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第十九話 相手

「どうだった?」


 メイド長が戻ってきたということで、俺は急いで彼女に会いに向かう。

 メイド長もこちらに気づくと多少表情を緩め、それからこくりと頷いた。


「……どうなるかはわからないわ」

「うまくいかなかったのか?」

「話は出来たわ。けれど、彼は怒り狂ったわ。まさか、私が秘密を打ち明けるだなんて思ってもいなかったようね」

「……そっか」


 とりあえず、目先の危機は去ったが、まだまだ油断はできないってことか。

 

「まあ、それでもひとまずは安心ってことだし、良いんじゃねぇか?」

「そう、ね。あなたのおかげだわ」

「いやぁ、そうか?」


 頭をかきながら笑うと、メイド長もつられるように笑う。

 ……こんなによく笑えるんじゃないか。

 いつも通り部屋の家具を磨いていると、テーレがやってくる。

 

「あんた、そこ拭き残し」

「うわっと。おまえ良く見てるな……」

「あんたが、雑すぎるのよ」


 調子よく笑った彼女とともに掃除をして、すぐに昼食となる。

 最近では毎日メイドたちと食事をしているのだが、男だけだとやはり居心地が悪いものがある。

 ことあるごとに俺をからかってくるんだからな。

 席につき、全員で食事を始める。近く劇団が来る、とか最近の街の情報など、様々な情報が入ってくる。

 この前みた町の竜族がかっこよかったとか……なんとか。

 あんまり俺が楽しめるような話題は少ないんだよなぁ。

 

「今日も城のほうに行くの?」


 食事を口に運びながら、テーレが小首をかしげる。

 テーレが俺を気にしたのか、声をかけてくれたのはうれしい。

 が、俺がせっかくのテーレの交流時間を邪魔しているのではないかという罪悪感が生まれてくる。


「剣の訓練しないといけないからな」

「そうなんだ」


 テーレが僅かに視線をさげたところで、


「あれ? もしかして、テーレ。午後も一緒にいたかったとか?」


 メイドの一人がそんなからかいをしてくる。

 わざわざ俺といたって、やることもないだろう。新手のいじめか。


「そ、そういうわけじゃないわよっ」

「そうだそうだ。あんまり変なこと言ってテーレを怒らせるなよな」


 俺だってそんな言われ方したら、テーレを意識しちゃうだろ。テーレに失礼のないようにしなければならないというのに。

 俺のほうをメイドたちがちらと見てきた。

 なんだ? 何か言いたげな顔をしていたが、テーレをチラと見た後に口を閉ざした。

 一体なんだというのだろうか。メイド同士で何か通じ合うものがあるのかもしれない。

 男だからか、真っ先に食事が終わり食器を片付ける。


「そんじゃ、行ってくる」


 先に食事を終えているはずのバルナリアが、すでに書斎で待っているはずだ。

 まったく、一緒に食事してくれればタイムロスもないというのに。

 部屋を出るとき、メイドたちからのジトーとした視線が少し気になったが、まあ俺がいなくなって自由に発言できるのだ。

 思う存分話せば良いではないか。

 ちょっぴり悲しくもなりながら、昨日もらった剣を回収してから、バルナリアと合流する。


「メイド長の件、少しマシになったみたいだぜ」

「そうですか」

「……本当に興味ないのな」

「他人に興味持っても、意味ないじゃないですか」

「そんなことねぇだろ?」

「必要なことには興味を持ちますよ。あなたの話していることは、意味のないことです」


 言い切ったバルナリアに、何を言っても無駄だと考えた。

 まあ、無関心なのはそれだけ行動も起こしやすかったからいいけどさ。

 共に城についてから、俺は訓練場に向かう。

 いつも通りの時間だったが、珍しく治癒師がいた。


「あれ? どうしたんだ?」

「あなたに剣の使い方を教えていなかったのでぇ、教えに来たのですよぉ」


 普段は面倒だ、どうしてこんなところにぃ、とか言ってくるのに、今日はどうしたのだろうか。

 雨でも降るのだろうかと空を見ていると、治癒師が拳を構えた。


「何を考えているんですか?」

「な、なんでもねぇよ。それで、剣の扱いって何か特別なことがあるのか?」

「私も途中で思いついたある機構をぶちこんでおいたんですよぉ」

「……機構? それって機械ってことか?」

「どちらかといえば、魔法に近い……ですかねぇ。剣を握ってみてください」


 言われたとおりに剣を掴む。

 曲刀気味のそれには、良く見れば普通の剣とは違う部分があった。


「柄が……ちょっと変だな」

「そうですよ。その柄頭を強く押し込むようにしてください」

「こ、こうか?」


 押し込むと、徐々に刀身が何かを集めていく。


「……魔力、かこれ?」

「そうですよぉ。あなたが魔力をうまく扱えないようでしたので、その補佐として用意したんですぅ。ただ、あんまり魔力を蓄えすぎると、剣が故障する可能性がありますのでぇ、加減してくださいねぇ?」

「お、おう……そんでこの魔力はどうやって使うんだ?」

「そこは、センスですよぉ?」


 だったら、試してみるか。

 集まった魔力を放つように横薙ぎに振りぬく。魔力の塊が、まっすぐに飛び、地面を抉る。

 ……これは、かなり強くないか?


「思っていたよりも、強力に出来ましたねぇ?」

「これ、もっと量産して使ったらどうだよ?」

「いや、それは無理ですよぉ? 魔族の魔力は周囲に干渉してしまい、集めた魔力が乱れてしまうんです。あなたくらいの量でないと、まず使うことができないんですよぉ」

「……なるほどな」


 少し馬鹿にされてはいたが、この武器は俺の苦手な場所を十分カバーしてくれるものだ。

 俺の様子を見ていたヒューズが、頬をひきつらせながらやってくる。


「なかなか良い武器もらったみたいじゃねぇか。騎士に模擬戦を挑んできたらどうだ?」

「何自分を省いているんだよ。ヒューズやろうぜ」

「……頼むから、死ぬようなのは勘弁だぜ?」


 頬をひきつらせているヒューズにニヤリと笑みを浮かべる。

 今日の俺は一味違う、というところを見せてやろう。

 一定の距離を開けた後、戦闘を開始する。

 接近しようとすると、ヒューズが魔法を放ってくる。

 ならば……と俺も移動しながら魔力をチャージする。

 それを確認したヒューズも剣を構えて突っこんでくる。

 ならば、魔力砲を使うだけだ。

 剣を振りぬくと、真っ直ぐに魔力の塊が飛ぶ。ヒューズはそれを水の壁で受け流した。


「このくらいどうってことねぇぜ!」


 一気に近接されてしまい、俺は慌てて剣で受け止める。力はヒューズもかなり高く、焦った姿勢では受けきれない。

 それでもどうにか体を捻って攻撃をそらしたが、魔法に殴られる。魔力をチャージして、距離をつめないと。

 そう考えているのが聞こえているとばかりに、ヒューズに攻め込まれる。

 ……そして蹴りを一発もらって、情けなく倒れる。治癒師の顔が逆さまで見えた。


「へたくそですねぇ。見ていて無様でしたよぉ?」

「う、うるせぇ……」


 ダメだな。あれもこれもやろうとして、うまく行かなかった。

 魔力砲は、どうにも使うタイミングが難しい。

 チャージに僅かな時間がかかるため、魔法ほど使い勝手は良くない。

 ならば、あくまで補佐的にあるものだとして受け止めた方が良いかもしれない。

 何度かの戦闘を行っていると、魔力を纏ったままヒューズの剣と打ち合う場面が出た。

 その瞬間、強い力でヒューズの剣を弾き飛ばした。

 ヒューズの慌てた顔をみながら、腹に拳を叩きこんでやる。

 十回目ににて、ようやく一勝だ。


「……こういう使い方もあるのか」


 衝撃が大きいため、相手からしたら武器を落とすか、姿勢を崩してしまうだろう。

 剣を軽く回し、背中に戻す。さすがに疲労が溜まってきて、一度休憩をしたい。

 それはヒューズも同じようで、彼は剣を持ってとぼとぼと戻っていく。

 治癒師に治療を受けた後、体を休めるために横になっていると、


「職業について話しておきましょうかぁ?」

「そうだった! 聞かせてくれ!」

「職業はですねぇ……。才能みたいなものですかねぇ? 生まれながらに人に与えられるもので、後天的に与えられる場合……異常が体に出る場合があるんですよねぇ」

「そうなのか……?」


 自分の体を見るが、今は特におかしな部分はない。

 

「勇者召喚では、その危険が多くの生贄の人間たちによってなくなるともされています」

「生贄……。俺たちって、誰かまったく知らない人たちの命と引き換えに、召喚されたんだよな」

「そうですねぇ。人殺しみたいなものですねぇ」

「……そっか」

「って、今のは冗談ですよぉ? 殺したとしたら、それはあなたではなく勇者召喚をしようと決めた人たちですからねぇ?」

「あれ? もしかして今慰めてくれたのか」

「違いますよぉ? 勘違いしないでくれますかぁ? 私は単純に、あなたが誤解しているようでしたのでぇ、訂正しただけですぅ」


 治癒師が珍しく早口でまくしたてた。

 ……誤解で、すませて良いのだろうか。

 ちょっとばかり、生贄になった人たちのことを考えていると、治癒師の拳が腹にめり込む。


「そんなどうでも良いことを考えるのはやめたほうが良いですよぉ。自分以外の命まで考えていたら、疲れますよぉ?」

「……ま、そうだけどさ」


 それでも多少は意識してしまうのだ。

 

「職業ってのは、魔法と具体的に何が違うんだ?」

「職業は、その職業を所有している人にしか使えない力――スキルを所持しているということですねぇ」

「ふむふむ。魔法は誰にも使えるってことか?」

「得意不得意はありますが、誰でも最低レベルくらいなら、訓練で使えるようになりますねぇ」

「じゃあさ、鍛冶師の職業を持っている人が二人いたら、二人とも同じスキルを持っているのか?」

「そういう場合もありますが、私のスキルは現在私以外は所持していませんねぇ。珍しいスキルですので、これでも国からは厳重に守ってもらっているんですよぉ?」

「……確かに、そうなるよな」


 病気とかそういったものは治せないようだが、傷などは完璧に治すのだ。

 戦争をしているのならば、絶対に手放したくない能力だろう。


「やっぱり、職業って大事なのか?」

「うーん、それを意識する人もいますねぇ。例えば、騎士という職業をもって生まれた人は、騎士を目指すことも多いです。けど、私のように別の職業になる人もいますから……結局は自分の意思が大事なんじゃないですかねぇ?」


 まあ、そこまで職業を意識できるかどうか……そもそも戻れるのかどうかってのもあるか。

 

「タイガ。たくさん模擬戦相手連れてきてやったぜ」

「おう、人間! 今日もオレに潰されろよ!」

「僕にも倒されてくれないかね?」

「……血が、うずくぜ。早く、人間の血を浴びたいんだよォ!」


 ……ヒューズが連れてきたのは、色々な武器を持った騎士たちだ。

 確かに、良い練習にはなるな。

 魔力を溜めた状態で、俺は騎士たちに突っこんでいった。

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