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7 遅すぎた名探偵

「ヤス先輩! どこに行ってたんですか!」

 俺が帰館するなり、ひねりがすごい剣幕で詰め寄ってくる。

「……浦野を探しに行ってたんだよ」

「それにしては長すぎます。私てっきり……」

 言い淀む。

「――逃げたと思った、か?」

 無言で目を伏せる。

「俺は逃げやしないさ。これだけは約束する。……そんな必要がねえんだから」

 ――色々な意味で、な。

 ユイが暗い表情で口を開く。

「アロハシャツはやっぱり浦野さんが今まで着てた物でした。つまり――」

 なかなか口に出せないユイを見て、ひねりが後を受ける。

「――浦野先輩も殺されたんだと思います。死体は建物の中にも外にもありませんでしたが」

 俺は落ち着いてうなずいた。

「だろうな。――で、誰がどうやって殺したってんだ?」

 その答えは、いくら待っても返ってこなかった。

 ……くくっ、学園の『名探偵』などといっても、しょせんこんなものか。

 やはり噂だけが先行した、単なる間抜け女だったようだ。

「――わからないのか? 『名探偵』さん」

 含み笑いして言う。

 ……夜が明けるまでに解決できなければ俺の勝ちだ。

 まあこの様子じゃ待つまでもなさそうだが。

 ひねりは悔しそうに唇をかむ。

 俺を睨みつける気丈さだけは認めてやろう。だが、おびえ戸惑っているのは隠せていない。

 ……と、その時突然玄関の方から音が鳴った。カリカリとひっかくような音。

「――な、なに? 幽霊?」

 ユイが青ざめる。

 そんな馬鹿な――。

 俺は玄関に行き扉を開けた。

「誰もいないじゃ――うわっ!」

 足元を何かが風のように通る。あやうく転びかけた。

「スフィー!」

 ひねりが『それ』を抱き上げる。

 ――よく見ると、それは全身に全く毛の生えていない猫だった。一瞬自分の目を疑ってしまう。

 ……病気で抜けたのだろうか? それとも剃ってるのか?

「――ありゃ化け猫か?」

 呆然と呟く俺に、ユイが言った。

「あれはひねきちのペットで、ハゲなのは元々です。『スフィンクス』って種類の猫は、全部ハゲらしいです」

 元々か……。そんな種類の猫、聞いたこともなかった。

「スフィー、スフィー……」

 泣きながら猫にしがみつくひねり。猫一匹にすごい喜びようだ。

「あんた、またそのハゲ猫連れてきてたの?」

「うん。でも来る途中はぐれちゃって……あ、ごめんごめん」

「……何謝ってんのよ、ひねきち」

「ええと……よりによってスフィーの入ったカバンをどこかに置き忘れたもんだから、怒っちゃってて――」

 猫が置き忘れられて怒るものか。

「――おい、そんな猫どうだっていいだろ。謎が解けないからって諦めたのか?」

「……大丈夫、謎は解けますよ」

 ひねりの落ち着いた口調に面食らう。

「なんだと――?」

「真相は、今から必ず解明しますから」

 ひねりはそう言って不敵に微笑んだ。


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