第24話・VIPな人
病院にいるといわゆるVIPといわれる人にでくわすこともある。VIPといえども人間である限り病気や怪我もする。病院にきて診察してもらい、時には入院するわけだ。
以前いた病院に知名度抜群の医師が数名いて、ある疾病にかかった患者はその医師を慕って全国からくる。その中に数は少ないがVIPがいる。守秘義務は当然あるので、差し支えない程度にちょっと書いてみる。
というのはVIPは当然ながら社会的に影響を与える人ということだ。だから常時人々に囲まれている人が多かった。(SPというのか警備がつく人はこっちも気を使う。診察時間も他の患者と一緒じゃない、特別扱いだ)
顔を知られている政治家を除いて芸能人関係ならば偽名で呼んだりすることもあった。
だがVIPだからといってまた大金持ちだからといって決して幸せとは限らないと思う。それゆえ孤独な人が多かったように思う。VIP同志あうとまた違うのかもしれないし、たまたま私があった時期はそのVIPさんにとっては病気で入院中でナーバスになっていたせいかもしれない。
いくら議員さん、名の知れた大金持ち、芸能人でも病気になる。普通の人間には変わりない。各種検査だって名前がなく診察IDだけだと本当に有名人だって普通の人間だな、と思う。
VIPだからといって変わったことをいうわけでもないし、まわりを振りまわすような人でもないし、従順でよい患者さんばかりだった。
だが一部の例外がある。
それはずばり、医師の患者さんだ。特に現場を離れた元医師。気を使うと言う点でVIPのカテゴリに入れておく。有名無名問わず、医師の患者は治療がしにくい、のではないかと思う。
たいていの医師は意見をはっきりいう。自分の治療方針のやり方について少しでも疑問があるとこうしてくれ、とかいう。若い医師をばかにする人もいた。
病院経営者の医師もいたがこちらの病院にわざわざ入院したのに、処方された薬が気に入らず文句を言う。指名されて光栄です、とかいっていた担当医だって人間だ。
詰め所で「ぼくの処置が気に入らないんだったらそれはそれでいいけど、自分の個人の持ち物の病院があるんだからそっちで入院してほしいな、文句ばっかり、何しにきたんだろーな、あの○○先生は~…」 とか愚痴をこぼしていた。
珍しいケースにもあった。
医師という職業を名乗らず黙って入院して治療を受けられたのだ。だが長期にわたるといずれはばれる。
一度それがわかった時に彼は私に黙っていてくれと頼まれた。
どうしてか、と聞くと同業者はやりにくいだろうしな。それに雑居の大部屋にいたほうが患者の本音がわかって勉強になるんだ、だから黙ってくれ、気をつかわれるのはかなわん、とか言ってた。私はこの人はいい医師だと思った。もちろん最後まで黙っていた。
医師もしくは医師の家族は特別扱いを望む人が多かったように思う。なまじ病院の現実を知っているだけに言いたいことは言わないとソンとでも思うのだろうか。まあそういう面はなきにしもあらず。




