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第三話 契約


「……魔王様。俺は一つだけ、どーしても達成したいことがあるんだよ」

「なんだ?」


 一応話を聞いてくれて、胸を撫で下ろす。

 問答無用と切り伏せられてしまったら、どうしようもない。


「俺の友達が勇者召喚に巻き込まれているんだよ。もしかしたら、魔族たちの敵になってここに攻め込んできちまうかもしれない。それに……国の操り人形みたいになっちまってるんだろ? だから、俺はそれを止めたいんだよ」

「貴様の友だろうがなんだろうが、すべて殺すだけだ」

「けど、勇者がどれくらい強いかはわかんないだろ?」

「成長する前に叩けば良いだけだ。貴様のようにな」

「もう、そう都合よく行くとは思えないぜ? どれだけ早く成長するか……わかったものじゃないだろ?」


 できる限り強気に言うと、魔王もさすがに少しは興味を持ってくれたようだ。

 組んでいた足を床につけ、表情も鋭くなっていく。


「この私が勇者に負けるといいたいのか?」

「ち、違います。そんな怒んないで、ちびっちゃうから」

「誰が掃除をすると思っているんだ。つまり、何が言いたい?」

「俺が望むのは……えーと、いくつか! 一つ、今は殺さないで。二つ、勇者を助けたい。三つ、俺に戦闘を教えてくれ。以上、三つだ!」


 三つの指をたてると、近くにいた魔王の側近が苛立ちを全開にした様子で剣を抜く。


「カーリナ様っ! この無礼な人間の口を今すぐ閉ざしても良いですか?」

「まあ、待て。まだ話は終わっていない。閉ざして地面に縫い付けるのはそれからでも間に合う」

「出来ればそれはやめてほしいんだけど……」

「人間。それは、貴様にとって優利すぎる相談だな。それで一体、私たちにどんな対価がある?」

「勇者を助け出した後、俺の体は好きにしてくれて良い。あんたらが実験に使いたいなら、それでも良いし、殺したいなら殺してくれても構わない。あんたたちの脅威は勇者だけなんだろ? その勇者は、俺が止めるっ。んで、助けた勇者は……その、できれば俺の世界に戻してほしいんだよ」

「……なるほどな。確かに勇者は強大な力を持ち、相手をすればこちらも被害がゼロとはいえないだろう……。だが、貴様が我らに従うかどうかはわからないな」

「よーく知らんが、人を操ることはできるんだろ? 勇者が人間にかけられるような。それを俺にかけてちまえばいいだろ」


 そうすりゃ、裏切られる心配はないんだから。

 そんな気持ちで言うと、魔族二人は信じられないようなものを見る目を作った。


「……人間。今貴様は他人の物になると発言したんだぞ? 人間としての、プライドも持ってはいないのか?」

「だって、俺が出せる対価ってそんくらいだろ? 今は他人のものとか考えるより、友達助ける手段見つけ出すのに忙しいんだよ。……あ、でも奴隷みたいな扱いになるとしても、服くらいは着せてくれると嬉しいんだけど……。あと死なない程度の食事とか……。目的を達成できるように、とかさ」

「……」


 魔王は思案するように、顎に手を当ててから側近に視線をやる。

 魔王の表情は真剣に考えてくれているようであった。

 やっぱり、勇者という不確定要素に警戒しているんだな。……これなら、どうにかなるかも。


「バルナリア。どう思う?」

「……人間が一番怪しい、裏切るという点がないのです。利用するだけ利用してしまうのもよいかもしれません」

「だろうな」

「お、お二人とも聞こえていますよぉー。あの、ほんと勇者三人いるんでそいつら助けるまでは死なないように気を遣ってくれると……」


 ぼそぼそと言い返すと、魔王が立ち上がる。

 対面するとわかるが、彼女が魔王というのが嘘ではないと、はっきりわかる。

 肌が剥がれそうなプレッシャーをぶつけ続けられるのが一般人なら、俺はこの世界で骨も残らないだろう。


「今、ここで奴隷契約を結んでやる」

「あ、ありがとう?」

「ただし、貴様が言うような契約は複雑で、さらに勇者としての加護があるせいで難しい」

「つまり、どうすりゃいいんだ?」

「強力な契約は、本人が心の底から望まない限り難しい。奴隷契約を結ぶ場合、一般的には洗脳魔法をかけ、心を操って奴隷契約を結ばせるが、貴様はそれができない。心の底から、私に忠誠を誓えるというのか?」

「もーちろんだ」


 ふふんと腕を組むと、魔王が眉根を寄せる。


「よくもまあ、言い切れるな」

「だって、あんたみたいな可愛い魔王様の下僕になれるなら嫌じゃないからな。むしろ頭下げてでも頼みたいって思っていたところなんだよ」

「……どうにも、貴様はわけのわからない人間だな。契約を結べるのならば、貴様を生かしておくのも手かもしれないな」

「その契約もきちんとしてくれよ。まさか、嫌いな人間のように嘘をつくつもりはないよな?」


 怖かったけど挑発をしてみると、魔王が怒りを含んだ衝撃をぶつけてきた。


「当たり前だ。私は魔王だ。すべての魔族の見本となるものが、たかだか矮小な人間一人に怯え、嘘をつくわけがないだろう」


 その威風堂々な態度を信じるしかない。

 この作戦の大きな欠点は、魔王を信じるしかない点だ。

 俺に結ばれた契約が、本物の奴隷契約になってしまえば、俺は魔族側に本当に良いように利用されるだけの人形となってしまう。

 ……つまりは召喚された友人たちと同じになる。

 最悪はそれでも生きていられれば良いかなって思ってる。

 生きていれば、いつかどうにか助けるチャンスがやってくるはずだ。 


「ラクな姿勢をとれ」

「……横になっていい?」

「好きにしろ」

「それじゃあ、失礼しますね」


 横になると、魔王のスカートのような鎧の中が見えそうであった。

 ……影があって良く見えないなぁ、残念だ。


「私が貴様の心に問いかけを行う。それに了承の返事をしてくれれば良い」


 魔王が俺の腹に手をあてる。

 何かが体に流れ込んできて、それに反抗しようと体内の何かがぶつかりあう。


「い、いたいんだけど! 契約ってこんなに苦しいの!? サインする程度じゃねぇの?」

「恐らくだが、貴様の持つ職業が反抗しているな」

「しょ、職業ねぇ……。それも後で聞きたいことの一つだったけど……が、我慢するから早く終わらせてくれ!」


 叫んだ次の瞬間、心に何かが聞こえる。

 奴隷契約を結べ、と何度も声が全身へと流れていく。

 結ぶ、結びますとも!

 叫ぶがまるで体に異変はない。やがて、魔王が手を離し、見下すように言った。


「契約はできないようだな」

「えぇ!? なんでだ! 魔王様失敗か!」

「えぐるぞ。貴様の心が、本気で同意していないからだ」

「マジかよ!? 俺滅茶苦茶魔王様のこと思っているんだけど!?」

「私のことを思おうが、どうにもなっていないようだな。先ほどの話はなかったことにしたほうが早そうだ」

「ま、待ってくれ! もっと魔族のこと聞かせてくれよっ。俺が魔族のこと好きになれば、たぶんきっと大丈夫だ!」

「……一つだけならば話をしてやってもいいが、時間をかけるのは面倒だ」


 魔王はすっかり飽きた様子であくびをした。


「なら、一つだけ聞かせてくれ!」

「で、何が聞きたい?」


 ……ひ、一つだけか。

 一体、どんな話を聞けば俺は、俺の心はやる気を出してくれるんだよ。



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