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第四話 再会のち連行



 術師を表す瑠璃色の官服。結い上げた銀色の髪の下、アクアマリンの瞳が喜びと愛しさに揺れている。

 しかし傍にいる鴻樹こうきに気付いた耀藍ようらんはハッとした顔を朱に染め、しどろもどろ言った。


「げ、元気そうでよかった。なかなか会えぬゆえ心配だったのだが」

「耀藍様もお元気そうでよかったです。あの……お食事ちゃんと召し上がってますか?」

「う、うむ」

「そ、その、この前、昆布の佃煮を蔡術師の私邸へお届けしてもらえるよう、頼んだのですが」

「うむ! もちろん受け取った! やっぱり香織こうしょくの佃煮は最高だな!」

「よかったです!」

「だが……もう食べてしまったのだ」

「早っ! そ、そうなんですか?! でしたらまた作ってお届けしますので――」

「いや」


 耀藍はたまりかねたようにつかつかと歩いてきて、香織の手をがっしり握った。


「届けるのではなく、我が邸で作ってほしい!」

「え……」

「早く邸へ来てほしいのだ!」

「は、はあ……」

「鴻樹! いつになったら香織は我が邸へ移れるのだ!」

「……耀藍様。落ち着いてください。香織様が困っておられますよ?」


 トマトのように真っ赤になった香織を見て耀藍はハッと手を離した。


「す、すまぬ! 人前で手など握ってしまい……いやしかし、オレたちは婚約者なのだから手ぐらい握っても許されるのでは? 鴻樹の前だし。いや、鴻樹が見ているからいけないのか。鴻樹がいなくなればよいのだな?」

「はいはい、まったく。私にお膳立てをさせたくせに邪魔者扱いとは……まあいいでしょう。邪魔者は去りますよ。せっかく激務の合間に作った時間です。どうぞごゆっくり――」


 耀藍は鴻樹の話を最後まで聞いていなかった。再び香織の手を取ると、そっと腰を抱き寄せる。


「会いたかったぞ、香織」

 微笑んだ耀藍に香織が口をぱくぱくさせ、呆れ顔の鴻樹が肩をすくめてこっそり立ち去ろうとしたときだった。


「お待ちください! ここから先はお入りにならないでくださいませ!」

「無礼者! 私に指図するな!」


 先ほどとは違う困惑の悲鳴、鋭い叱責の声に、香織、耀藍、鴻樹は思わず顔を見合わせた。


「どうしたのでしょう?」

「何事だ?」

「おかしいですね。人払いをしているはずですが――ああ、そういうことでしたか」


 回廊の先から現れた人影に鴻樹は苦笑した。


「これはこれは尚宮殿。人払いしている場所へ《《わざわざ》》お越しとは、いかがされましたか?」

「李宰相、蔡術師様にはご機嫌麗しゅう。間近で御尊顔を拝し、この玲栞れいかん、至上の喜びにございます」


 鴻樹の軽い嫌味など塵ほども気にせず、尚宮玲栞は慇懃に拱手した。


「お迎えにあがりました」

「迎え? オレは迎えなど必要としてないが」


 首を傾げた耀藍の脇を通り過ぎ、尚宮は恭しく香織の前に膝をついた。


「香織様におかれましては、この度、公主教育をお受けいただくことになりました。つきましては、私めと共に紫蓮宮へお越しいただきますよう」

「公主教育……? 紫蓮宮というのは佳蓮様の宮では……って、あの?!」


 困惑する香織の腕を両脇から女官が取った、いや、つかんだ。


「無礼であろう! 今、香織は李宰相とオレと面会中なのだぞ!」

 香織を連れて行こうとする女官の前に耀藍が立ちふさがった。


「誰の許可を得てこんなことをする? 香織はオレの婚約者なのだぞ!」

「恐れながら、私共は佳蓮様の命を受けて香織様をお迎えに上がったのでございます」


 にやり、と紅唇を上げた玲栞は、懐から恭しく四角い金板を取り出した。


「それは紫蓮宮の御鍵! どうして玲栞殿がそれを」

「無論、佳蓮様よりお預かりしたのです」

「何ですって?」

「香織様をよろしく頼む、と。蔡術師様はもちろん、李宰相も御鍵を持っていることの意味はおわかりになりましょう? いかに李宰相と蔡術師様の御前であっても、これは《《公主佳蓮様の御命令でございますゆえ》》」

「……」「む……」

「それではごきげんよう」


 悔しそうに言葉を詰まらせた鴻樹と耀藍に深々を頭を垂れ、しかし次の瞬間にはきっと顔を上げて玲栞は足早に去っていく。その後ろから香織をがっちり左右からつかんだ女官たちが従った。


「耀藍様! わたしのことは御心配なく! 御公務に戻られてください!」

「香織!」


 あっという間に去っていく姿を、耀藍と鴻樹は見送ることしかできない。

 それくらい、玲栞が掲げた蓮の御鍵には威圧感があった。


「やられましたね、玲栞殿に。佳蓮様の御言葉の真偽はともかく、我らは玲栞殿に従うしかない。後宮においては御鍵の強制力は絶大です」

「どういうことだ。なぜ紫蓮宮の鍵を玲栞が持っている?」

「しばしお待ちを。詳細確認します」


 鴻樹は拱手し、静かに、しかし素早く立ち去った。


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