運ぶ人物がいる。フラフラとして危なっかしい。前もろくに見えていない様子だった。
俺は新宮さんの手を引っ張って、段ボールを運ぶ人物から遠ざけた。
「悪いな、気付くの遅れて手を引っ張ってしまった」
「いえ、よそ見をしていてすみませんでした」
彼女は俺の握っていた手を自分のほうへ引っ込める。
心なしか顔を赤くしているような気がするが気のせいか。これは傾いた日のせいで顔が少し赤く映っているだけだ。気のせいだ。
胸の鼓動が早くなっていく。俺は彼女と向かい合ったまま、しばらくそこにいた。
いやいや、何をしているんだ。あの人危ない。
「おい、ちょっと持つの手伝うからいったん段ボールを床に置いた方がいい」
「ああ、すまない」
屈んで段ボールを床に置いた人物は、こちらに顔を向けた。奇遇にも段ボールを運んでいた人物は雀崎だった。中に何が入っているのだろうか。ただ、こんな量を一人で運ぶには危なすぎる。
俺は床にある段ボールを一つひょいと持ち上げた。
「な、なんだこれ! ものすごい重いんだけどさ」
「ああ、箱の中身は本なんよ。びっしり中に詰まってて大変やで」
そっくりそのままお前にかえすよ、その言葉。これ三つ一人で運ぶのに、どれだけ大変だか。
ふと新宮を見る。彼女はこちらを離れてポケットからスマフォを取り出し画面を見つめていた。画面を何度かタップして、それを耳に近づけた。
「新宮愛華とはどんな感じや」
雀崎は俺の肩に手を置いて、通話する彼女を見ていた。感情のこもっていない酷く空虚な瞳だった。雀崎は初対面の時から、激情的な人物という印象が強かった。故にこういう一面を見せられると、妙に嫌な気分にさせられた。
「なんや、気にくわん顔しとるな。シグ、言いたいことがあったら素直に言え」
「おまえ、アイツを見ている時にひどく冷たい目だったな」
雀崎は壁にもたれかかる。
「そんな風に、見えたか」
それは酷く、弱弱し気な声だった。普段の快活な雀崎の口から出たものとは到底思えない。いつも男気あふれるかっこいい奴だと思っていた。女の子からしたら正直失礼だろう。だけど、それが俺の本音だ。真っすぐで曲がったことを嫌う。可愛い女の子で、どんな男よりも男らしい。
ああ、今考えても全く失礼な奴だ。俺は雀崎を女の子として見ていない。
「ああ」
「そうか、私はあいつに対してそんな目をしていたか」
雀崎は、くるりと翻る。そして床に置いた段ボールを持ち上げた。
「シグ、すまないが今のことは忘れてくれ」
「……わかった」
俺も段ボールを一つ抱える。
通話を終えた新宮は、タタタとこちらに走り寄った。
「ごめんなさい。用事ですぐに帰らないといけなくなりました。それ運ぶの手伝えないです」
「おう、じゃあ気をつけてな」
俺は彼女に向けて手を振った。雀崎は、何も言わずに、段ボールを手に廊下を歩き始めていた。雀崎と、新宮愛華のこの異様な空気は何だろうか。彼女たちの関係に対して若干の興味を抱いた。




