第十話 本当に大切なもの
「本日より4日間は創業祭です。ライバル店グッドライフもこれに
ポイント5倍セールをぶつけてきています。
ぜひ、当店に足を運んでいただくよう、皆さん一丸となって
接客中心で本日はお願いいたします。
今日も一日、がんばりましょう!」
店長の挨拶とともに、それぞれが持ち場についた。
「佐久間さん、最近、水戸さん、元気ないっすね。」
矢口が言った。
「そっか?まあ、いろいろあるんだろ。よく知らないけど。」
本当は知っている。たぶん結婚するなら仕事を辞めろと言われたことを
ずっと悩んでいるんだろう。
「水戸さんって、元々はよその会社で事務員さんしてたらしいですね。」
「ああ、短大卒業して、地元でもそこそこの会社だと聞いたな。」
「なんで、辞めてここでパートで働いてるんでしょうかね?」
「うーん、噂なんだけど、どうやらセクハラを受けたらしい。」
「え、あの水戸さんが?」
「うん。なんか若い子だったら誰でもセクハラしちゃうようなスケベ上司だったらしい。
で、水戸は、セクハラするんだったら人を見てやれよ、空気読めよとかなんとか言って
その上司の向こう脛を蹴ったらしい。」
「えー、そんなのでクビになったんですか?それって明らかに上司が悪いじゃないですか!」
「うんにゃ、水戸から辞めたらしい。こんなアホ上司と仕事なんかできん、ってw
らしいよな、なんか。」
「それで就職にあぶれて、とりあえずここでアルバイトからパートってわけか。」
「そそ。でも、いずれは正社員にしてもらえるんじゃないかな、たぶん。
そういう話もチラホラ出てるらしいから。」
「水戸さん、ああ見えて一生懸命仕事しますもんね。割と臨機応変だし。」
「まあね。店長もいろいろ言っても水戸を認めてはいるんだよ。」
「結婚したら、仕事辞めるのかなあ、水戸さん。
結構いじり甲斐があったのになあ。あの人。」
「いじり甲斐ってwまあ、天然だからね、あいつは。」
佐久間は少し寂しそうに笑った。
その日は、怒涛のように忙しくなった。
「ただいまより、タイムセールを行いまーす。」
そう言いながら水戸が鐘をカランカランと鳴らすと、特設会場のワゴンに
どっと人が押し寄せた。
「ただいまより1時間、ワゴン内のものが全品半額ー、全品半額となっておりまーす。
ぜひ、お買い求めくださーい。」
水戸の大きな声が響く。
もうすぐこの声も聞けなくなるのかな。
佐久間はそんなことを思いながらも、一緒に声を張り上げた。
「お買い得商品満載でーす。ぜひお立ち寄りくださーい。」
水戸は佐久間の後姿を見て、ある決意をしていた。
あくる日の朝、佐久間がぼんやり駐車場を歩いていると
後ろから背中をバンと叩かれた。
びっくりして振り向くと、満面の笑みを浮かべた水戸が立っていた。
「なんだ、脅かすなよ。」
「おいっす!今日も元気かね!」
「ていうか、元気だな、お前。」
「うん、すっきりしたからね。」
「は?何が?ウンコでも出たのかよ。」
「バカ!小坊か、お前は!えーっとね、バイバイしちゃった。敦さんと。」
「え?なんで?」
「やっぱ、仕事したいからねー。」
「そんなことで別れたのか?そんなに理解ないのか、そいつは。」
「敦さんを悪く言わないで。私が優柔不断だったのが悪いのだから。
それに、さよならって言ったのは私のほうだから・・・・。」
「は?なんで。バカじゃね?玉の輿、フイにしてまでしがみつくような場所かよ。
いつ正社員にしてもらえるかもわかんない会社に。」
「うーん、まあ仕事のことだけじゃないんだけどね。」
「何かあったのか?」
佐久間が心配顔になった。
「内緒w」
「・・・・?意味わかんね。」
でもまあ、水戸が決めたことだから。
なんだか本当にすっきりした顔してるし。
その様子を後ろから店長と副店長が見ていた。
「なーんか、もどかしいねえ、あの二人は。」
副店長が言うと
「ホント、俺、イライラするわ。」
と店長が言った。
「お互いが鈍だからねえ、あいつら。」
「そうですねえ。」
佐久間は帰りがけに店長に呼び出された。
「これ、やるわ。」
「何ですか?これ。映画の券じゃないですか。」
「息子と行こうと思ってたんだけど、行けなくなったから。」
「2枚ありますね。じゃあ、矢口君でも誘うかな。」
「水戸を誘え。」
「え?なんでですか?誰でもいいでしょ?」
「お前なあ、いい加減気付け。自分に正直に生きろ。」
そう言われて初めて意図がわかり、佐久間は赤面した。
「べ、別に、僕は、水戸のことなんて。。。。」
「いいから!店長命令だ!」
無理やり手渡された。
佐久間は、戸惑っていた。
どうしよう。
その時、後ろから水戸が走ってきて体をぶつけてきた。
「おっつかれー。今日は忙しかったねえ!明後日からも頑張ろうぜい!」
そう言って走り去ろうとしたのを呼び止めた。
「あ、待って。明日、暇かな?休みだろ?」
水戸はキョトンとした。
佐久間の顔が赤い。
「ぜーんぜん暇っすよ?」
「こ、これ。一緒に観に行かないか?」
店長と副店長が陰からガッツポーズを送ってきた。
「〇ンダムじゃん!観たかったんだよね、これ!
でも、矢口君誘わなくていいの?3人で行く?」
店長と副店長はガクっと肩を落とした。
こいつも、クソ鈍い。
「なんでやねん。二人で行きたいって言え!」
陰からジェスチャーで一生懸命佐久間に伝える。
佐久間はしどろもどろになった。
「いやさ、店長がさ、息子さんと行けなくなったから、
俺に水戸と行けって言うからさ。」
店長は頭に手を当てて「あっちゃー」というジェスチャーをした。
それを見て、佐久間は汗だくになった。
「えー、なんで店長そんなことを?」
「じゃ、なくて!俺が水戸と映画に行きたいんだ!」
言った、ついに言った。
よっしゃあ!と店長と副店長がガッツポーズをした。
水戸はみるみる耳たぶまで真っ赤になった。
「うん、じゃあ一緒に。」




