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月に憧れたスッポン

作者: 綾戸いずな

 はるか昔に、月に憧れたスッポンがおりました。スッポンは空が暗くなる度に、見上げては月を探しまず。それは季節も天気も問わず、毎日のことでした。奇妙に思った仲間のスッポン達は、彼のことをじばし馬鹿にしました。それを知っていても、スッポンは天に浮かぶ輝く丸を眺め続けのです。

 スッポンが大人になった頃、彼はふと、月へ参りたいと思うたのです。そうなると居ても立っても居られず、あれこれと勘案しました。何百も飛び跳ねたり、岩の上からジャンプもしました。けれども、一向に月に近づく様子はなく、ただただ疲労を重ねるだけでした。

 そんなある日のこと、スッポンの前に一匹のカエルが現れたのです。これはスッポンの知らないことですが、このカエルはちまたで有名な嘘つきガエルだったのです。

「おい、スッポンよ。あんた、月へ行きたいんだって、俺が行き方教えてやるよ」

 籠った声で言ったカエルは、スッポンよりも遥か高くに、何度も飛んでは着地しを繰り返しました。

「本当かい? 教えてくれよ」

 半分諦めかけていたスッポンは、突然の朗報に、陰鬱とした顔を一気に明るくしました。

「どうするんだい?」

 悪そうな笑みを浮かべたカエルは、嘲笑混じりに喋り出しました。

「それはだな、月に一番近い山の頂上へ行くんだ。但し、ただ行くんじゃなくて、大きな石を背負って行くんだ。じゃなきゃ、月には行けない」

 次の日から、スッポンは月に一番近い山に向かいました。その道は、スッポンには非常に過酷で、本来ならば途中で断念するものであった。尚且つ、背に大きな石を乗せて歩くというのは、不可能なことだった。けれどスッポンは、月に行きたという一心で、幾月もかけて山の頂きに辿り着きました。

ーーやっと着いた、これで月に行けるのだ。

 でも、いくら待っても月に行けません。ついに騙されたことに気づいたスッポンは、カエルに怒る気力もなく、疲れた身体を休めるために、一眠り就くことにしました。

 スッポンの身体がふわふわと浮上して行きます。夢だと思ったスッポンですが、その景色の明朗さに、これは本当に上昇しているのだと思いました。

 そうなったらスッポンは大笑いしました。これは喜びからくるものです。

 雲を幾つも超え、次第に雲に出会うこともなくなります。辺り一帯は完全な夜に代わりにました。

 月があります。それに徐々に接近し、地球の形がわかるようになった頃でしょうか、忽然、スッポンの浮上は止まってしまいます。

ーーどうしたんだ一体、後少しで月に行けるんだ。

 いくら叫んでも、月に近寄ることはありません。そこでやっと、気づいたのです。自分は月には行けないのだと。月とスッポンの間には、想像できない巨大な隔たりがあるのだとわかったのです。

 それでも、後悔はありませんでした。最期に、これだけ大きな月を見れたことに、甚だ感激したからです。

ーーこれでもう、やっと還ることができそうだ。さらば月よ、私はもう……

 笑ったスッポンは、ゆっくり眠りに就きました。その姿は、月の美しさとそう変わらないものでした。

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