第9話・看護に対するパワハラについて
医師がやる看護師や医療事務員に対するパワハラの話し。
結構見聞きするが改善方法を聞いたのでここに書く。
医師は忙しい。いや医療にかかわるものはみんな忙しい。だが医療のヒエラルキーのトップにいるのはやはり医師だ。治療方針や薬品の処方にリハビリや病人食の裁量権をもっているからだ。自分の指示で他の医療者は動く。責任重大だが日々の業務に忙殺され、それで他者への思いやりを失っていく。
目の前の仕事もやっつけ仕事になる。受け持ち患者はたくさんいる。やってもやっても仕事は片付かない。
心が渇いてしまうんだろう。
だがストレスのはけ口にされる患者や看護師はたまらない。あの先生、怖いって言われてるのも気づかないパワハラ医師。
ある病院にそういう医師がいた。年齢40代はじめで医師としての経験も積み、正に脂がのっているベテラン。しかも当直を嫌がらず積極的にこなしてくれる。勉強熱心で大変貴重な医師である。ただ1つ欠点があって彼は言葉遣いが大変乱暴なのだ。
患者に対しても説明の呑み込みの悪い人には露骨に嫌な顔をする。
特に当直で急を要する時に、看護師が思うように動いてくれないと怒鳴る。患者がいようがいまいが怒るのだ。
「なぜもっと早く器具を出さない」
「こんなことも知らんのか」
「段取りが悪い」
「医者を待たせてよく平気だな」
「何年看護師をやっているんだ、あほ!」
「同じことを何度も言わせるな」
すみません、すみませんといいつつ患者の前で涙を見せないで健気に働く看護師。
その場その場で怒っても根本的な解決にはならない。でも彼には時間がないのだ。それで自分の思うように動かない看護師に怒る。
怒られても言い返せない弱い立場、遠慮ってものがある。だからまわりのものは何も言えないでいる。
あの先生と当直ペア組みたくない、大っ嫌い。
その声が相次ぐが、医師に対して看護師はそういう苦情があるのを、たとえ婦長という役職であっても大変言いにくいものだ。
一計を案じた婦長と事務方はあるとき病院研修でパワハラ特集を組んだ。講師を呼んでミニ勉強会を開催したのだ。業務終了後の研修は出席義務はないので有志でやった。
だが病院研究と名乗った以上は報告として「回覧」というものがまわってくる。研修会で使用した(講師が配った)プリントやスライド内容を閲覧できるようにするのだ。それにちょこっと細工する。
婦長はその勉強会のあとの参加者の匿名での「感想」も一緒に入れておいた。受講した看護師たちに今まで受けたパワハラもくわしく書くようにと指示したのだ。
そして医局に行ってその医師の机の上に特に目立つように置いていく。
「あれもパワハラだったのだと講師に言われて、今気付きました」
「こんなこともできんのかって言われました」
「患者の前でこれじゃないっていってるだろって揃えた盆ごと放り投げられました」
「呆けた患者本人の前で診察終わったらさっさとあっちへ連れて行けって言いました」
「回覧」と称した以上は閲覧したら自分の名前のところに印鑑を押さないといけない。熟読しないまでもざっと読むだろう。婦長の読みは当たった。
で、ちょっとは小言、おさまったそうです。その医師も人の子だし頭は良いのでここに書かれた感想は全部自分のことだなってわかったみたいです。