まわる わるま るまわ まわる
何とか初ホラー書ききれました。難しかったです。
キリキリキリ、シャァァァァ。キリキリキリ、シャァァァァ。キリキリキリ、シャァァァァ。
何かがまわっている。そんな音がする。何かが引き絞られて力が溜まり何かがまわる。ずっとずっとまわっている。はじめは右回転、右に回りきったら左へ、左が終わるとまた右に。でも、これは右と左にまわってる? ほんとうに? もうずっとここにいるからわからなくなった。自分は今どんな体勢だろう? わかりない。早く早く自分の番になってくれと心底思う。周りにいる奴らみたいになる前に、早く自分の番になれ。
何てことはない退屈な毎日だけど、ちょっとした変化があれば、それなりにテンションが上がるものだ。例えば転校生が来る、放課後の約束、嫌いな授業が無くなるとかか。まぁ俺の場合は、もっと細かいけど、これからの通学帰宅がそれなりに楽しみになっている。なぜなら・・・・・・、新しく自転車を手に入れたからだ。親の知り合いからのお下がりではあるけど、十分に乗れる。今まではバスで学校まで通っていたけど、休みの日に試しに自転車での時間を測ってみたら、近道できる分学校までの時間はそんなに変わらなかった。それだったら今後はわからないけど、雨の日以外は自転車で通学する事にした。
「おっし、無事に到着! 体力は持つし、眠気覚ましにはちょうど良いか。それにしてもどうするかな?」
自転車通学一日目、学校に無事に到着したは良いけど、到着してからが問題だった。正門から入り左に少し進んだ場所にある駐輪場は、五列すべてが他の生徒の自転車でぎっしり埋まってて、俺の自転車を止める場所がパッと見ない。学校に来ることばっかりで、その後のことはまるで頭になかったことに今さら気づいた。って、そういえば学校に自転車通学の届けでも出してない。確か職員室で貰う・・・はず。いろいろ考えながら、駐輪場を手前から奥に止める場所がないか確認していると、一番奥の端に三台分くらいの場所が空いているのが見えた。腕時計を見るとチャイム五分前だったから急いで止めようとすると、突然声をかけられた。
「そこに止めるのはやめた方が良いよ」
「うわっ!!」
「ごめん、驚かしたかな?」
突然、本当に突然、俺のすぐ後ろから声をかけられた。ありえない。だって、その人がいる場所は、俺が数秒前に通りすぎた場所で、そこに誰かいたなら絶対に気づくはずだ。でも、俺はまったく気づけなかった。そんな事あるはずないのに、まるでこの人が突然現れたようだった。
「私の話、聞いてる?」
「え、あ、はい。何で・・・すか?」
「はあ、しょうがないもう一度言うよ。そこには止めない方が良い」
「えっと、そこ以外に止める場所ないですよ。それに止めないと怒られます。届け出も出してないんで見つかると色々面倒くさいです」
「確かにこの学校は自転車関係はうるさいよね。でもそこには止めない方が良い」
「・・・・・・なんでですか?」
「そこはね、順番待ちの場所。順番は大事だよ」
「順番? 何の順番ですか?」
「順番は順番だよ。少なくとも今は君の順番じゃないから、止めない方が良い。だから、駐輪場の入口に立てかけておきなよ。君は自転車通学は初めてみたいだし、今日は問題にならないと思う。もし先生に何か言われたら、私の名前「八堂 楓」を出してくれれば良いよ」
「先輩は、生徒会かこの駐輪場の管理人なんですか?」
「そんな感じ。ところで良いの?」
「今度はなんのことですか?」
「もうすぐ、チャイムが鳴るよ」
「えっ?「キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン」 あっ!!」
「ほら、急いで」
「うわ~~~!!!」
慌てて駐輪場の入口まで引き返す。後ろから「私の名前出せば大丈夫だからね」と妙にはっきり聞こえてきたけど、それどころじゃなくて自転車を止めて急いで教室まで走って行った。当然先生から小言をもらい、昼休みに職員室に来るように言われた。
「それで今日はどうして遅刻したんだ?」
「五分前に学校に着いてたんですが、自転車を止める場所が見つからなくて」
「うん? お前自転車通学だったか?」
「今日からです。届出出すの忘れてました。すみません」
「そうか、これに親のハンコを押してもらって明日にでも出すように」
「わかりました。それとなんですが」
「どうした?」
「今日は自転車を駐輪場の入口に止めてるんですが・・・」
「ふむ、本来ならばダメなんだが、今日が初日ならしょうがないな。今回は大目に見よう。明日からは少し早く来いよ」
「ありがとうございます。ふー先輩の言う通りだったな」
「誰か会ったのか?」
「はい、「八堂 楓」っていう先輩に・・・あい・・・・・・ました」
なんでか先輩の名前を出したら、職員室にいた先生全員が作業を止め俺を怖い顔をしながら見てきた。しかも空気が一気に張り詰めてきた。
「おい」
「はっ、はい」
「お前が会った生徒は、間違いなく「八堂 楓」と名乗ったんだな?」
「そうですが・・・」
「どんな見た目だった?」
「はっ?」
「どんな見た目だったと聞いている」
「えっと・・・、青のスカーフに黒のストレートロングで、顔は・・・・・・、すみません。ぼやけてます」
「そうか・・・・・・、その「八堂 楓」に何か言われたか?」
「駐輪場の奥に3台分くらいの空きがあったので止めようとしたら、いきなりそこには止めない方が良いって言われました」
「それだけか?」
「あと、よくわからないことを言われました」
「よくわからないこと?」
「はい、なんか今は俺の順番じゃないから、そこの空きには止めない方が良いって言われました」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・本物か?」
俺の言葉を聞いて、さらに職員室の空気が重くなった。特に目の前の担任がピリピリした空気を放ちながら考え込んでいた。重苦しく静かな職員室に担任の小さな呟きが広がる。俺は緊張に耐えられなくなり質問をした。
「先輩がどうかしたんですか?」
「・・・・・・・・・」
「あの・・・」
「お前、自転車通学はやめろ」
「えっ」
「明日からもバス通学で来い。良いな」
「なんでですか?」
「良いな」
「いや、あの」
「良いな」
「・・・はい」
「良し。昼休みに引き止めて悪かったな。戻っていいぞ」
「・・・・・・わかりました」
どう考えても先生たちは何かを隠してるけど、とても聞ける雰囲気じゃなかった。今も職員室のドアに向かう俺の背中をじっと全員が無言で見ている。はっきりと異常という言葉が浮かぶ。とにかく早くここから出る。
先生たちの緊張と視線に耐えて職員室を出ると、足早に図書室に行きネット利用の申請をした。
「「八堂 楓」、○○○高校と。・・・・・・はっ?」
思わず気の抜けた声が出てしまった。なぜなら画面に表示されている文章にはありえない事が書かれていたからだ。
「「八堂 楓」一年前に行方不明? 朝、駐輪場に入っていくのを目撃されて以降の足取りつかめず? じゃあ、今朝あったのは誰なんだ? 」
気がつくと自分の家にいた。ぼやっとしたしているとポケットの携帯が振動していた。どこか鈍い動作で確認すると、友達からのメールだった。どうやら、俺は気分が悪くなったため早退したらしい。夜になり早退したことを親に聞かれたけど、急な自転車通学で疲れたからだと適当に言い訳をして、明日からもバス通学をしたいことを伝えるとしょうがないわねえっと呆れた顔をされた。
それからは当然バス通学に戻り、自転車は休日の移動手段になった。学校には自転車で行かない。そんなことを決めて生活しているとあっという間に二ヶ月が過ぎると妙なことも頭に浮かばなくなり、半年も過ぎると完全に忘れていた。
そんなある日、遅くまでゲームをしたせいで寝坊をした。バスを待っていたら遅刻が確定なため急いで着替えて自転車に飛び乗った。今日は一時限目が小テストだから遅刻するわけにはいかなかった。昨日の俺、なんでゲームをした。
無事に小テストに間に合い、一日の授業が終わり帰りの下駄箱で、今日は自転車できたことを思い出す。あの日の先輩との会話がなんでか急に頭に浮かんだ。変な考えを振り払うように、勢い良く靴に履き替えると駐輪場まで走っていくと目を疑った。今朝、駐輪場の入口に立てかけておいたはずの自転車がない。なんで?
「君」
自転車がないことに呆然としていると、声をかけられる。思わずビクッと体が反応してしまう。油が切れた人形のように振り返ると、そこにいたのは用務員さんだった。
「駐輪場の入口に自転車を置いていたのは君かい?」
「・・・・・・はい」
「登録が無いから初めてだと思うけれど、ちゃんと止めないとダメだよ。駐輪場の一番奥に移動させておいたからね」
「・・・・・・すい・・・ません。ありがとうございます」
言われたことに愕然としながらも、よろよろと奥に向かっていった。用務員さんに何か言われたような気がしたけど、わからない。ただ、奥を目指していた。やがて自分の自転車が見えてくる。止まっている場所は、前に先輩に止めない方が良いって言われた場所だった。ボーッと自転車を見ていた。誰かが来れば違うのに、体感で十分経っても誰も来ない。自転車で帰らないとっていう考えに体がよろよろ向かっていく。相変わらず誰もいない。部活がない生徒もいるはずなのに誰も来ない。止めてある他の自転車は一体誰のなんだ? ぼやっとした頭でぐちゃぐちゃ考えてると、手がいつの間にかハンドルを握っていた。そして、絶対に誰もいなかったはずの後ろから肩を掴まれた。
「よう、やっと順番をまわせるわ。長かったぜ。ははっ、あハハハはハハhaハハハはha」
完全に狂ったように笑うこいつの言葉で、やっと先輩の言うことが理解できた。
なぜなら、俺の名前は「十柿 慶太」だから。たぶん後ろで笑ってる奴が「九」。それで「十」の俺の番なのか。次の番はいつになるんだ?「十一」なんているのか? いつなんだ? いつ順番は次にまわるんだ? そんな考えとともに、意識が黒く染まっていく。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
私はホラーはじわじわくる方が好きなので、少しはそんな感じが出てたでしょうか? あと、前書きでも書きましたが、ホラーは難しいです。