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第一話 召喚先は魔王様

「貴様が、勇者か」


 見下ろす視線はどこか鋭く、冷たい。

 俺は彼女の視線に気圧されながらも、頬が熱くなるのを抑えられなかった。

 だって……服装が派手だったからだ。

 男を誘惑するように、足は出ているし、胸元だって全開だ。


 だが、視線が上へとあがるたび体が硬直してしまう。

 頭にある一本の角は、作り物ではないかような力強さを感じた。

 ……それにたぶん、偽物じゃない。

 俺の周囲を囲む人間たちも、鎧、剣と現実的ではない装備品をまとっている。


 そもそもだ。下校中、あの光に飲み込まれた時点で、現実感などない。


「えーと……あんたは誰っすか?」


 目の前の女性は、その派手な衣装からはみ出そうな胸を腕に乗せる。


「魔王だ。魔王カーリナ・クラスマ・レイドリア十三世。貴様が、勇者かどうか聞いているのだ」

「たぶん、そーなんじゃないか……ていうか、なんでいきなり魔王が目の前に?」


 混乱が限界に届く。

 相手の扇情的な衣装に興奮する暇など、すでに欠片もない。

 勇者が最初の村につくまえに、魔王と遭遇するなどそれなんてクソゲーといいたくなる。

 負けイベントならともかく、このままでは人生が終わる。


「剣は持っていないのか?」

「……ない、ないっす」

「おい、誰か持ってこい」


 ここは城の庭のようだ。

 装備に身を固める者や、軽装ではあるが杖のようなものを持っている人たち。

 彼らの共通点は、体のどこかに特徴的な部位を持っていることだ。

 二本足で立ち、人間として証明できそうなパーツもしっかりあったのだが、彼ら彼女らに揃っているのは、こちらを睨みつける両目だ。


 警戒、というよりは侮蔑。

 人間を格下と見ているのは明らか。それに憎悪を混ぜれば彼らの目の完成だ。

 剣が目の前に投げられる。投げたのは、これまた鋭い両目をたずさえた美少女だ。

 彼女は一番人間らしいが、やはり頭の上には獣のような耳がある。

 魔王の前に、勇者がいるのだから当然の反応ではあるのかもしれない。


「……先手は譲ってやろう」

「た、戦うのか?」


 俺は剣なんて握ったことはない。

 特に、神秘的な力を体内から感じることもない。


「当たり前だ。貴様は私を殺すために、召喚されたのだからな」

「い、いや……! 殺さない! 俺にそんなことはできねぇよ!」

「黙れ。さっさと剣を持て」


 それ以上の言葉は必要ないとばかりに、腰にある剣へと手を伸ばした。

 持っていたら、殺される。


「……何もしないのならば、死ぬだけだぞ?」

「だから……俺は戦いなんてしないって。それよりも、全然状況がわからないんだって。光に飲まれたら、突然こんなところにさ。……どうしろってんだよ」


 投げやりな気持ちでいうが、魔王はまるで反応してくれなかった。

 死ぬ、のか。

 剣を拾えば、戦闘が始まってしまう。勝てるわけがない。


 もしかしたら、戦えば俺の中にあるこう……転移チート的なモノが発動するかもしれない。

 ……というか、もう何も解決策が浮かばない。


 母さん、父さん、ごめんなさい。親不孝な自分を許してくださいと一つ謝罪をして、剣に手を伸ばす。

 片手で持ち上げようとするが、動かない。

 両手で持ち上げようとするが、なんとか持ったが重さに耐え切れず右に左に体が傾く。

 ……い、いや。これ何キロあるんだよ。二十キロくらいあるんじゃねぇの!?

 重さに負け、その場で剣を落とす。不自然な動きに、魔王は無駄に警戒したようだ。


「……何の攻撃だ?」


 魔王は距離をあける。

 魔法陣のようなものが、彼女の周囲に発生する。


「け、剣が重たい!」

「……ふ、ふざけたことを!」


 魔王が顔を赤くして怒りを見せる。

 走りながら魔王が剣を抜く。何とか持ち直したが、魔王の剣とぶつかる。

 あまりの衝撃に体が吹き飛んだ。ボールの気持ちが少しばかりわかる。


 跳ねるとは痛い。今まで俺は酷いことをしていたようだ。

 一瞬の静けさの後、魔王が大笑いする。同時に魔族たちも俺を見て笑った。

 ……なーんか、和んでますね。誰か手当てしてくれませんか?


「なんだ。勇者とはいえ、この程度か。そいつを牢に連れて行け」

「えぇ!? 牢屋って、なんでだっ。もう、十分楽しんだみたいだし、地球に帰らせてくれよ!」

「黙れ人間。言っておくが、召喚したのは私ではない。私は人間たちの召喚魔法に干渉し、一人の勇者をこちらに無理やり引っ張ってきたにすぎない。かえす手段も知らん」

「勝手すぎるだろっ。おい――あ、すみません」


 掴みかかろうと立ち上がった瞬間に、周囲の魔族たちが武器を向けてくるのだから両手をあげるしかない。


 先ほど剣を投げてきた女性に腕を掴まれて引っ張られる。彼女の顔はとても鋭い。


「あ、あのー、その耳は本物ですか?」

「……気安く話しかけないでくれませんか?」

「えーと」

「だから、喋らないでくれますか?」


 そんなに嫌わなくてもいいじゃないか。俺が何かしたか?

 俺は右も左もわからなくて不安なんだからもっと優しくしてっての。

 やがて、建物に入り、地下へと歩いていく。


「大人しくしていてください」


 鉄格子があけられ、投げるようにして入れられる。

 すぐに鉄格子を掴むが、鍵は即座に閉められてしまった。


「おい、あんた! ちょっと、食事くらいくれよなぁ?」


 ガンガンと殴るが、彼女は無視して去っていく。このまま、ここで餓死させられるのだろうか……。

 まったく、なんという場所だ。やることもなく、そこに敷かれている布の上に乗る。

 ベッド代わりとして横になっていたが、まるで柔らかくない。ゴツゴツとした感触ばかりが伝わってくる。

 丸石を敷き詰めて作ったような足場は、寝るには最悪な環境だ。城とかだって、快適に過ごせる環境はなかった。


 異世界になんで召喚されちまったのかな。

 人間と魔族が争い、人間が勇者を召喚した。んで、魔王の妨害で俺はここへと飛ばされた。

 完全にここは敵陣地だ。このまま生きて帰れるかもわからない……って。というか、たぶん無理。

 そういえば一緒に帰っていたあいつらは?

 あの光が召喚によるものなら、確実に召喚されている。


「おい、誰か。誰でもいいから話しきいてくれ!」


 鉄格子をつかみ、暴れながら声を張る。

 友人三人と下校していて、むしろそいつらを光が襲っていたんだったっけ。

 と、ずっと叫んでいた効果がでたのか、魔族がやってきた。


「なんだ貴様! 夜なんだ静かにしていろ!」


 苛立ったように鉄格子を叩く。


「あんたでいいや! 勇者召喚について詳しく教えてくれないか?」

「……なんだ、突然?」


 いぶかしんだ様子の彼に頭を下げる。

 今できることはこれくらいしかない。

 額を石にこすりつけた。


「頼む。俺の友達も、もしかしたら召喚されているかもしれないんだよっ」

「……その友達がどうしたって? あんたら人間は平気で他人を裏切り、他人を蹴落として上にあがるだろ?」

「あんたらが知っている人間はそうなのかもしれないが、俺はんなことしねぇよ! そいつらを助けに行きたいの! だから、こっから出してくれ! 頼む!」

「出すわけがねぇだろ。……勇者召喚は、人間たちの国で開発された、犠牲を用意して人間召喚し、力を付与する魔法だ。どっちにしろ、あの程度の弱い力じゃ、どうにもならねぇよ」

「……犠牲?」

「人間が死ぬときに放たれる魔力を使って、異界から人間を召喚して、職業を与えるんだよ」


 前半に物騒なことをぶちこまれたが、俺は……今はそれを考えないようにした。


「……職業? なんだそれ?」

「あんただって持っているはずだぜ。まあ、この鉄格子には特殊な魔法をかけてある。鉄格子の中じゃあ、職業の力も使えやしないがな」


 職業ってのが、いわゆるチートみたいなもんだろうか。

 ていっても、さっきの戦闘からして、俺は何も持っていない可能性のほうが高いのかもしれない。

 ……彼は、俺を嫌っているようだがそこそこ話はしてくれる。

 今は、彼から情報を得ていこう。


「人間ってのは、同じ人間には優しいのか? 例えば、ほら勇者にとかさ」


 ……優しくしてくれるのならば、まだ焦る必要はない。


「優しくはねぇだろうさ。奴隷のようにこきつかって、必要がなくなれば切り捨てるだろうぜ」

「……ほんとかそれ」


 騎士はどうでもよさそうに肩を竦める。


「第一、勇者なんて魔王様にあっさり殺されるんだよ。どうだっていいだろ」

「……それってつまり、あの露出高い人が、勇者を殺すってことだよな?」

「カーリナ様だ。まあ、今回の勇者も同じようになるだろうな」

「……そりゃあ、どうだろうな。あいつら、別に戦いが好きなわけじゃねぇしな」

「何を言っているんだ? 勇者には使役の魔法をかけてあるはずだ。望む望まないではない。例え、感情が否定しても暴れるしかないんだ」

「……嘘だろ」

「こんなどうでも良いことに嘘をつくはずがないだろ。とにかく、静かにしていろ。オレは星を見ているんだ」


 彼は俺を放置して、階段をあがっていってしまう。

 こうしてはいられないが、脱出方法はない。さっき情に訴えかけたのに、あの興味のなさだった。

 あんまり考えるのは好きじゃないんだけどなぁ。さて、どうすればここから抜け出して、あいつらを助けに行ける。

 目を瞑り、じっくりと考えた。

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