第七話 男のロマン
「えー、明日から二日間、電動工具フェアを開催します。
各メーカーから応援スタッフが参ります。売り上げ、
二日で1千万目指して、がんばりましょう。」
店長の挨拶で朝礼が終わり、「よろしくお願いしまーす!」
と一斉に一同気合を入れた。
「二日で一千万かぁ、厳しいなぁ。」
主任が言う。
「天気いいみたいだし、大丈夫ですよ!」
「水戸はいいね、根拠が無い自信はどこから来るんだろうね。」
なんだよ、ミスター嫌味め。
「しかし、電動工具フェアっていつも凄い人ですよね。
しかも男の人ばっかり。なんか熱いですよね。」
「そりゃ、そうですよ。電動工具は男のロマンですもん。」
後ろから矢口君が言った。
「へえ、男のロマンねえ。そういえば、矢口君っていろんな工具、持ってるよね。」
矢口君は修理担当で、工具は全て自前だ。
「矢口君はフルアーマーだもんね。」
私が笑うと、矢口君は私に言った。
「水戸さんだって、フルアーマーじゃないっすか。」
私を指差した。
私のエプロンの右肩からは、ノギス、メジャー、シャチハタなどがすぐに使用できるように
ジャラジャラぶら下がっていて、胸ポケットにはカッターボールペンが常に3本刺さっている。
だから歩くたびにガシャガシャ音がするので、すぐに私だとわかるそうだ。
翌日、文字通り、男のロマン、電動工具フェアが始まった。
各メーカーのブースに男たちの息が熱い。
不覚にもまた、仕事中にもかかわらず良からぬ想像をするところだった。
私がイマイチ想像力をかきたれられないのは、オッサンだったから。
熱い、オッサンたちが熱いよ!
普段売れない、高額な電動工具たちがどんどんお買い上げされていくのだ。
「お買い上げありがとうございまーす。」
張り切ったメーカーのオッサンたちの声も高く、上気したオッサンたちの祭りは
ピークを迎えた。
オッサンたちの顔が上気している。
キャッキャウフフしているオッサンたち。
でも、その気分も今のうちだ。
ついに欲しかった電動工具を手に入れた。
スキップしそうな勢いで帰っていくオッサンたち。
でも、家に帰って、オッサンたちは地獄を見る者、
冷静に自分に立ち返ってしまう者、そして勝者に分かれる。
果たしてこれは本当に自分に必要な物なのかと考える者、
はたまた、真っ向からこれは必要ではないと否定される者、
嫁とのファイトに勝利した者のみが自分の物にできるのだ。
翌日、さっそく敗者が店を訪れた。
「あのう、すみませぇん。これ、返品したいんですけど~。」
得てして男のロマンは理解されないようだ。