第17話・訪問看護、訪問介護の人から聞く話
私自身は患者の自宅にお伺いしたことはない。職場に閉じこもりきりだ。だが、いろいろな話は聞く。特に困ったこと。解決しようがない話ばかりだが、その中で印象に残った話を少し。
医療措置が必要な在宅の患者さんのために、そのご家庭に入る。しかも定期的に。その必要があるからだ。
一定期間を置きながら定期的に通う。患者の病状をチェックするのが第一目的であれども、そのご家庭内のことが漠然とだがわかってくる……。特に家族の関係、家族の間で介護でもめているとすぐにわかる。介護者と家族とがうまくいってないと、それもわかる。逆に家族間がよくても、ペット放置主義で清潔さに欠ける家とか……。
あとは業務外の頼まれごと。医療機関から医療措置をしにきたり、薬のチェックに来ているのに、便利屋さん扱いされるのだ。
「ついでだからお昼御飯用のお寿司を買ってきてください」
「トイレの電球を交換してくれる?」
「草むしりしてよ」
老人が老人を介護する老老介護のご家庭では、若い人が来ることはめったにない。だから頼りたい気持ちもわかるが、医療側はその家だけではなく、何家庭も回らないといけないのだ。予約制で何時にお伺いしますと各家庭にあらかじめ連絡もしている。職場に帰ればほかの仕事も山になって待っている。だから、時間配分もあるし、断らないといけないことが多い。
それでも手が不自由な一人暮らしの家庭ならば、数分ですむリモコン電池の交換ぐらいは応じる。だけど買い物などはお金のやり取りなどで、また食べ物ならば本人の思っていたのと少しでも違うと、トラブルのもとになる。だから断ることが多い。するとひどい、断られた! と介護者側がショックを受けたり……難しいとこぼされています。
どっちの気持ちもわかるが、今後こういう話ももっと増えるだろう。
訪問側が若くてきれいな女性一人だと、もっと怖いメにあうことも。
要介護者のみの一人暮らしならばよい(いや、それもあんまりよくないけれど)が、女性一人の訪問に限って、家族の男性が半裸の姿でやってきて、ちょっとこっちに来てと手をひっぱられて連れ込まれそうになったり……密室のセクハラはマジで怖いです。だからできるだけペアを組んで訪問するようにしている。
男性ならばゴミを捨ててきてと頼まれ、それぐらいならいいか……と思いきや、それが毎週になったとか。すると後日同居していない家族があなたが捨てたごみの中には大事な書類が入っていたのに、どうしてくれる! と大騒ぎされて弁償するのしないで揉めたり。このケースでは本人が認知症も入っているので、法的な証人にはなれないので大事になったというし大変です。
業務とはいえ、よそ様のご家庭に入るのはトラブルの元なんですよ。訪問介護はもはや当たり前の医療事業になっていますが、医療機関内ではどうやってトラブルを避けるかの研修会もあって大変です。
家じゅうがほこりだらけで清潔さに欠けるご家庭でも指摘しにくいこともあるし、思いきって病人のためだと思って指摘すると家族から激怒され、出入り禁止を言い渡されたとか。いろいろあります。
私が聞いたその人は、ペットでもめたとおっしゃっていました。どんなに気をつけてもペットの毛が靴下やストッキングについてくる=家族が掃除もしない犬猫屋敷。家の中でも老犬がのそのそと歩き、失禁もするのですごく不潔。
ある薬剤師さんが「あの~病人がいる部屋だけはペットを入れない方が……」と言っただけで怒られたと。
「この病人のために私たちがどれほど苦労したか……ペットぐらいいいじゃんか、にぎやかだし、かわいい仕草で本人もにっこり笑ったりするので、慰められるじゃんか」というのが家族の言い分だ。
ペットを捨てろとまでは言ってない、だがこのほこりだらけ、ペットの糞尿もきちんとしつけてないらしく、玄関に入ると動物臭い。廊下にはペットのおやつらしきものが散乱してあったりする。
はっきりいって「ケモノ臭い家」。だがこっちもしつこく相手に「消臭ぐらい気を使え」とも言えない。
確かにペットを入室させないようにしたとしても要介護の病人がよくなるわけでもない。この点は家族の言い分は間違ってはいない。
元々感情的なところがあったそのご家族だんだん感情が高ぶってきたのか、こんなに一生懸命介護をしているのに、ひどい! といいだして「いやまあ……ごめんなさいすみません」とほうほうのていで脱出したと。
医療関係者としてはちゃんと注意はしたが、多分こういうのは聞いてくれはしないだろう。誰が悪いわけでもない。複雑で解決のしようがない。
お役所的な感覚では解決しない個人的な問題もそこら中にあります。残念なことに。




