第十一話 デートと言うには中二過ぎる件
私、水戸奈津子は、高田敦さんとはまた違った、いやな緊張感の中、佐久間を待っています。
今までは、職場の仲間として、ふざけ合ってお互いをこんなに意識する時が来るなどとは思ってもみなかった。口を開けば、憎まれ口しかたたかなかった佐久間からの突然のデートの誘い。緊張しないわけがない。
あ、来た。
私は、今すぐ走ってここを逃げたくなった。心なしか、佐久間もこちらに気付いているようではあるけど、なんだかそっぽを向いている。
たぶん、あちらも私と同じで、ガッチガチに意識しているからそういう態度なんだろう。そんなことを考えていると、そんなに暑くもないにも関わらず、額からダラダラと汗が流れた。
「おう、待ったか?ごめんな。」
佐久間の顔が赤い。なんだよ、そんな態度されると私も緊張しちゃうじゃん。
「だ、大丈夫、私も今来たところだよ。」
「じゃ、行くか。」
佐久間が歩き出した。私は慣れないハイヒールをはいてきてしまったので、ちょっと歩きにくかった。佐久間にいつもと違う自分を見て欲しいと思ったのだ。
「なんだ、歩きにくそうだな。何でそんな靴履いてきたんだよ。」
佐久間がいまいましそうに言う。
何よ、せっかく人がオシャレしてきたのに。佐久間はかわいい顔をしているけど、オシャレには無頓着なようで、普段と変わらぬ格好をしてきていた。なんだか、私だけオシャレして、馬鹿みたい。私が、ちょっと拗ねてたら、佐久間が黙って手を差し伸べてきた。
私が驚いた顔で見ると、
「ほら、つかまれよ。転ばれたらみっともないだろ。」
と、照れくさそうに佐久間が言った。私は嬉しくて、佐久間の手を握った。
なんだなんだ、このフワフワしたくすぐったいような、きゅんとするような気持ちは。敦さんの時は、こんな気持ちにはならなかった。
やはり、私、佐久間のことが好きなんだ。
映画を観たあとは、同じ〇ンダムオタクとして、興奮冷めやらず、映画の話に花が咲いた。やはり趣味の合う人間と見るアニメは楽しい。
その後、私達は、ゲーセンめぐりをしたり、本屋を巡ったりして一日を過ごした。佐久間も楽しそう。良かった。
敦さんとのデートの時は、相手の反応が気になって、だいぶ大人のふりをして、自分らしさを失っていたけど、佐久間の前だと、なんだか、本当の自分で居られる気がする。
ファミレスで夕飯を共にしその後、電車に乗って同じ駅で降りた。
お互い別方向だったので、駅で私はここで、と言ったら佐久間が
「バカ、一応お前女だろ。送らせろ。何かあったら俺の責任になる。」
とぶっきらぼうに言った。一応って何だよ。私はくすりと笑った。
私の家までの道すがら、佐久間が心配してきた。
「足、大丈夫か?そんなの履いてきやがって。」
また私に手を差し伸べる。佐久間、優しい。
私は佐久間に甘えてるみたい。佐久間の手が優しい。
「今度は、そんなの履いてくんなよな。普通の履いてこいよ。」
私は、そう言われて、佐久間の顔を見つめた。
そっか、今度があるんだ。私はとびきりの笑顔で
「うん、そうする!」
と佐久間の腕にしがみついた。
「な、なんだよ、バカ。急に。危ないだろ。」
佐久間の顔が夕日に照らされて、真っ赤に見えた。
「うち、ここだから。」
私は佐久間の手を離し辛くなった。
帰りたくないと思った。このままずっと佐久間と居たい。
私の気持ちが佐久間にも伝わったのか、佐久間の手が
私を引き寄せた。佐久間の手が、私の背中に回る。
今までのどんな瞬間よりもドキドキした。
「今日は楽しかった。また誘っていいか?」
「うん。私も、めっちゃ楽しかった。またデートしよ。」
まだ、好きだとは言われていないけど、好きだと言われるとたぶん、別の悩みや不安が押し寄せてくるんだろうな。そういうのが恋っていうんだろうな。私は淡い期待を抱きながら、佐久間に小さく手を振った。
佐久間も手を振りかえしてきた。
「じゃ、また明日、会社でな。」
また明日、この言葉がこんなにも素敵な言葉だなんて。
翌朝、私は後ろから殺気を感じた。
「水戸しゃん、酷い。佐久間さんとデートしたそうじゃないですか!」
後ろには真っ黒装束の大女が立っていた。
「さ、佐藤、ごめん。佐藤、佐久間が好きなんだっけ?」
私が恐る恐る言うと、佐藤は頭をブンブンと振り、ひっつめ髪を振り乱した。
「私が許せないのは、佐久間君が矢口君と結ばれなかったことですよ!勘違いしないでください。何で女なんかと。」
佐藤は、よよよと鳴き真似をした。
「あ、あは。私も腐女子だけど、アンタのは深いね。」
「そうですよ?私を甘く見ないでください。」
佐藤、恐るべし。