第18話・保険証の貸し借りはするな!
医療事務の子がなにやらかたまっている。
「?」 と思っていたら「ねえねえあの人……いくつにみえますう?」
「ん?」
そっとカウンターからのぞいたら作業服をきた男の子が入り口にすわっている。何やら挙動不審だ。
「どうみても二十代かな? どうかした?」 と聞いてみたら保険証と問診録がヘンなのだと言う。
「保険証には五十四歳とあります、それと問診票は名前と年齢欄が空白です」
「父親のを間違えてもってきたのはないか」
「それが本人です、私は五十四歳ですって…」
そこまで聞いてぴんときた。保険証をもってないので、知り合いの優しい? 人に頼んで借りたのだ。保険証がないと自費診療といって全額自己負担になる。たとえば、診療後全部の請求金額が自己負担の場合レントゲンなども撮れば場所と枚数によっては一万円を超えたりするが、保険証で三割負担だと一万円が三千円になるのだ。残りの七千円は保険組合が払う。国民保険や社会保険など。自賠責や生活保護や小児もそれぞれ請求先が違う。
同じ年の人から借りたならわからなかったかもしれないが、見た目二十代が五十四歳です、というのは無理がある。
その若い男は入り口やこっちの窓口を順番にきょろきょろしている。不安げな様子で貧乏ゆすり。ばれないか心配なのか、誰かに追われでもしているのか、それはわからない。
「問診はどう書いていた? 受診の理由だけど」
「腹痛と下痢」
「ふーん」
「あのう…どうしましょうか?」
「それは医療事務の管轄じゃないかな、私にはわからない」 と逃げた。
しかし保険証の貸し借りだが実際どのくらいそれがされているのかはわからない。ずるがしこい奴は他人から借りなくとも生活保護を受けたりなにやら裏技をつかったりして薬を入手したりするからだ。(大した症状でなかったらもちろん売薬でもOKだ)
しかし保険証を貸した方は何を考えているのか。その時には感謝されても結果的にはもし自分が自分のために自分の保険証を使う段階になると絶対的に不利なことがおきるのは明白なのに。
もし自分が本当の病気にでもなったらどうするんだ。たとえば貸した相手と同じ医療機関に診察してもらいにいくとカルテは基本生年月日で保管になるので前の人と一緒になるぞ。
過去その別人がたとえば性病で受診したらその病歴がばっちり残る。極端な話何かの抗原でも(エイズウイルス等)もっていたら医師は当然そのつもりで対応する。そうなったらどうするつもりだろう、どうしようもなくなったら以前私の名前で受診した人は私とは別人です、ほら、血液型も違いますしとか言うのだろうか?
その人はどうなったか……どういう対応をしたかは想像におまかせします。(警察沙汰にはしていないです)




