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第8話・病人に対する医療従事者の虐待

 いろいろな話を聞く立場にあります。

 今回は虐待関連。社会的現象とも言われ気味だが、実は虐待は昔からある。ちょっと昔の日本でも初潮も来てない少女の売り買いもあったし(昔の日本では場所指定で売春が公認されていた)働けなくなった老人も田舎の山や沼に捨てられていたという。

 だが今は現在の話し。治安が良く保健関係も完備? されている住みやすい? 日本での話し。


 小児虐待、老人虐待。虐待も対象によっていい方が変わる。

 それは弱い立場で抵抗できないひとを一方的に身体的もしくは精神的にいじめるもの。それが虐待。 

 だが最近マスコミで報じられるケースでは悪質なことが多い。


 虐待する人の心理。それはその状況か生育環境までさかのぼらないと解明できないか、もし解明できても根本的に人間は性善説な生き物だと思うが、でも3分の1は性悪説めいたところもあるので絶滅はしないだろうと思う。された被虐待者の心理はまた別の話になるのでここでは書かない。


 今回は病院内等施設内の病人虐待について。(老人、小児の場合は後述します。)


 悪いことに虐待は発見されにくい。見つかって新聞沙汰になったケースでも施設や病院と言う密室の中で複数の介護人がいる場合はさて一体だれがこんなことをしたのかわからん、ということもある。

 あまり悪質な場合や死に至らしめてそれが露見した場合は、当然逮捕という形で社会的制裁を受けることになるが、それは氷上の一角と見ている。逮捕された人も証拠もないのに、と無罪を主張する場合もあるし、もしそれが本当であれば冤罪になる。難しいことだ。


 私が最近聞いた話を書こう。

 患者は八十歳代、脳梗塞の再発で全身マヒがあり寝たきりになった。食事やトイレ何もかも介護する必要が生じる。医師はこれ以上治療しても改善しないだろうと、施設入所をすすめるも、本人の意志表示がはかろうじて動く右手で文字盤をつかってできる。

 本人は施設入所は望まない。病院治療を望んだ。しかし脳梗塞発作後の時間経過による硬縮があり、リハビリは定期的にしてはいるもの、もうこれ以上の改善は望めない。またこれ以上の治療もないし、現状維持の状態。

 これを何度本人や家族に説明してもがんとしてゆずらない。一応受け入れ先が救急指定だったので、救急期を脱すると医師の紹介状等を通じて転院という形にしてもらわないといけないが、本人に糖尿病あり(インシュリン注射あり)胃ろうあり(1日3回の食事ごとに栄養剤を胃から入れないといけない)トイレは行けず紙おむつ対応(介護が大変)の3重苦。

 この上に咳や痰が自力で出せないので、定期的に様子を見てその都度吸引しないといけない。これがどういうことかというと、受け入れ施設がないということ。あっても期間限定。次の次までの受け入れ先を決めないといけないのだ。

 インシュリン注射や胃ろうへの処置は基本的に看護師がすることになっている。吸引もそうだがいずれはヘルパーが処置するもの可能になるだろう

 さてこういう状態でその患者はもう半年も入院している。この人には膝腰の弱っている奥さんが杖をつきつき毎日付き添いにやってくる。経済的には心配ないらしく毎日行き帰りタクシーでくる。娘が1人いるがこれが病弱で毎日別の病院通いの状態。つまり中心になる介護人や受け入れ先のない病人と言うことになる。

 この奥さんがいつものように朝の8時にタクシーにのっておなじみの愛する夫の部屋、個室に「おはよう、あなた」とやってきた。すると主人の様子が変で、奥さんの顔をじっと見つめて泣いている。一生懸命胃ろうのお腹を示して何ごとかを訴えるが発語ができないので、何を言っているのかわからない。

 いつもの感情失禁にしては変だ。

「お腹が痛いの?」

「お腹がすいたの?」

 いろいろ聞くが首をふる。(首をいやいやする動作と右側の指のみ動く)奥さんはふと思いついて

「……もしかして看護師にいじめられたの?」

 すると夫は奥さんの顔をじっと見つめてうなずく。しかし口角麻痺もあり、どういういじめられかたをしたのか皆目わからない。


 奥さんは私に必死に訴える。

「ええ、食事介助もトイレ介助もしてもらってます。だけど何かが変なんです。主人がいじめられているのです」

 正確には本人の意思表示から話しがはじまっている。

 こういう場合、双方から話を聞くものだが、本人の勘違いということも多い。だが看護師にもいろいろいるのも知っているから勘違いと言うこともなくはない。(残念だが看護師は奉仕の精神がないとできない職業と思っている方も多いがそうでもない人もいる。)

 結局婦長が本人に対して時間をかけて文字盤を介してきいたところ、

1、夜間のナースコールを押せないように棚の上にわざとあげられてしまった。

2、胃ろうに栄養剤を入れるたびにお腹をつねられる。(しかしつねられた形跡はない)

3、食事にむせてこぼしたら、たたかれた。舌打ちされた。

4、トイレ介助のときにつばをはかれた。

 以上。動けない本人にとっては言葉も言えないしつくづく自分が情けなくてしかたがなかったのだろう。しかし彼はぜんぜん呆けていなかった。視力もよい。

 その看護師は?と婦長が問うと○さんとはっきりと文字盤で示した。

 ○さんに婦長がよくよく話を聞いてみるといつもつきそいの奥さんがいて、介護がしにくい。いつも見張られているように感じて苦痛だったという。それでいらいらして奥さんのいないときにちょっと乱暴な扱いをしたかもしれないという回答。

 だが、本人が涙を流しながらお腹をつねられた、と訴えたことは○さんは「あの人の勘違いです」と言い張る。証拠もないので婦長も強く言うわけにはいかない。結局婦長が今後看護師に笑顔と思いやりの仕事をするようにと言われて、うやむやにされた。


 …上記のような瑣末な例は表にはでない。しかし日常的にありえる話しだろう。看護師もヘルパーも今は人手不足で、勤務もいっぱいいっぱい。疲れるのも無理はない。

 しかし家族がいつも付き添いと称して見張っている状態だと感じると家族がいない夜間にそのいらいらのツケを患者本人に対して憂さ晴らしをする人もいるわけだ。

(患者のいうことが本当ならば彼が泣くのも理解できる。そういういじわるな看護師でも尿や便をとってもらい、胃に栄養剤や薬を入れてもらわないと生きていけないからだ。私はこの患者の元気なころの人となりを知っているので、プライドが粉々になったのだろうと思う。)


 新聞にでるのは生爪はがし、携帯カメラで痴呆患者に変な格好をさせて笑い物にするなどの肉体的や精神的に行きすぎた虐待である。殺人にいたってはボールペンで目をついたり、肋骨を折ったりする看護師がいたが、それもありうる話しだと思う。

 弱い立場を強い立場の側が虐待する。軽い気持ちで会ってもそれは犯罪になる。それがわからずストレス解消の対象にするものは正に悪人である。だが表面にはでなくともいつかはそれが白日にさらされることになるだろう。

 残念だが虐待はゼロにはできない。

 だが虐待する側の意識改善はある程度はできるはずだ。看護師やヘルパーに限らず医師等も、医療従事者たるものは人の心の痛みをわからないとプロとしての仕事はできないはずだ。



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