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璃理恵の翼  作者: 植村夕月
第1章 璃理恵に穿たれた楔
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9、転校生の新宮愛華 NO2

   9、転校生の新宮愛華 NO2 

 

 教室についた俺は、鞄を机に置いて一息ついた。

 俺の席は一番後ろの席で、グラウンドが一望できる窓際となっている。そこからクラスメイトの様子を窺う。男女とも各々のグループを作って何やら騒いでいる。ただ同じ学校の生徒が死んでしまったことが影響してか、暗い雰囲気となっていた。

 時計は八時半を回り、担任が教室に入ってきた。

 担任は普段通りに出席簿を開いて出欠をとり、普段通りに連絡事項を告げて教室を出ていくものだと思っていた。しかし本日の連絡をすべて終えて以降も、教室をなかなか出ようとしない。若い女性教師は困った顔をしていたが、意を決したようだ。

「柳原璃理恵さんですが、彼女が、その、亡くなったという話は、何といえばいいでしょうか。どうやら本当の話ではないようです」

 担任の戸惑いながらもつぐまれた言葉によって、クラスメイト達はざわめきだした。その声はだんだんと大きくなっていく。

――「えっ! どうなってんの」「全校集会で校長が言ったのは嘘かよ」「璃理恵ちゃんは、まだ」「そんな、警察が言ったんだろ」――

俺の頭の中は真っ白になった。周りの声がカラフルな絵の具が混じっていくように、徐々に理解できなくなっていく。音が耳より入らなくなって、熱湯が噴き出すように足先から上半身が一気に熱くなる。目頭は厚くなって反射的に手を強く押し付けた。

 多分嬉しいのだ。

 嬉しさで胸がこんなに熱くなっているんだと思う。だけど同時に、意図していなかった言葉を聞かされて混乱していた。

「どういうことだ?」

 俺は深呼吸して心を落ち着ける。頭の中のごちゃごちゃがすべて泡のように消えていくのを意識した。そうして徐々に落ち着くと、このことを後で問いただすことにする。

 教室のざわめきは教師の一喝によって収まった。

「さて、えっとみんな混乱するのは分かるよ。ただ話はそれだけじゃない」

 担任の女教師は一呼吸置く。

「今日、転入生が来ました。その子の紹介をします」

 担任が教室の外で待っていた転入生を教室の中へいざなう。皆の前で佇むのは漆のように黒く美しい髪を背中の半分、肩甲骨あたりまで伸ばした凛とした少女だった。細く整った眉に小さな唇で大きく丸い瞳が彼女に活発な印象を与えた。

 少女はお辞儀をするとにこっとした笑顔で話し出した。

「おはようございます。私は新宮愛華しんぐう あいかと申します。皆さんに複雑な事情があることは聞いております。皆さんには迷惑をその、あまりかけないよう努力します。どうかよろしくお願いいたします」

 自己紹介を終えた彼女に拍手はない。「よろしく」といった声を掛ける生徒もいなかった。皆が彼女から目を背ていた。璃理恵という校内のアイドル的存在だった子が置かれた異常な状況下に、みな複雑な心境だ。そんな中、素直に転校生を喜んでいいのかわからない。

 そしてそんな反応を彼女は予想していたのだろう。特に表情を変えることはなかった。

 新宮さんは、傍らの担任に顔を向けた。

「私の席はどこになるのでしょうか?」

「グラウンドの窓際、一番後ろの席にぽけーとした子がいるでしょ。その後ろに一席分のスペースが空いているから、そこを君のせきにしたらいいよ」

 「神原君、手伝ってちょうだい」と俺に声を掛けた。俺と担任は隣の空き教室から椅子と机を一つずつ教室に運び込む。少女は健気にぺこりと頭を下げる。

「ありがとうございます。えっと、神原君?」

「うん、どういたしまして。困ったことがあったら言ってくれよ」

「はい」

 頷く少女は可愛いというより、大人としての美しさを持っていてとても眩しい。正直見ている俺は内心でドキドキしていた。

 俺の異変を察知して、もわっと霧のように姿を現した璃理恵は俺をジト目で見ていた。


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