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第一話 後宮で燻る炎

読者様へ


読みにきてくださってありがとうございます!


この物語は既に書籍化されている『転生厨師の彩食記 ~異世界おそうざい食堂へようこそ!~』1上下巻、2上下巻 の続編となっております。


書籍化されたお話では、主人公の香織は自分の出生の秘密を知りました。

この続編から、この異世界での新たなフェーズに入ります。

お料理で問題を解決していくのは同じですが、舞台が主に後宮になります。

もちろん、おそうざい食堂も登場します。

既刊を読んでくださった方も未読の方も、楽しめる内容となっております!


もし、前のお話にご興味ありましたら、


➀カクヨムに掲載されているものを読む

➁KADOKAWAメディアワークス文庫様より大好評発売中の既刊を読む


できたら➁の方法を選んでいただけると大変うれしいです!!

Amazonなどでポチっと購入できます。よろしくお願いしますm(__)m



前置きが長くなりましたが、ぜひ、お楽しみください☆




「納得いかぬ」 

 仄かな手燭に照らし出された顔には憎悪が滲んでいた。

 それが合図のように、手燭を囲んだ侍女たちは口々に囁く。


「聞けば庶民食堂の厨師だとか」

「そのような下賤の娘など」

「何かの間違い、いえ、偽りにちがいありませんわ」

「噂では、どうやら芭帝国風の美貌を持つ娘だそうですわ。美貌で李宰相や王を誑かしたのでは」



 呉陽国王都・建安を見下ろす王城、その内廷にある後宮の一角、尚宮局殿舎の一室。

 すでに深更、辺りは静まり返っている。集まった侍女たちの衣擦れと囁きだけが薄闇に響いた。


 囁きが止むのを待って、尚宮局の長、尚宮玲栞(れいかん)は重々しく頷く。


「李宰相は庶民出の成り上がり者。卑しい身分のくせに、王に意見しすぎる。王はお優しいからお咎めにならないが、この暴挙を放っておくわけにはいかぬ。佳蓮様のためにも」


 侍女たちは強く頷いた。

 王の妃嬪が不在の後宮において、公主の佳蓮こそが後宮の主であり、蔡術師の花嫁となるべき女人であるはずだ――それが彼女たちの忠心であり願いだった。


「佳蓮様こそ、あの美々しい蔡術師様の花嫁にふさわしい御方」

「佳蓮様の美貌、お人柄に敵う女人などおりませんわ。ましてや下賤の食堂の厨師など」

「そうですとも」

「佳蓮様が戻られる前に決着がつくかしら」


 四人が一斉に玲栞を見る。紫色の実を擦り付けたような毒々しい紅唇が釣り上がった。


「もちろんだ。佳蓮様が無事に御帰国なされるまでに、あの香織とかいう娘の化けの皮を剥がしてくれようぞ」







「お、おやめください香織こうしょく様!」

 後宮の片隅で、女官の悲鳴が上がった。


「そのようなことは私共がやりますので!」

「でも、自分が飲むお茶くらい淹れないと……忙しい皆さんに申し訳ないです」

「とんでもございません! 香織様にはこちらでゆったりとお座りになっていただかないと! 私共が叱られてしまいます!」


 半泣きで言われて、香織は仕方なく豪奢な絹張の長椅子に腰かけた。


 香織は後宮の一角、芍薬宮という殿舎に留め置かれていた。


 王家の末の王女と判明し王城へは入ったが、まだ正式に公主として認知されていない。耀藍ようらん華老師かせんせいの家へ迎えに来てくれた日以来、ほとんど耀藍とも会えていない。

 近日中に正式に末の公主としてお披露目や手続きを行い、然るのちに蔡術師と結婚の儀を行い、蔡術師の私邸に入る――そのために急ピッチで諸準備が進められている最中だからだ。


 正式に手続きを踏むことは重要だと香織は考えていた。

 だから耀藍に会えない寂しさは我慢できる。

 けれど、日々おそうざい食堂に吉兆楼に、忙しく過ごしてきた香織にとって、何もしないというのは逆に落ち着かなかった。


「かと言って今みたいに女官の皆さんを困らせるのもどうかと思うし、このありあまる時間をどうしたらいいのかしら……」

 溜息は黄色い歓声に消えた。どうやら殿舎に誰かが訪ねてきたようだ。心臓が跳ね上がると同時に思わず長椅子から飛び上がった。


「も、もしかして……耀藍様?! どどどうしよう、わたし変じゃないかしら?!」

 あたふたと鏡の前に立ち、着なれない絹の襦裙の裾を懸命に直していると、


「だーれだっ」

 後ろから両目が隠された。


 ふわりと香る花のような芳香。両目を覆うしなやかな手のひら。


「もしかして、佳蓮かれん様ですか?!」


 振り返れば大輪の花のような美女が悪戯っぽく笑っている。

 その姿に驚いた。佳蓮がいつも着ている華やかな絹の長衣ではない。華やかだが、胡服。つまり武人風のいでたちだ。


「佳蓮様その御召し物は……って、うわわ?!」


 思いきり抱き締められ勢いでよろめいた。佳蓮は香織の耳の下でうれしそうに頬ずりする。


「うわーん、会いたかったですわぁ香織! 王城にきたら毎日一緒にお料理してお茶を飲んで夜も一緒に寝てって思っていたのに! なかなか会えないんですものぉ!!」

「すみません、佳蓮様。何度か御挨拶に伺ったのですが、お留守にされていたので」

「旅支度で飛び回っていたの。それよりその呼び方ははやめてって言ったでしょう? お姉様、って呼んでちょうだい! ねっ?」

「いえ、あの……」

「ほらほらほら! 呼んで! お姉様と呼んで!」

「お、おねえ……さま?」


 きゃーっと歓声を上げて佳蓮は香織を抱きしめる。


「んもうっ、たまりませんわ! なんて愛らしいの香織!! 耀藍様に独り占めにさせるなんてやっぱりちょっと許せなくなってきましたわ!! あたくしの殿舎に住まわせて毎日愛でたいっ……ついでにお料理を教えてもらいたいですわ! ほら、おそうざい食堂で人気を博している新しい献立! あれを教えてくれる約束だったでしょう?」


 どちらが姉なのかわからなくなるくらい、佳蓮の上目遣いはくるりと可愛らしい。


「焼いた餃子のあの香ばしいことといったら……! それとほら、何て言ったかしら、小麦粉に野菜や肉を混ぜてこんがり焼いた物に特別なタレをかけて食べるお料理! あたくしあれがまた食べたくて食べたくて!」

「ありがとうございます。佳蓮様にそう言ってもらえると本当にうれしいです!」


 最初は香織のことが大嫌いだった佳蓮が、おそうざい食堂にやってきて、料理を通して仲良くなった。

 そんな経緯もあるので、率直な性格の佳蓮からの評価は手放しでうれしい。


「あと、芭帝国の避難民に炊き出しされている香辛料の煮込み料理も美味だと聞いていますわ! ああっ、可愛い香織と一緒にそのお料理も作って食べることができたら!」


 香織の顔や髪をうっとりと撫でて今にも食べそうな勢いの佳蓮を、後ろから引き剥がす手があった。


「やっぱりここにいたのか。まったく君は何をやっているんだ」

「お兄様!」


 呆れた顔をして立っていたのは、亮賢りょうけんだった。

 この呉陽国の若き王であり、香織と佳蓮にとっては兄である。

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