第7話 迷宮法と100年の封印
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# 第7話 迷宮法と100年の封印
「まず、ダンジョンがいつ頃から存在しているか、ご存知ですか?」
アメジストは紅蓮家のリビングに腰を下ろし、手元の資料を広げながら質問した。養成課程への参加を決めた誠たちに、基礎知識を教えるために再び訪れたのだ。
「えっと…最近のことだと思っていました」誠が答えた。
「それは無理もありません。一般に公開されたのは、つい十年前のことですから」アメジストは古い写真を取り出した。「しかし実際には、世界初のダンジョンは1950年に発見されています」
写真には、戦後間もない荒廃した街並みの中に、奇妙な石造りの入り口が写っていた。
「1950年?」大悟が驚いた。「それなら僕の父が生まれた年だ」
「ええ。正確には1950年8月15日、終戦記念日の朝に、長野県の山中で発見されました」アメジストは説明を続けた。「発見者は地質調査をしていた研究者で、最初は古代遺跡だと思われていました」
真弓が身を乗り出した。「それがダンジョンだと分かったのは?」
「調査隊が内部に入って、現実ではありえない空間構造を確認したからです。重力が異なる部屋、無限に続く廊下、そして…モンスター」
莉子がぞくっと身震いした。「1950年にもモンスターがいたの?」
「ええ。ただし、当時のモンスターは今よりもずっと危険でした」アメジストの表情が曇った。「最初の調査隊12名のうち、生還したのは3名だけでした」
一同が息を呑んだ。
「それから政府は極秘にダンジョンの研究を開始しました。戦後復興の最中、限られた予算と人員で、必死に対策を練ったのです」
大悟が質問した。「他の国でもダンジョンは発見されたんですか?」
「同じ頃、世界各地で類似の現象が報告されました。アメリカ、ソ連、イギリス、フランス…冷戦の真っ最中に、各国が秘密裏にダンジョン技術の開発を競ったのです」
アメジストは別の資料を開いた。「1960年代には、ダンジョンから得られる特殊鉱石や魔力エネルギーが、軍事技術に応用され始めました。各国とも、ダンジョンを戦略資源として位置づけたのです」
「まるで核開発競争みたいですね」真弓が呟いた。
「まさにその通りです。実際、ダンジョン技術は核技術と同等かそれ以上の影響力を持つと考えられていました」
誠が手を上げた。「でも、なぜ100年間も秘密にされていたんですか?」
アメジストは重々しく答えた。「安全性の問題です。初期のダンジョンは非常に不安定で、制御方法も確立されていませんでした。1960年代だけで、世界中で17回の大規模事故が発生しています」
「大規模事故?」
「ダンジョンの暴走です。空間が歪み、モンスターが現実世界に溢れ出す…最悪の場合、都市ひとつが消失することもありました」
莉子が震え声で尋ねた。「日本でも起きたの?」
「1963年に一度だけ。幸い、被害は山間部に限定されましたが、半径5キロメートルの森林が異空間に飲み込まれました。その場所は今でも立入禁止になっています」
真弓が眉をひそめた。「それほど危険なものを、なぜ一般に公開したんですか?」
「技術の進歩により、安全性が格段に向上したからです」アメジストは現代のダンジョンの写真を見せた。「特に2000年代に入ってから、ダンジョンの制御技術は飛躍的に発達しました。そして何より…」
彼女は誠を見つめた。「自然発生するダンジョンマスターの存在が確認されたからです」
「自然発生?」
「ええ。従来、ダンジョンの管理には大型コンピューターと専門スタッフが必要でした。しかし稀に、特殊な能力を持つ個人がダンジョンと直接的に同調できることが分かったのです」
誠は自分のことを言われているのだと理解した。「僕みたいな人が、他にもいるってことですか?」
「現在、日本国内で確認されている自然発生ダンジョンマスターは27名です。世界全体では約200名。非常に希少な能力です」
大悟が腕を組んだ。「それで政府は方針を変えたと?」
「はい。2010年に『迷宮法』が制定され、段階的な情報公開が始まりました。そして3年前、ついに一般向けのダンジョン探索が解禁されたのです」
アメジストは分厚い法律書を取り出した。「迷宮法は全15章、348条から成る複雑な法律です。その中で最も重要なのが、探索者登録制度です」
「登録探険者というやつですね」真弓が確認した。
「正確には『認定迷宮探索者』と言います。筆記試験と実技試験に合格し、政府の認定を受けた者のみが、公式ダンジョンでの探索を許可されます」
莉子が不安そうに言った。「試験って難しいの?」
「年齢によって異なります。18歳以上の成人は本格的な試験が必要ですが、18歳未満の場合は保護者同伴での簡易認定制度があります」
誠が身を乗り出した。「僕たちも受けられるんですか?」
「もちろんです。むしろ、あなたのようなダンジョンマスター候補者には、優先的に認定を取得していただきたいのです」
アメジストは別の書類を取り出した。「認定探索者になると、様々な特典があります。政府認定ダンジョンでの探索権、専用装備の購入権、そして何より…収益の一部を受け取る権利です」
「収益?」大悟が興味を示した。
「ダンジョンで発見された鉱石や素材は、政府が買い取ります。認定探索者なら、市価の80%で買い取り保証されます」
真弓が計算した。「それなら、ある程度の収入になりそうですね」
「優秀な探索者なら、それだけで生活できるほどです。特にダンジョンマスターなら、自分のダンジョンからの収益に加えて、他のダンジョンでの探索収入も得られます」
誠は考え込んだ。「でも、お金が目的じゃないんです。僕は純粋にダンジョンが好きで…」
「それで構いません」アメジストは微笑んだ。「最も優秀なダンジョンマスターほど、利益よりも探求心を大切にするものです。誠さんのその気持ちこそ、貴重な資質なのです」
「100年間の封印を解いた理由は、他にもあります」アメジストは続けた。「近年、世界各地で新しいダンジョンが自然発生する頻度が増えているのです」
「自然発生?」
「人工的に作られるのではなく、突然現れるダンジョンです。年間10〜15か所のペースで増え続けています」
大悟が眉をひそめた。「それは問題なんですか?」
「管理されていないダンジョンは非常に危険です。モンスターの暴走、空間異常、魔力汚染…専門知識を持つダンジョンマスターが不足している現状では、対応しきれません」
真弓が理解した。「だから、新しいダンジョンマスターを育成する必要があると」
「その通りです。特に誠さんのような若い才能は、将来の日本を支える重要な人材なのです」
誠は責任の重さを感じながらも、使命感に燃えていた。「分かりました。認定探索者の試験を受けます」
「家族みんなで受けましょう」大悟が提案した。「どうせなら、一家そろって認定を取得したい」
莉子が手を上げた。「私も!お兄ちゃんのダンジョンを手伝いたい!」
アメジストは嬉しそうに頷いた。「それなら、来月の試験に申し込みましょう。家族単位での受験なら、特別枠が適用されます」
「特別枠?」
「ダンジョンマスター候補者の家族には、優遇措置があります。合格率も通常より高く設定されていますし、不合格でも再試験の機会が豊富に用意されています」
真弓が安心した。「それなら、私たちでも大丈夫そうですね」
「ただし」アメジストの表情が少し厳しくなった。「認定を取得したら、それなりの責任が伴います。探索中の事故への対応、発見物の適切な報告、そして何より、一般市民への迷宮法の啓蒙活動も期待されています」
誠が質問した。「啓蒙活動?」
「ダンジョンに関する正しい知識を広める活動です。まだまだ一般の認知度は低く、間違った情報も多く流れています。認定探索者には、地域のセミナーや学校での講演なども依頼されることがあります」
大悟が苦笑いした。「人前で話すのは得意じゃないんですが…」
「無理に引き受ける必要はありません。ただ、そうした活動に参加すると、政府からの支援も手厚くなります」
莉子が興味深そうに言った。「学校で発表とかできるの?面白そう!」
「お嬢さんのような若い方の発言は、特に影響力があります。同世代へのメッセージとして、とても貴重なのです」
アメジストは最後の資料を取り出した。「これが認定試験の過去問題集です。筆記試験の範囲と実技試験の内容が詳しく載っています」
誠が問題集をめくってみると、確かに専門的な内容が並んでいた。しかし、実際にダンジョンを運営している経験があるため、理解できる部分も多い。
「一か月あれば十分準備できそうです」真弓が判断した。「私は化学の知識があるから、魔力関連の問題は得意かもしれません」
「僕も機械整備の経験が活かせそうだ」大悟も自信を見せた。
「それでは、申し込み手続きを進めましょう」アメジストは書類を用意した。「試験は横浜の試験センターで実施されます。筆記試験が午前中、実技試験が午後の予定です」
誠が申し込み書に記入しながら尋ねた。「実技試験って、具体的に何をするんですか?」
「基本的なダンジョン探索技術のテストです。安全確認、モンスターとの適切な接触方法、緊急時の対応など」
「モンスターとの接触?」莉子が心配そうに言った。
「もちろん、安全なモンスターを使います。誠さんのダンジョンのスライムのような、人懐っこい種類ですよ」
それを聞いて、一同は安心した。
「あ、そうそう」アメジストが思い出したように言った。「認定取得後は、誠さんのダンジョンも正式に政府認定施設として登録されます。そうなれば、一般の方々にも開放できるようになります」
「一般開放?」誠が驚いた。
「希望者には、ですが。有料での探索体験ツアーなども企画できます。もちろん、安全管理は徹底的に行いますが」
家族は顔を見合わせた。自分たちの小さなダンジョンが、いつの間にか大きなプロジェクトになろうとしている。
「無理をする必要はありません」アメジストが付け加えた。「あくまで選択肢のひとつです。家族だけで楽しむダンジョンとして維持することも、もちろん可能です」
誠は少し考えてから答えた。「まずは認定試験に合格してから、ゆっくり考えたいと思います」
「賢明な判断ですね」
その日の夜、一家は試験勉強を始めた。問題集を分担して読み、分からない部分は話し合いながら理解を深めていく。
「迷宮法って、思ったより奥が深いのね」真弓が感心した。
「100年の歴史があるだけに、様々な経験が法律に反映されているんだな」大悟も頷いた。
莉子は実技試験の内容を読みながら言った。「モンスターとのコミュニケーション方法なんて項目もあるよ。お兄ちゃんなら得意そう」
「そうかな」誠は照れながら答えた。「でも、スライム以外のモンスターとはまだ接したことがないからな」
「大丈夫よ」真弓が励ました。「あなたのダンジョンでの経験は、きっと活かされるはず」
一週間後、誠たちは本格的な勉強会を開いていた。リビングのテーブルには参考書や資料が山積みになっている。
「魔力測定の基準値、覚えた?」真弓が誠に問題を出した。
「えーっと、レベル1が0.1から0.5マナ、レベル2が0.6から1.0マナ…」
「正解!」
大悟は機械関係の問題に取り組んでいた。「転送装置の安全基準は思ったより厳しいな。座標精度は小数点以下6桁まで要求されている」
「お父さんの技術なら問題ないでしょ」莉子が言った。
「そうは言っても、試験となると緊張するものだ」
そんな時、アメジストから電話がかかってきた。
「皆さん、勉強の調子はいかがですか?」
「おかげさまで順調です」誠が答えた。「ただ、実技試験が少し心配で…」
「それなら、事前練習の機会を設けましょうか?来週末、横浜の訓練施設で模擬試験を実施できます」
「本当ですか?」
「ええ。ダンジョンマスター候補者には特別サービスです。実際の試験環境に近い条件で練習できますよ」
一家は喜んで参加を決めた。
週末、横浜の国家迷宮監査局訓練施設を訪れた紅蓮家は、その規模に圧倒された。地下5階建ての巨大な建物で、各階に異なるタイプの模擬ダンジョンが設置されている。
「すごい施設ですね」大悟が感嘆した。
「全国に7か所あります」アメジストが案内しながら説明した。「ここでダンジョンマスターや認定探索者の育成を行っているのです」
エレベーターで地下3階に降りると、広いフロアにいくつもの部屋が並んでいる。それぞれの部屋が小さなダンジョンになっているのだ。
「こちらが初級者向けの訓練ダンジョンです」
案内された部屋に入ると、誠のダンジョンとは全く違う雰囲気だった。石造りの壁、松明の明かり、そして奥から何かの鳴き声が聞こえる。
「少し緊張しますね」真弓が呟いた。
「大丈夫です。ここのモンスターは全て訓練用に調整されています。攻撃的な行動は取りません」
部屋の奥から現れたのは、青い毛玉のような生き物だった。ウサギほどの大きさで、大きな目をくりくりさせている。
「かわいい!」莉子が歓声を上げた。
「これはプルプルという訓練用モンスターです。非常に穏やかな性格で、適切に接すれば友好的になります」
誠が恐る恐る手を差し出すと、プルプルは警戒しながらも近づいてきた。スライムと接する時と同じように、ゆっくりと優しく声をかける。
「こんにちは。怖がらなくても大丈夫だよ」
プルプルは誠の手の匂いを嗅いでから、安心したように体を寄せてきた。
「素晴らしい!」アメジストが拍手した。「モンスターとの初期接触としては満点です」
「本当に?」誠が嬉しそうに振り返った。
「ええ。多くの受験者は最初の接触で失敗します。恐怖心を抱いたり、逆に無警戒すぎたり…誠さんのように適切な距離感を保てる人は稀です」
家族も順番にプルプルと接触を試みた。真弓は科学者らしく観察眼を働かせ、大悟は慎重に安全確認を行い、莉子は持ち前の明るさでプルプルを和ませた。
「皆さん、それぞれ良い特徴を持っていますね」アメジストが評価した。「チームとしてのバランスも取れています」
次に案内されたのは、魔力測定の実習室だった。様々な計器が並んでいる。
「こちらで魔力の測定と分析を練習します」
真弓が興味深そうに機器を観察した。「これは分光分析装置ですね。私の研究室にあるものと似ています」
「そうです。ダンジョンの魔力分析には、化学の知識が非常に重要なのです」
実際に測定を行ってみると、真弓は予想通り優秀な結果を出した。大悟も機械操作に慣れており、問題なくこなせた。
「お母さんとお父さんは実技試験も大丈夫そうですね」莉子が安心した。
最後に案内されたのは、緊急事態対応の訓練室だった。
「ダンジョン内で事故が発生した場合の対処法を学びます」
シミュレーターを使って、様々な緊急事態への対応を練習した。モンスターの暴走、魔力の異常発生、空間の歪み…どれも実際に起こりうる事態だ。
「重要なのは、パニックにならずに冷静に対応することです」アメジストが指導した。
誠は持ち前の判断力で適切な対応を選択し、家族もそれぞれの専門知識を活かして問題を解決していく。
「素晴らしいチームワークです」アメジストが感心した。「実際の試験でも、このレベルを維持できれば間違いなく合格できます」
訓練が終わった後、一家は施設内の休憩室で振り返りを行った。
「思ったより楽しかったですね」真弓が笑顔で言った。
「そうですね。最初は緊張しましたが、実際にやってみると面白い」大悟も同意した。
莉子が興奮気味に話した。「プルプル、すごくかわいかった!お兄ちゃんのダンジョンにも、ああいうモンスターがいたらいいのに」
「スライムも十分可愛いと思うけどな」誠が苦笑いした。
アメジストが質問した。「今日の経験を踏まえて、本試験への不安はありますか?」
誠が代表して答えた。「正直、まだ緊張はしますが、自信がつきました。家族みんなで力を合わせれば、きっと大丈夫だと思います」
「それなら安心です。あと一週間、最後の仕上げをしっかりやってください」
帰りの電車の中で、家族は試験への決意を新たにしていた。
「100年間の封印が解かれて、僕たちがその歴史の一部になるなんて、不思議な気分です」誠が窓の外を眺めながら言った。
「でも、責任も感じるわね」真弓が言った。「これからのダンジョンの発展に、私たちも関わっていくのですから」
大悟が腕を組んだ。「息子が将来、歴史に名を残すダンジョンマスターになるかもしれないな」
「そんな大それたことは考えていませんよ」誠が照れた。「ただ、良いダンジョンを作りたいだけです」
莉子が兄の腕を取った。「でも、お兄ちゃんならきっとできるよ。私も一緒に頑張る!」
家に帰ると、誠は一人でダンジョンに入った。スライムたちが相変わらず歓迎してくれる。
「みんな、僕たちももうすぐ正式な認定探索者になるんだ」
スライムたちは意味が分からないながらも、誠の嬉しそうな様子に反応してぴょんぴょん跳ね回った。
「これからも、よろしくお願いします」
誠は心の中で、100年の歴史を築いてきた先人たちへの感謝と、これから歩む道への決意を固めていた。認定試験まで、あと一週間。新しい扉が、もうすぐ開かれようとしていた。
試験当日の朝、紅蓮家は早朝から準備に追われていた。
「筆記用具は大丈夫?」真弓が誠のカバンをチェックした。
「はい、予備も含めて完璧です」誠が答えた。
大悟は家族全員の身分証明書を確認している。「受験票も全員分揃っているな」
莉子だけは緊張よりも興奮の方が勝っているようで、「早く行こう!」と催促していた。
横浜の試験センターに到着すると、既に多くの受験者が集まっていた。年齢層は様々で、誠たちのような家族連れもいれば、一人で受験する大学生や社会人もいる。
「思ったより受験者が多いですね」真弓が驚いた。
受付でアメジストと再会した。今日は監督官として参加しているようだ。
「皆さん、調子はいかがですか?」
「緊張していますが、準備は万全です」誠が答えた。
「それなら大丈夫。リラックスして臨んでください」
試験会場は大きな講堂で、200名ほどの受験者が一斉に受験する。誠たち家族は隣同士の席に座ることができた。
「それでは、筆記試験を開始します」
試験監督の声と共に、問題用紙が配られた。誠は深呼吸してから問題を読み始めた。
【問1】迷宮法第3条に規定される「ダンジョンマスターの義務」について、3つ以上挙げて説明せよ。
これは勉強した内容だ。誠は安全管理義務、報告義務、協力義務について詳しく回答した。
【問5】魔力濃度が異常値を示した場合の対処手順を、優先順位をつけて記述せよ。
これも訓練で練習した内容だった。誠は冷静に手順を思い出しながら回答していく。
隣を見ると、真弓は化学関連の問題にスラスラと回答しており、大悟も機械保守の問題で手が止まることはない。莉子だけは少し苦戦しているようだったが、それでも一生懸命に考えている。
2時間の筆記試験が終了すると、昼食休憩を挟んで午後の実技試験に移った。
実技試験会場は地下の訓練施設で、受験者は5人ずつのグループに分かれる。幸い、紅蓮家の4人に加えて、同じく家族で受験している高校生の男子が加わったグループになった。
「初めまして、田中と申します」その高校生が挨拶した。「父が個人でダンジョンを運営していて、僕も手伝うことになったんです」
「紅蓮です。よろしくお願いします」誠が握手を交わした。
実技試験の最初は、基本的なダンジョン探索技術のテスト。模擬ダンジョンに入って、安全確認、魔力測定、モンスターとの接触を行う。
誠は訓練の経験を活かして、手際よく課題をこなしていく。プルプル以外にも、猫のような「ニャンタ」、鳥のような「ピーチク」など、様々な訓練用モンスターとの接触を成功させた。
「素晴らしい適応力ですね」試験官が評価した。
真弓は魔力分析で高得点を獲得し、大悟は機器の操作で完璧な結果を出した。莉子もモンスターとのコミュニケーションで予想以上の成果を見せた。
「お嬢さん、モンスターに好かれる特殊な才能をお持ちのようですね」別の試験官が感心した。
最後の課題は、緊急事態への対応シミュレーション。チーム5人で協力して、ダンジョン内で発生した仮想的な事故に対処する。
シナリオは「魔力暴走により、ダンジョンの一部で空間歪曲が発生。探索者1名が取り残されている」というものだった。
「まず状況を整理しましょう」誠がリーダーシップを発揮した。「田中さん、現場の魔力濃度を測定してください。お父さんは機器の安全確認を」
「了解」田中と大悟が持ち場に向かった。
「お母さんは魔力分析、莉子は救助対象の状態確認をお願いします」
「分かりました」真弓と莉子もそれぞれの役割を果たす。
各自からの報告を受けて、誠は救助計画を立てた。「魔力濃度は安定しているので、空間歪曲は一時的なもののようです。お父さんの機器で安全ルートを確保して、僕と田中さんが救助に向かいます」
計画は順調に進み、制限時間内に救助を完了することができた。
「優秀なチームワークでした」試験官が講評した。「特に紅蓮さんの指揮能力は高く評価できます」
実技試験が終了すると、結果発表まで1時間の待機時間があった。紅蓮家は休憩室で結果を待った。
「どうだったかな」大悟が不安そうに言った。
「大丈夫だと思います」真弓が励ました。「みんな、練習通りにできていました」
「私、モンスターと話すのが楽しかった!」莉子が興奮していた。
誠は全体を振り返っていた。筆記試験では勉強した内容がほぼ出題され、実技試験でも訓練の成果を発揮できた。ただ、結果が出るまでは安心できない。
「受験者の皆さん、結果発表を行います」
講堂に受験者が集められ、合格者の受験番号が発表された。
「筆記試験合格者…受験番号0047番、紅蓮誠さん」
誠の番号が呼ばれた瞬間、家族は小さくガッツポーズした。
「0048番、紅蓮大悟さん」
「0049番、紅蓮真弓さん」
「0050番、紅蓮莉子さん」
紅蓮家全員の名前が呼ばれた。
「実技試験合格者…」
再び4人全員の名前が呼ばれた時、家族は静かに抱き合って喜びを分かち合った。
「認定探索者証の交付式を行います」
合格者は前に呼ばれ、一人ずつ認定証を受け取った。カード型の証明書には、それぞれの写真と認定番号、有効期限が記載されている。
「これで正式に認定探索者ですね」アメジストが祝福してくれた。「特に誠さんは、筆記・実技ともに最高点での合格でした」
「本当ですか?」誠が驚いた。
「ええ。15歳での最高点記録を更新されました。将来が非常に楽しみです」
帰りの電車の中で、家族は認定証を眺めながら話していた。
「いよいよ正式なダンジョンマスターへの道が開けましたね」真弓が言った。
「そうですね。でも、これからが本当のスタートだと思います」誠が答えた。
大悟が息子の肩に手を置いた。「100年の歴史に、俺たちも新しいページを加えることになるんだな」
莉子が誇らしそうに認定証を見つめていた。「私も立派な探索者になるぞ!」
家に帰ると、誠は真っ先にダンジョンに向かった。スライムたちに報告したかったのだ。
「みんな、僕たち、正式な認定探索者になったよ!」
スライムたちは相変わらず意味が分からないながらも、誠の嬉しそうな様子に共鳴してぴょんぴょん跳ね回った。
「これからは、もっとたくさんの人にダンジョンの素晴らしさを伝えられるね」
誠は認定証を握りしめながら、未来への期待に胸を膨らませた。100年の封印が解かれ、新しい時代が始まろうとしている。そして、15歳の少年とその家族も、その歴史の一部となったのだった。
翌日、アメジストから電話があった。
「合格おめでとうございます。実は、来週からダンジョンマスター養成課程が始まります。準備はよろしいですか?」
「はい、楽しみにしています」誠が答えた。
「それと、誠さんのダンジョンの正式登録手続きも開始できます。政府認定ダンジョンとして、多くの人に開放する準備を始めましょう」
新しい章が、いよいよ始まろうとしていた。
実はDジェネシスのスピンオフも作ってみている。世界感が同じで、登場人物は紅蓮誠なんの許可も取っていないのでUpするか?迷っています。アドバイスを受け付けます。
歌を作りました良かったら聞いて下さい。
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