0、黄昏時
初投稿させていただきます夕月です。今回は序章という事でたいへん短い内容です。電車に乗っている時などに読んでいただければ幸いです。
「人は死んだら、どこへ行くのでしょうか?」
黄昏時だった。教室には俺と教卓に佇むとある少女しかいなかった。少女は普段友人同士での会話と同じノリで物騒なことを口にする。一体何を思ってこんなことを言っているのか。彼女の表情からそれを探ろうとするけれど、傾いた夕日が彼女の顔を隠す。
俺は机の上に乗っかって、脚を組む。
声の様子だけでだか、彼女の様子はいたって普通だった。だからあくまでも単純な興味として出てきたことだと俺は思った。特に含意はないからって。それに従って俺もただ思うままのことを彼女に告げた。
「どこにも行く場所なんてないだろ」
「どうして、そう思うかな」
腕を組んで少女の様子を窺っている俺に、更なる疑問をぶつけてきた。
俺はこんなやり取り、到底不毛なものだと思っていた。適当に聞き流して帰りたかった。だって今夜は母も父もおらず、一人家で待っている妹に夕食を作ってあげなくてはいけないのだから。少女は俺が何か違う心配をしていることに気付いてか、棘のある言葉をかけてくる。
「時雨くん! 今は、私の質問だけに集中してほしい」
「お前、今日はなんだかわがままだな」
らしくないって言いかけて、彼女が泣いていることに気付いた。突然のことに俺の頭は真っ白になった。いや、真っ白ってほどじゃないけど、驚いたのは確かだった。だって、彼女がそんな一面を俺に見せたのはこの三年間で初めてだった。
俺は言葉に詰まった。彼女も黙り込んでしまった。
お前、一体どうしたんだよ。何があって。
俺は兎に角何か言葉を掛けようとした。ただ思ったように言葉は出ない。そしてそのまま少女は教室を出ていった。
「ちょっ、待て――」
机から飛びのいた俺は彼女がいたほうへ手を伸ばしていた。何もない教卓へ向けてただ真っ直ぐに。
何か取り返しのつかないことをしでかした気がした。あいつの話はあくまでもちょっとしたことで悩んでのことだって思った。友人関係、成績、進路、部活。この中のいずれかの問題を抱えて苦しんでいる、そう思っていた。別にこんな程度の相談なんていつだって乗ってやる。かけがいのない親友の頼みなら喜んで引き受けてやる。だから別の日でもいいだろ。妹も待っているのに。
それなのに、なんなんだ。この焦燥感は!
あいつが教室を出てからもこの嫌な胸騒ぎが消えることはなかった。
翌日の金曜日。定例の全校集会で校長が朝礼台に登壇すると、神妙な面持ちで全校を一瞥。そして挨拶抜きに話し始めた。
「皆さんには、大変、大変残念な話をしなくてはいけません。警察からの情報によると、午後十二時に公園の樹木に寄りかかるようにして、女生徒の遺体が見つかりました。遺体は、柳原璃理恵さんです」
今回初掲載となります。内容に関して大変短いもので物足りないかと存じます。次回から本格的にストーリーが展開されますのでお楽しみに!
次回投稿は3日から1週間を予定しております。