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第五話 エルフ



 バルナリアについていくと、やがて大きな屋敷に到着した。

 町並みを見て思ったが、機械的な部分はないように見えた。

 しかし、それでも人々の生活レベルはそこまで変わらないように感じた。

 ゲームなどはさすがにないようだったが、最低限の通信ができる環境などもある。

 家々、町並みを見てみれば、日本の田舎くらいは十分にある。


「ここが私の家です。後はメイドに任せるので、これ以上私に声をかけないでください」

「……へいへい。で、そのメイドは?」


 バルナリアの家にあがるが、やはり靴は脱がないようだ。

 ちょっと、慣れない部分もあったが、意識しないようにした。

 絨毯のしかれた室内を歩いていき、階段をあがったところでメイドが頭をさげてきた。

 身長は……かなり小さい。本当に彼女がメイドとして仕事をしているのかと疑いたくなるようなほどだ。

 日本でいうなら、小学生くらいじゃないか?

 ていうか、廊下なっげぇ……。廊下を彩るように一定の感覚で、花瓶などが置かれている。

 

「今手のあいているメイドはあなただけですか?」

「はい……。なんで、しょうか?」


 返事をしたメイドの耳は、妙に長い。

 エルフって奴だろうか。


「こいつは私が世話をすることになった……まあ、わけありの人間です。とはいえ、価値は奴隷と同格です。これからあなたに彼の世話を任せても良いですか?」


 あ、この人メイドに押し付けやがった。


「わかり、ました。奴隷のように扱えば良いのですね」

「はい。部屋は余っている場所を適当に貸してやってください。後は他の奴隷と同じようにして構いませんから。それでは」


 メイドは納得したようであるが、できればもう少し優しくしてくれると嬉しいんだけどなぁ。

 バルナリアは本当にそれだけで、さっさと廊下の先へと歩いていってしまった。

 せめて、自己紹介とか……この子のことか色々教えてくれたらよかったんだけどな。


「えーと……俺は大河だ。あんたの名前は?」

「あたしは……テーレよ。その……えっと、あんまり話すのは得意じゃないけど……よろしく」


 腕を組み、少しばかり警戒した様子でテーレはそういった。

 人と話すのが苦手という彼女に、世話役を任せるのは酷なことなのではないだろうか。

 頭をポリポリとかきながら、できる限り優しい言葉で話すように努める。


「少し聞きたいんだけど……その耳って……なんか長くないか?」

「ひゃっ!?」


 突然テーレは耳を隠すようにしゃがんだ。

 歩き出していたバルナリアが振り返ってきたが、特に何も言わずに部屋へと入っていってしまった。

 ……ちょっと、誰か助けてくれないか?


「ご、ごめん。何か悪いこと聞いたのか? 俺、異世界から来たからあんまりこっちの事情は知らないんだ」

「……い、異世界? って何?」

「あー」


 もしかして、言わないほうがよかったのだろうか。

 さっきバルナリアも俺のことを異世界の勇者とは言わなかった。

 勇者という存在は、魔族に対してあまり良い感情をもたれない可能性もある。


「ごめんごめん。俺若干記憶喪失気味なんだよ。それで……あんまり常識とか知らないんだ。その耳なんだか気になったから聞いちまったけど……言いづらいことなら、なかったことにしてくれていいからさ。うん、そうしよう! とりあえず、俺を部屋にでも案内してくれないか?」

「……え、ええ。わかった、わ」


 テーレは何とか調子を取りもどしたようだが、歩きながら両手で耳を隠している。

 やっぱり、指摘されたくはないことだったようだ。失敗した。

 静かになってしまった彼女の後ろをついていく。

 いくつもある部屋を過ぎていった先で、ようやくテーレは立ち止まる。


「こ……ここよ」


 扉を押し開けると、埃っぽかった。

 咳きこみそうになり、目の前を落ちる埃を手で払う。


「うわ……ここ普段あんまり使われてないのか?」

「……うん。けど、布団とかは新しいのを持ってくるから……安心して。掃除も、あんたが部屋を空けている間に……ぱぱっとしちゃうから。外で待ってて」

「いや、掃除くらい俺も手伝うよ」

「……そう、いえば。奴隷、だもんね」

「まあな。だから、俺のことは死なない程度にこき使ってくれ」

「……わ、わかったわよ。それじゃあ、まずは邪魔な荷物を――」


 そこから、テーレの指示に従い、部屋のいらない荷物を別の部屋と運んでいく。

 力仕事を主に行い、その間にテーレが掃除を進めていく。

 二時間ほどかけて、人が住める程度にはなった。


「はぁ……つっかれたぁ」


 年末の大掃除に匹敵するほどに動いた。特に、掃除など普段はほとんどやらないため、慣れない疲労もかなりある。

 汗をぬぐっていると、テーレが頭を下げてきた。


「ありがと。……作業が、早く終わったわ」

「だったらよかったぜ」


 相変わらずテーレは一定の距離を保ったままであった。

 初めは人間を嫌っているからかと思ったが、たぶん違う。

 その態度は、耳が関係しているようだ。

 俺が少しでも耳に視線をやると、彼女はすぐに意識して隠そうとしていた。


 いや、見すぎな俺も悪いと思うけどね? 男が女の胸につい視線を向けてしまうような感じなのだ。

 テーレの耳が、たまに楽しそうに動くのだ。

 たぶん、掃除が好きなんだろうな。俺が荷物を別の部屋に運び、戻ってきたときに鼻歌までもしていたくらいだし。

 俺が来たのに気づくと、耳まで真っ赤にしていたけど。


「……夕食。時間になったら呼ぶから、別の場所に移動しないこと」

「了解っ」


 ……それにしても、やっぱり良く動くよなテーレの耳は。

 彼女が去り際にこちらを見て、ぽつりと呟く。


「あんた……変よね」

「え?」


 突然の罵倒?

 困惑に首を傾げると、テーレは慌てて両手を振る。


「ち、違うの。馬鹿にしたわけじゃないのよ。……なんでジロジロあたしの、耳を見るのよ? 見れるのよ」

「何か、特別な魔法でもかかっているとか?」


 直視していると気分が悪くなってしまうとか。


「違うわよ。……この耳、エルフ、だから。嫌われているでしょ、特に人間には」

「エルフってのは嫌われているのか?」

「あ、当たり前じゃないっ。……魔法を否定して、機械を作っているんだもん。精霊様の教えに背くようなことしているんだもん……人間に嫌われているでしょ」


 ……種族の多くが精霊を信じている、とかだろうか。

 だからこそ、エルフのやり方に反対する者が多く、実際に弾圧されてきたのかもしれない。

 で、テーレもどこかで話を聞いたか、実際に体験してしまった、とか。

 それで人間を嫌いにはならなかった、のかな? 俺を見る目には、嫌悪よりも怯えが多い気がする。


「まあ、良くわからんけどさ。……エルフは嫌われているとしても、テーレが嫌われているわけじゃないんだろ?」

「……エルフが嫌われているなら、あたしだってエルフなんだから。あたしみたいなちっこいゴミみたいな存在、嫌われちゃうでしょ」

「意味わかんねぇって。俺は別にエルフも良く知らんし、おまえのことも良く知らん。嫌いになるのは、相手のことを知ってからじゃねぇのか?」

「……あんた、よくわかんない」


 ……別に間違ったことは言っていないと思うんだけど。

 人が人を嫌いになるのは、直接会って見てからだろ?


「だから、そんな弱気になって勝手に俺にびびるのはやめてくれねぇかな?」

「……別に、これは生まれつきだし」


 前髪を弄るようにして、テーレは頬を膨らませる。

 むくれた態度に、苦笑するとさらににらまれてしまう。


「奴隷として、たぶんこれから仕事を任されると思う。特に力、仕事」

「オッケー、出来る限り頑張る」

「食事の時間になったら、また呼びに来るから」


 テーレが去っていき、疲れた体を休ませるためにベッドに腰かける。

 あまり柔らかくはないが、それでもこれだけの環境を与えられたのは奴隷としては考えられないことだ。

 部屋は日本の俺の部屋よりも広いし、ベッド、タンス、テーブル、椅子といった基本的な家具はすべて置かれている。

 窓から見える外の景色には、木や花の姿を認めることができる。

 それなりのホテルといわれても、疑わずに暮らせる。

 

 ……さて、これからどうなるのだろうか。

 とりあえずは生きているが、明日が当たり前に訪れる環境ではない。

 ……とにかく、今は味方を増やさねばならない。

 一番理想的なのは、魔王様に認められることだ。

 認められさえすれば、他の魔族に嫌われていても、たぶん庇ってもらえるようになる。

 けど、魔族に認められるってだけでもそうとう大変そうだ。バルナリアの態度や、騎士たちを見ていれば、それが一筋縄でないのは明らかだ。


 とにかく……今はこの家の人間たちに、認めてもらうのが先決か。

 これからのことをまとめていると、あっという間に時間は過ぎ去った。

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