第十二話 ライバルは突然に
今日から3日間、わがナイス菅井店は店を閉めて改装に入る。
他店やメーカー、本部からも応援人員がたくさん来るのだ。
ざっと見ただけでも総勢100名は居るだろうか。
ナイス菅井店は創立12年らしいが、初めての大改装だ。
朝からざわざわしている。店長が店内放送で呼び出しをかけて、
メーカーや本部の人間、他店からの応援人員も全員で朝礼をした。
朝礼後、各人それぞれの担当に散り散りになり作業を始めた。
棚の配置も大幅に変えるらしい。
わたくしは、ふと何の気なしに、佐久間の方を見た。
すると、佐久間が、知らない綺麗な女性と話をしていた。
誰だろう?私が、見ていると後ろから矢口君が
「気になります?」
と声をかけてきて、意味ありげにニヤニヤしていた。
「べ、別に。」
私は明らかに動揺している。
「またまたぁ〜。素直になりなさいよ。あの女性ね、佐久間さんの
元カノ。まあとっくの前に別れてるみたいっすけどね。」
「へ、へーそうなんだ。」
私は自然な態度を装ったが、絶対に不自然な態度だ。
「彼女、佐久間さんと同期なんですけど、彼女の方が先に出世しちゃって。南沢井店の店次長なんですよ。やり手らしいですよ。ま、そういうのってやっぱ男って引け目感じちゃうじゃないですか?二人とも結構妥協を許さないタイプだから、なんかうまくいかなくなっちゃったらしいですよ。ま、過去のことですから。今は、佐久間さんは水戸さんしか見えてませんからね。」
私は赤面した。
聞いてもないのに、矢口君が私にペラペラ情報を入れてきた。
はあ、聞かなければ良かったな。
なんか、あの二人、お似合いだな。美男美女で。
私の視線に佐久間が気付いた。
佐久間が何か言いたげに、私の方に向かって歩いてきた瞬間に、佐久間は店長に呼ばれてどこかへ連れられて行ってしまった。
その日は夕方遅くにまで作業が及び、私達パートは6時に解散し、正社員達は作業後のお疲れ会でどこかへ食事に行くらしい。佐久間の横にはやはり、あの女性が居て親しげに話していた。
復活しちゃったりして、あの二人。
そんなことを考えると、なんだか、惨めな気分になった。
私って、別に佐久間の彼女ってわけじゃあないものなあ。
「おつかれさまでーす。」
私が正社員達にそう声をかけると、初めて佐久間が私に気付いた。
「水戸!」佐久間が私の名を呼んだ。
だけど、私は無視してしまった。聞こえないふりをしたのだ。
うわー、私、感じわるー。でもたぶん、今すごい顔してる。
佐久間の顔なんてまともに見れるわけがない。
「おー、腹減った。早く飯行こうぜー。」
正社員達に流されて、佐久間の姿が消えた。
私は家に帰って猛烈に後悔した。あの態度はないよな、私。
「ねえ、母ちゃん、なんでもっと綺麗に産んでくれなかったんだよ。」
私は母ちゃんにまで八つ当たりした。
母ちゃんが烈火のごとく吼えた。
「はぁ?何いってんの?人のせいかよ!自分でチャンスをフイにしといてよく言えるよな?」
しまった、墓穴を掘った。折角の縁談話を断って、私は親の面目を丸つぶれにしたばかりだった。
「ははー、冗談冗談。」私はごまかしながら、まだ怒りにチンチンに沸いてる母ちゃんをダイニングに残し、自分の部屋に篭った。
なんだよ、奈津子。たかが元カノといっしょにご飯食べに行っただけじゃんか。しかも大勢だぞ?枕にぽすんと顔を埋めた。
すると、ベッド脇のサイドテーブルの上で携帯が振動した。
私は表示を見て、飛び起きた。佐久間だ。
「下に居る。降りてこれる?」
え?嘘、私もうパジャマだよ。急いでそこいらの服をまとい、
カーテンを開けた。すると、家の前に佐久間が立っていた。
私は返信ももどかしく階段を駆け下りた。
「どうしたの?ご飯、行ったんじゃないの?」
「あぁ、ご飯はもう食べた。みんなが二次会行こうとか言ったんだけど、俺、抜けてきちゃった。」
私は、何故か涙が出てきた。
「な、なんで泣くんだよ、バカ。矢口君に何吹き込まれたか知らないけど、俺、もうあいつとはぜんっぜん関係ねえから。」
「・・・うん。ごめん。」
「ったく、すぐ勘違いするんだから。」
佐久間が私の頭を撫でた。
さっきまで、気分はどん底だったけど、すごく幸せな気分になった。
「ホント、お前、バカだな。」
佐久間が私を抱きしめた。
私ってば、自分で思う以上に佐久間が好きだ。




