16、美月の願い NO3
16、美月の願い NO3
胸糞悪い事故に巻き込まれた翌日、俺は普段より早く起きて学校へ行く準備をする。朝食はいらない。食欲が昨日から戻っていないのだ。ただ、美月は食べるだろうし、作り置きはしておいた。
鞄を背負って、玄関扉を開けようとした時だ。
「何? 行ってきますも言わずにいくの?」
「もう起きていたのか」
水色の寝間着姿となっている美月は憮然とした表情で俺を見ている。
「起きていたのか、じゃない。昨日は寝れなかったのよ。兄さんが心配で」
「そうか、すなまい」
美月は蝶番を掴んでいる俺の手に触れる。
「どうせこんなに早く行ったって何もすることないでしょ。私の部屋来なさいよ」
俺は靴を脱ぐと、促されるまま二階にある美月の部屋へ通された。美月は座布団を床に二つ敷くと、テレビの電源を付ける。そしてその下に直してあるゲーム機を取り出した。それにディスクを放り込むと、コントローラーをよこす。
「私の相手、しなさい」
「朝からゲームとか、感心しないな」
「感心しないのは、兄さんの方よ。大事なことはちゃんと言わないで隠し通そうとする」
俺は閉口した。こいつの言っていることはもったもだ。
美月は本棚にCDと一緒にしまっていたゲームのディスクを取り出す。それをゲーム機に入れた。ぼんやりしていた俺は彼女に早くコントローラーを握るように注意される。コントローラを握って、肩の力を抜いた。テレビ画面に映ったのは、格闘ゲームで中学の時に妹とよく対戦したものだ。
「やり方は、たぶん忘れてるか。でもやったら思い出すでしょ」
キャラクター選択画面で、美月は筋骨隆々のたくましい男を選択。俺は刀を携えたセミロングの巫女さんを選択した。巫女さんを選んでいるのは、ほとんど俺の好みだ。新宮さんが知ったら気色悪がるだろう。
「相変わらずそのキャラ。兄さんの性癖丸出し」
美月は俺を皮肉ると、スタートボタンを押して戦闘開始。
長いブランクからキャラクターをうまく操作できない。美月もこれをやるのは久しぶりと見える。動きがぎこちない。
始めは会話こそなく、ただボタンを叩いている音がゲームのBGMと混ざって部屋に響いていた。何戦目だっただろうか。ゲームに熱中しだして、勝ったら大袈裟に喜んで、負けたらその反対だった。
「筋肉ばっかで重いんじゃないか?」
「そういう兄さんのはダメージが通りやすいんだけど」
俺は手数で美月の筋肉野郎に勝負をかける。対して美月は最低限の回避のみであとは大きな技をかけるのみ。美月はこのキャラクターで勝負をするときいつも捨て身の戦法をとっていた。
刀の連撃を繰り出すが、大男が何やら予備動作をするとドロップキックをこちらにはなってきた。画面にはKOの文字がちかちか光る。
「また負けたぞ」
「あはは、これで十連勝。兄さん弱いなあ」
美月は満面の笑みを浮かべている。
俺もいつの間にか、頬が緩んでいた。
いつぶりだろうか、美月とこんなにも楽しい時間をすごしたのは。こんなゲームを一緒にした程度のことだけど、ここ数年ないくらいだった。これまでご飯作って一緒に食べて一緒に学校へ行って。だけどその間に最小限の会話をするぐらい。ずっと美月との間に何か見えない壁があった。壁は壊したくても、それに触れると耐えがたい冷たさを感じた。
元から我儘だったこいつは、年頃の女の子という事もあって踏み込めなかったのだ。
「ゲーム始めて二時間近くかな。こりゃあ遅刻だよ」
美月は立ち上がると俺の手を引いた。
「兄さん、朝ごはん食べてないでしょ。一緒に食べよか」




