20、Research2
Research2
大熊院邸の座敷にてアタシは影平と対面した。
昨日、緊急で話をしたい旨を大熊院家の者に伝えたところ、およそ数日は無理だろうと思っていた面会が次の日にかなったわけである。
向こうもこちらが面会を要請した理由は分かっているはず。
大熊院影平は、陰陽師としては名高いのだからな。
「さて、急な申し出にもかかわらず受け入れていただきましたこと感謝いたします。つきまして、さっそく本題に入りたく思います」
「ふむ、雀崎殿のお話とあれば放っておくわけにはいただけますまい」
女中が、私のもとに緑茶とお茶菓子を置いて一礼する。そしてそそくさと彼女は出ていった。普段の私なら返礼するだろうが、今回ばかりそんな余裕はなかった。
「瘴気濃度の上昇が著しいのは御存じでしょう。先日の調査でこの町のいたるところが侵されている事は分かっりました」
「それは私の方でも承知している」
「ではどうして、それを抑えにかからないのですか。この周辺区域の監視はあなた方大熊院家の至上任務でしょう。それとも何か動けない理由でもあると」
アタシの露骨な敵意に、大熊院の当主、四十代の男性は顔をゆがめる。およそこんな小娘にとやかく言われる筋合いはないと言いたげだ。げんに私ははぐれの陰陽師で、管轄区域を持たない。その地を代々管理してきたものからしてみたら、そんなよそ者の私の意見なぞ本来聞きたくもないだろうさ。
眉間にしわを寄せた影平は、お茶をすすり口を開く。
「雀崎殿は勘違いをしておられる。私たちはすでに手を打ってある。その上で現状の維持が困難となっているのです」
「それは言い訳だ。この地を数百年治める家系が、荒ぶる地を鎮めるすべを知らないはずがない」
「そのあらゆる力をもってしても、解決には程遠いのです。原因の排除を行わない限りは」
原因の排除を行わない、影平のこの言葉が私の頭をスーと冷やしていく。
そうだった。現在、土地の乱れの原因と思しきものをすでに把握している。それを排除もしくは封印すれば、永遠にあふれ出る瘴気の元栓を閉めることはできるのだ。瘴気の流出を止めてしまえばあとは簡単で、勝手に霧散してくれる。
それをしない理由。
私はボソッとつぶやく。
「まさか前に私が言ったことを気にかけて」
『最高位神官の除霊は、可能ですか?』
彼女の母をなるべく傷つけずに正常な状態に戻す、一個人に肩入れした言葉に対して、彼は一笑に付すこともなく向き合ってくれていたのだ。
アタシは自分が恥ずかしい。
陰陽師の任より、己が友人とその母を守ることを優先させた自分に対して。そんな自分に対してしっかり向き合ってくれる大熊院家当主に対して。
「取り乱してしまいました。すみません」
私は深く頭を下げた。
「ああ、別にかまいません。私も動揺していますし。特にルート・バンカーの出現報告は」
私は私の一方的な愚言に対して退室を命じずに聞いて下さったこの方に対して、けじめを示さなければいけない 全体に配慮しつつ、この意見をも尊重しようとする姿勢に、私は器の大きさを実感した。
私は、当主を見据える。
「柳原霧子の拘束を、即刻行うことを進言致します」
「ふむ、それが最善であろう。雀崎殿も協力していただけるかね」
「無論、私も同行しますゆえ」
対象の拘束は二日後の夜に決行。あらゆる事態を想定して万全の体制を整える。お茶とお菓子には手を付けずに、私はお屋敷を去った。
夜道を歩く中、ふと思った。
今日、シグは学校に来なかったな。どないしたんやろうか?
彼を取り巻く現状に、アタシはため息を吐いた。




