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5.表面をなぞる。

 目が覚めると、視界には白が充満していた。

 白い壁、白い天井、白い光、白いシーツ。

 どうやら僕はベッドか何かの上に寝かされているらしい。

 視界の左隅に、点滴が見えた。

 もう少し力を入れて、首を左へ回す。そこで、丸椅子に腰かけながら机上の書類にペンを走らせる白衣の男性を確認した。

 久しぶりに、熟睡していた気がする。最近は妙な夢のせいで、しっかりとした睡眠をとれずにいた。

 声を出そうとする。出そうとして、声が出せないことがわかった。喉が酷く渇いているのか、力が入らないのか、それともその両方なのか。

 声の出し方を忘れてしまったかのように、口の開閉だけが結果として残った。そこで、声を出すことは諦めた。どうやら、身の危険の心配は無さそうである。

 ぼう、と白衣の男性の後ろ姿を眺める。若い……とは言えないが、老けているとも、言えない。少なくとも後ろ姿からその年齢を推し量ることは難しかった。しかし、それがむしろ如月を安心させた。そういうような医者を、一人だけ知っていたからである。

「あれ、目が覚めたのかい」

 そうやってしばらく見つめていた医師が、如月の視線に気づいた。

 丸っこい顔に、黒い眼鏡をかけた妙齢の男性。その顔に実にマッチした人懐っこそうな声色が、なんとなしに安心感を与えてくれた。

「お久しぶりです……、嵯峨根(さがね)先生」

 その安心感のせいなのか、今度はすらりと言葉が出た。

 会釈代わりに、顔を上下させる。

 そして、ようやく確信を持てた。自分が賭けに勝ったことを。

 嵯峨根医師は丸椅子を回転させて体を如月の方へと向け直した。

「なに、一年ぶり? 歳取るごとに来なくなっちゃうんだもんなぁ。もっと来てくれないとさ」

「医者がそういうこと言わないほうが良いですよ」

一瞬目を点にしたあと「まったく、そのとおりだ」と嵯峨根医師は苦笑した。

「しかも、今日は、いつもと違うようじゃないか……。僕は、外科医じゃないんだよ」

「それに関しては、返す言葉もありません」

 全くもって嵯峨根医師の言うとおりであった。

 向こうからすれば夜中に血だらけの男が玄関に倒れていたのだ。驚くしか……。

 そこまで思って、意識がある一点に集中した。

「あの、車は―――」

「ああ、それは大丈夫」

 そして問いかけた僕の言葉を予想していたかのように返答がすぐさま返ってきた。

「中に居た男は警察へ渡しておいたよ」

「助かります」

「いやいや、善良な一般市民の義務を果たしただけのことさ」

 そう言って嵯峨根医師は笑った。

「君の体のほうは、まあ、問題は無いよ。命に別条は無い、ってやつだね。貧血みたいなもんさ。ソリタを何本か打っといたら気分も良くなると思うよ」

「はあ。でも、外傷の方は」

 足を動かそうとすると、左足がどうも上がらない。こちらの脚は、昨日女性に傷をつけられた方の脚である。

 また、点滴をしていない右手は、動かそうとすると鋭い痛みが走った。脇腹にも鈍痛が残っている。

「そっちはしようがない。まあ、でも」

 問題ないかな、と嵯峨根医師は続けた。

 問題ない?

 この傷はどうみても今後仕事に支障を来す程度であることは見て取れた。何しろ、普段の自分であっても、昨夜のような不覚をとってしまうのである。

 そこまで考えての発言なのか、それとも単に生命維持の支障、という観点からの相対的な評価なのか、それはわからなかった。

「しかし、君も難儀な人生だね、如月君」

「難儀……ですか」

 嵯峨根医師は目を細めた。

「君を最初に診たのはもう十年以上前になる。十五年くらいかな。あの時点でさえ、既に君は不幸な子供の一員だった」

 十五年……。

 そう、嵯峨根医師との付き合いは、もう十五年にも及ぶのだった。自分がまだ二十歳と何年かしか歳をとっていないことを考えると、かなり長い付き合いになる。

 僕はその昔、難病を患ったことがある。小学校入学したての頃である。その時の大学病院の担当医が目の前の嵯峨根医師であった。少々特殊なその病気の専門医として僕のかかりつけ医となっていた彼が大学病院を出て、ここに開業してからも、僕はここへ通っていた。彼の専門は小児内科である。

「あれから何年か経った頃には君も快復して、やっと来なくなったと思ったら」

 あの事件だ。嵯峨根医師は表情を暗くして言った。

「妹さんは? 元気にしてる?」

 そうして彼の思考が妹へと辿り着くのはむしろ必然であった。その『事件』を思い出したのならば。

「ええ、すこぶる順調です。最近はどうも、学校をさぼることもあるのですが」

「学校をさぼる? それは、あれかな、いじめとか……」

「いえ、それはないでしょう。彼女の態度からすれば、ただ行きたくないだけのようです」

「なるほど。それは」

 嵯峨根医師は少し笑った。

「遅まきな反抗期というやつだろうね。いや、確か君と……」

 そう言いながら嵯峨根医師は机の上の書類に手をやった。おそらくカルテなのであろうそれを見て、話を続ける。

「四つ違いか。まあ高校三年生で反抗期というのは、一般的な範囲かもしれないね」

「普通は小学校か中学校で済ませますでしょう?」

 僕は苦笑しながら言った。その苦笑には、妹の行動への批判的なもの以外に、もっと複雑な感情が籠もっていた。そして、嵯峨根医師はそれを感じ取っていた。

「そう、『普通』はそれくらいで済ますものだ。そして、彼女は『普通の子供』になれなかった」

 普通の子供になれなかった。その言葉が心に響いた。

 響いて、苛んだ。胸の奥で痛みが過った。

「子供時代に、子供に成り切れなかった人間というのは、不幸だよ。それは君にも当てはまることだけどね」

「僕はそうでもないですよ」

「それは表面的な評価だ」

 嵯峨根医師は僕に鋭い視線を向けた。

「しかし、反抗期というのなら、親に対してするものだ。自分のアピールのためにね。もちろん、今の話からすればそれはそんな純粋な感情ではないだろうけど。それでも、親に―――彼女にとってみれば君に―――アピールするための手段なのさ、妹君なりのね」

「だとすれば、早く兄離れしてほしいものです」

「本当に? 案外、寂しいんじゃないの?」

「妹に対する家族的な愛情は、もう五年前に捨てています」

 冷静に言った。僕のそんな言葉に、嵯峨根医師は少し目を見開いた。

 彼にはその言葉の意味が多少なりは理解できるところがあるのだろう。

「早く自立して、一人の普通の女性として生きてほしい。それが今の僕の願いであり、生きる目標です。むしろ、良い男性を探しているくらいです」

 普通の幸せ。

 しかし、普通であるということは、一度その道を踏み外してしまった者たちには、眩しすぎて直視できない、温かすぎて触れられない、そういう意味を孕む言葉であった。

 少なくとも、彼女はその踏み外してしまった人間の一人に違いないのである。

 そして、その責任の一端は僕自身にあった。

 この人生は、そうした贖罪に費やす。

 僕が五年前に誓った誓約を、忘れたことはなかった。

 嵯峨根医師は腕を組んだ。

「しかしね、如月君。人の幸せなんてものは、主観的なものだよ。他人が推し量ろうなんていうのは、傲慢以外の何物でもない」

「それならば、これは他ならない、僕自身の幸せなのでしょう」

「君自身の幸せ、ねぇ……。あくまでも外に求め続けるわけかい。君はほんと根本的なところが変わらないね。あの時もそんなことを言っていた」

「あの時? いつのことです?」

「君が大学病院の小児病棟に居たときさ。まあ君は覚えてないだろう」

 僕の入院生活自体は凄惨を極めていたそうだが、人間の記憶というのは上手くできているもので、僕は当時のことをほとんど覚えていなかった。

 しかし、あの頃からそんなことを言っているというのは、眉唾ものである。少なくとも自分が由比に対してそんな感情を強く抱いたのは、五年前の事件以来であったのだから。

「そんな頃から由比のことを?」

 そう訝しんで尋ねると、嵯峨根医師はすぐに首を振った。

「違う違う。君はまだあのころ妹君とは面識がほとんどなかったはずだ。そうじゃなくて、君のところに小児特別病棟の女の子が遊びに来ていたんだ。覚えてないだろうけどね」

 さっきからどうも語尾に「覚えてないだろうね」がつくのが気になった。そんなに僕の記憶力は頼りないものなんだろうか。確かに最近忘れ物が多くなったり、物の名前が分からないから、性質の説明をすることが多くなった。あの髪乾かすやつ取って、とか、あの歯磨くときに使うチューブに入ったやつ取って、とか。

 ……思い出して、少し陰鬱な気分になった。あれ、これはどうやら記憶力の無さを強調されても文句が言えない状況なのではないか……。

「あの頃もさ、君は自分の完治じゃなくて、その女の子の完治を祈っていたよ。まあ、君の病気は完治するとは思ってなかったんだけどね」

「いや、だから医者がそういう発言するのは止めましょうよ!」

 人の良い顔をしながら、ちょくちょくとブラックなトークを展開するのは今も昔も変わらない彼の特徴だった。しかし、僕だからいいものの、時と場所を弁えないと、いつか身を滅ぼすのではないだろうか。

「昔話はこれくらいにしませんか? 本題に入りたいのですが」

「僕の会話はいつだって本題さ。それで、何かな?」

「ええ、その噂の妹がですね、なんというか、あれでして、なんといいますか、言いにくいのですが、換言するところに」

「ちょっとは落ち着いたら?」

「いえ、そのですね、まあ。……これがばれたら、怒られると思うというか、怒られるんです」

「怒られる?」

「ええ……、それはもう、こっぴどく」

 不思議な顔をして聞き返してきた嵯峨根医師に、苦虫を噛み潰したような表情でそう返す。

 そう、今の問題は、そこにあった。

 まず、昨夜は連絡無しに帰宅していない。この時点で僕が腹部にフックを入れられることは九十五%程度の確率で起こりうる制裁であった。しかし、まだここまでは良い。なぜなら、これは極稀に起こりうる事態であって、結果がある程判っているからである。

 問題は、仕事に失敗した揚句、こんな負傷までしてしまっていることである。これは前例が無いのだが、一度、学科の飲み会で横の席の女の子が酔いつぶれてしまい、介抱しながら夜の街を歩いていたところを偶然にも由比に発見され(偶然……だったと思いたい)、女の子を自宅まで送った後に、付近の公園で二十分ほど暴行を受け続けたこと(近隣の住民が機転を利かして警察へ通報して下さったおかげで、その場はその程度で納められた)、そしてその後数日間はあろうことか高校をサボってまで僕の大学生活を監視するなどという精神的苦痛を与え続けられたことを考慮すると、それ以上の仕打ちが待っていると考えるのが妥当であろう。

 手に嫌な汗をかいていることを自覚する。間違いなくトラウマである。

 あの妹は冷静で論理的な部分があると思えば、猫のような怠惰感や無関心を示し始めたり、突然犬のようにすり寄ってくるなど、よくわからないところが結構あった。彼女も人間なのだから、そんなことはある意味当然―――。

 そう考えて、また痛みが過った。それは昨夜の外傷による痛みでは無い。

 心の中で頭を振って、切り替える。

「なので、なんとか一刻も早く帰宅したいと言いますか……」

「はあ」

「なんとかこのことは内密にしておいて頂きたいと言いますか……」

「はあ」

 先ほど見せた鋭い視線はどこへやら、訳が分からないといった表情で口を開けながら浅くうなずく嵯峨根医師を見て、改めて如月は陰鬱な気分となった。どれだけ妹の尻に敷かれているんだ……。

「ですので、なんとなりませんかね……、この足の痛み」

 無事帰宅できたとしても歩けないほどであったらそれは逆効果になりかねない。如月は先ほど動かなかった自分の右足に視線をやった。

 すると、嵯峨根医師は微妙な表情を作った。

「ああ、痛み、ね。実は、それは僕も興味があったところなんだ」

 と、多少変わった言い回しの言葉を彼は発した。

 僕に感じられたそんな多少の違和感に気がつかないかのように、嵯峨根医師は僕にかけられていたシーツを捲った。

「足は動かせるの?」

「いえ、実は左足が―――」

 動かないのです、と。

 そして、それを示すように右足に少し力を入れたところで。

「あれ?」

「左足がどうしたのさ。ちゃんと動くじゃないか」

 先ほどは痛みで上げるなんてことは考えられなかった左足がいとも簡単に、なんの痛みもなく上げられた。

 予想とは違いすっと上げられてしまった右足を、嵯峨根医師は手にとって、赤く滲んだ包帯を外して患部を診た。

「その顔を見ると、痛みはないようだね」

「でも、さっきは……」

 痛みが、あったように思うけど。

 しかし、現実に足は上がったのだ。痛みも無しに。

 もしかすれば、嵯峨根医師の投薬が効いて来たのかもしれないし、寝起きで朦朧としていたから、勘違いしていたのかもしれない。

 動かせないよりは動かせたほうが、都合が良い。そう思い込んでいると、怪我したところをしげしげと診ていた嵯峨根医師は「なるほどね」と呟き、僕の足をゆっくりと下ろした。

「そっか。ま、初めに言ったように、あんまり大した傷じゃないんだ、見た目にしてはね。記憶っていうのは多少大袈裟になっているものさ。この調子なら帰ってもらっても構わないだろう」

「……助かります」

 医者が言うのなら大丈夫なのだろう。

 特に、この嵯峨根医師に関して言えば、僕は―――僕たち兄妹は、多大な信頼を寄せている。

 僕の左足を診終わった嵯峨根医師は、ベッドの反対側に回り、そのまま僕の右手を診始めた。

 右手も、左足と同様で、痛みを感じることなく、問題無く動かすことができた。

「僕の見立ては、間違っていなかったようだね」

 そのほかの傷跡も診て回った嵯峨根医師は、一通り診終わって、カルテに何かを書きこみながら、にこにこと笑顔でそう言った。

 先ほどの自分を思い返し、苦笑しながら返答する。

「思い込みというのは、怖いものですね」

「いやいや、前向きな思い込みなら大歓迎さ」

 確かに、このような有難い効能をもたらしてくれるのであれば、大歓迎だ。

 嵯峨根医師は書き終わった書類をとんとんと整理してからこちらへ向き直った。

「そのソリタが切れたら帰ってもらって構わないよ。一応、タクシーを呼ぼうか?」

「今の感じなら運転できそうな気もするんですが……。痛みがぶり返すとか」

「ああ、それはないと思うけどね。一応、痛み止め打っておく?」

「お願いします」

 じゃあそいつが切れたら痛み止め打って退院だ。そう言うと嵯峨根医師は立ち上がり伸びをした。

 充満していた白にカモフラージュされていたのか、窓の外の明るさにようやく気がついた。日がだいぶ昇ってきている。

「お忙しい中すみませんでした。今日もお仕事でしょう?」

「いやあ、全くだ。このまま君を送りだしたら午前のミーティングをして、診療だからね。この歳で徹夜っていうのも案外疲れるもんだ」

 もう一度謝罪の言葉を口にすると、冗談だよ、と嵯峨根医師は笑った。

 その後点滴が無くなり、念のために痛み止めを打って、僕は病院を出た。

 すれ違いに、出勤してきた看護師さんたちの奇異の視線に居心地の悪さを感じながらも、やはり笑顔のまま嵯峨根医師は外まで見送りに来てくれた。

 昨夜は乱暴に正面玄関前に停めた車は、きちんと駐車場に駐車されていた。

「キーがついたままだったからね。悪いけど、勝手に動かしちゃったよ」

 そう言うと嵯峨根医師は白衣のポケットから車のキーを取り出して僕に渡した。

 車内を見ると、運転席にはまだ所々に血痕が見受けられた。しかし、思ったよりも血の量は少ないし、匂いも無かった。

 嵯峨根医師の方を見ると、その応急処置も一応やっといたよ、という返事があった。なんと気が効く人なんだろう。この人は医者じゃなくて執事とかでもやっていけると思う。

 運転席に乗り込み、エンジンをかけて、窓を開けた。気持ちよい風が通り抜けた。

「本当にご迷惑をおかけしました。先生のおかげで助かりました。いつもすみません」

「人の危機に、手を差し伸べることができる。それが医者の醍醐味さ」

「失言さえなかったら医者の鑑だと思いますよ、ほんと」

「ははは……。ああ、そうだ」

「どうかしましたか?」

 嵯峨根医師は車のハンドルを見つめながら続けた。

「まあ一応今回のことはここで話は止めておくよ。僕も君のことは応援しているからね。ただ、医者としてはやはり、まだ完全に危惧が消え去ったわけでもない。今日のところは患者さまのご要望で帰宅を許可するが、本来はもう一日ぐらいは安静にさせておきたいくらいだ。痛みが無くとも、ね。できる限り近いうちに、もう一度うちにきなさい。たしか、大学生はもう夏休みだろう?」

 ちょうど、昨日に最後の試験が終わったところだった。大学では試験が終われば自動的に休みが始まるシステムであるから、僕はもう二カ月弱もの長期休暇を得ていたのであった。

「アルバイトだって、僕ならある程度口添えはできるだろうから、気にしなくていい。とにかく、時間が取れるときがあったら、早めにうちに一度来なさい。これ、ここの連絡先」

 嵯峨根医師はポケットから取り出した名刺を渡してきた。

「それに、どうせなら君の妹君も連れてくるといい。メンテナンスは大事だからね」

「分かりました。時間を作っておきます。実は僕も、先生に訊いておきたいことがありすます」

「訊きたいこと? 今じゃダメなのかい?」

「全部を先生に丸投げするのもどうかと思いまして、まあ、まずは自分なりに整理しておきたいと」

 今回の「アルバイト」の件については、まだ自分も把握しきれていない。如月にとっては失敗は失敗であって、それ以上でもそれ以下のことでもなかったが、あの「女性」は異質すぎた。その上、あの口振りは如月本人を狙っての犯行であったことを強く示唆していた。

 この仕事柄、方々から恨みを買うことも、多々あるだろう。しかし、直接的な被害は今回が初めてであった。

「そう。君が言うのなら、そうしよう。くれぐれも忘れないように。それじゃ、お気をつけて」

 車の窓を閉めようとして、気持ちの良い天気であることに気が付き、開きっぱなしにすることにした。

 もうすぐ夏が来る。

 結局包帯はまだ取れなかったし、車内は多少ましになったとはいえ、この有様である。

 我が家の妹にどう言い訳をすればいいのか……。

 既に痛みのない左足と右手に、しかし、少し気を配りながら、僕はアクセルを踏み込んだ。


   ***

 

 如月の車が見えなくなってしばらくして、嵯峨根は白衣のポケットから携帯電話を取りだした。

 ちょうど三回、呼び出し音が鳴ったところで声が聞こえた。

「ああ、嵯峨根です。どうもおはようございます」


   ***


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