第10話 登録試験・迷宮都市シグナ
4話目。本日最後!!
# 第10話 登録試験・迷宮都市シグナ
試験当日の朝、紅蓮家は早朝から準備に追われていた。ただし、今回の目的地は横浜の試験センターではない。
「関東最大の迷宮都市シグナか…」大悟が地図を見ながら呟いた。「埼玉と群馬の県境にある、人工的に作られた街だな」
「ダンジョンマスター候補者の家族は、特別にシグナでの試験を受けられるそうです」誠が説明した。「そこには最新の訓練施設があるとか」
真弓がカバンに資料を詰め込みながら言った。「一泊二日の予定よね。宿泊先のホテルも政府が手配してくれるって」
「すごい待遇だね」莉子が興奮していた。「初めて迷宮都市に行く!」
電車を乗り継いで3時間、一行は見たこともない光景に出会った。シグナ駅を降りると、そこは完全に未来都市だった。
「すげー…」誠が思わず声を上げた。
街全体が巨大なドーム状の建造物に覆われ、中央には高さ200メートルはある巨大なタワーがそびえ立っている。タワーの周りには、まるで宝石のように光る建物が並んでいた。
「あのタワーが、シグナ・メインダンジョンです」駅で出迎えてくれた案内係が説明した。「地下50階、地上20階の巨大ダンジョンで、全国から探索者が集まります」
「地上にもダンジョンがあるの?」莉子が驚いた。
「はい。シグナは日本で唯一、地上と地下の両方にダンジョンフロアを持つ複合型迷宮都市です」
街を歩いていると、明らかに普通の人とは違う装備をした人々とすれ違う。革製の防具を身に着けた人、巨大なリュックサックを背負った人、中には小型ロボットを連れている人もいた。
「あの人たちが探索者なのね」真弓が興味深く観察していた。
「はい。シグナには常時約3000名の探索者が滞在しています」案内係が誇らしげに言った。「その中には、世界トップクラスの実力者も含まれています」
ホテルにチェックインした後、一家は街の見学に出かけた。商店街には見たこともない品物が並んでいる。
「これは魔力石?」真弓がショーウインドウの宝石を見つめた。
「ダンジョンで採取された天然の魔力結晶です」店主が説明してくれた。「アクセサリーとして人気ですが、研究用途でも需要があります」
大悟は工具店で、見慣れない道具に興味を示していた。「これは何に使うんだ?」
「ダンジョン内の機械修理用です。魔力環境下では、普通の工具では性能が落ちるんです」
「なるほど、確かに特殊な合金を使っているな」
誠と莉子は、モンスター用品店で足を止めた。
「スライム用の栄養剤?」誠が商品を手に取った。
「人気商品ですよ」店員が教えてくれた。「最近、ペットスライムを飼う人が増えているんです」
「ペット?」
「はい。ダンジョンで懐いたスライムを、正式な手続きで飼育許可を取って育てる人がいるんです」
莉子が目を輝かせた。「私たちのスライムさんたちも、ペットみたいなものよね」
「うーん、ちょっと違うかな。僕たちの場合は、ダンジョンの住人として共生している感じだから」
夕方、試験会場の下見に行った。シグナ試験センターは、メインダンジョンタワーの隣にある10階建ての建物だった。
「明日は、ここで受験するのね」真弓が建物を見上げた。
「緊張してきたな」大悟が呟いた。
「大丈夫ですよ」誠が家族を励ました。「みんなで一緒だから」
試験センターの掲示板で、明日の受験者リストを確認していると、同年代らしい少年が隣に現れた。
「君も明日受験?」その少年が声をかけてきた。
「はい。紅蓮誠です」
「僕は九条蒼馬。よろしく」
蒼馬は誠と同じくらいの身長だが、がっしりとした体格で、工業高校の制服を着ていた。何より目を引くのは、肩に乗せている手のひらサイズの小型ロボットだった。
「それ、ロボット?」莉子が興味深そうに見つめた。
「ああ、これはアルファ。僕が自作したダンジョン探索支援ロボットだ」蒼馬が誇らしげに紹介した。
小型ロボットは可愛らしい外見だが、目の部分には明らかに高性能なセンサーが組み込まれている。
「自作って、すごいですね」誠が感心した。
「君は?何か特技はあるの?」
「僕はダンジョンマスター候補です」
蒼馬の目が鋭くなった。「ダンジョンマスター?それは興味深い」
「蒼馬君は、どうして探索者になろうと?」真弓が質問した。
「僕の目標は、完全自律型のダンジョン探索ロボットを開発することです。そのためには、まず自分が優秀な探索者になる必要がある」
大悟が技術者らしい興味を示した。「自律型?AIを使っているのか?」
「はい。でも、まだ初期段階です。本当に賢いロボットを作るには、ダンジョンの特性を深く理解しなければならない」
誠は蒼馬の情熱的な態度に刺激を受けた。自分とは全く違うアプローチでダンジョンに挑もうとしている同年代がいるなんて。
「明日の試験、お互い頑張りましょう」
「ああ。でも、負けるつもりはないよ」蒼馬が挑戦的な笑みを浮かべた。
その夜、ホテルの部屋で家族は最後の確認を行った。
「蒼馬君、面白い子ね」真弓が言った。
「技術的なアプローチでダンジョンに挑むのは、新鮮だな」大悟も興味を示していた。
「お兄ちゃんにとって、良いライバルになりそう」莉子が指摘した。
誠は同感だった。「確かに、刺激になります。僕も負けていられない」
翌朝、試験会場には約100名の受験者が集まっていた。年齢層は様々だが、誠と蒼馬のような若い受験者は少数派だった。
「まず筆記試験から開始します」
試験監督の指示で、受験者は指定の座席に着いた。偶然にも、誠と蒼馬の席は隣同士だった。
「よろしく」蒼馬が小声で挨拶した。
「こちらこそ」
筆記試験が始まると、蒼馬の集中力の高さが伝わってきた。機械的な正確さで問題を解いていく様子は、まさにエンジニアらしい。
一方、誠は実際のダンジョン運営経験を活かして、実践的な視点で問題に取り組んだ。
2時間後、筆記試験が終了。
「どうだった?」蒼馬が尋ねた。
「まあまあかな。君は?」
「技術関連の問題は得意だけど、モンスター生態学は少し苦手だった」
昼食休憩を挟んで、午後は実技試験だった。シグナの実技試験は、実際のダンジョンを使用する本格的なものだった。
「受験者は5名ずつのチームを組んで、メインダンジョンの初級フロアを探索してもらいます」
試験官の説明によると、安全確認、魔力測定、モンスターとの適切な接触、チームワークなどが評価項目だった。
誠のチームには、蒼馬の他に、大学生2名と社会人1名が含まれていた。
「それでは、地下1階フロアに入場してください」
メインダンジョンの内部は、誠の机ダンジョンとは全く違う規模だった。天井は高く、廊下は幅広で、まさに本格的なダンジョンの造りだった。
「すごいスケールですね」誠が感嘆した。
「設計は最新のダンジョン工学に基づいています」蒼馬が技術的な解説を始めた。「魔力の流れを最適化して、安全性と効率性を両立している」
最初の課題は、フロア内の魔力濃度測定だった。
「アルファ、スキャン開始」蒼馬がロボットに指示を出すと、小型ロボットが飛び立って周囲を調査し始めた。
「便利ですね」誠が素直に感心した。
「君は機械を使わないの?」
「僕の場合は、直感で判断することが多いです」
誠は目を閉じて、ダンジョン内の魔力の流れを感じ取った。訓練で身に着けた技術だ。
「この方向に、わずかな魔力の乱れがあります」
「アルファのデータでも、同じ場所に異常値が検出されています」蒼馬が驚いた。「機械と同じ精度で判断できるなんて」
次の課題は、モンスターとの接触だった。フロアの奥から、青いスライムが現れた。
「あ、可愛い」誠が自然に反応した。
スライムは警戒していたが、誠が優しく声をかけると、すぐに懐いてきた。
「すごい親和性だな」蒼馬が感心した。
「蒼馬君は、ロボットでモンスターと交流するの?」
「いや、それはまだ課題なんだ。アルファは分析はできるけど、コミュニケーションは苦手で」
実際、小型ロボットがスライムに近づくと、スライムは警戒して距離を取った。
「機械では、生き物の心は読めないということかな」誠が呟いた。
「そうかもしれない。でも、いつか必ず克服してみせる」
最後の課題は、チーム全体での問題解決だった。模擬的な緊急事態が発生し、協力して対処する必要があった。
「魔力暴走により、出口が封鎖されました。別ルートを見つけて脱出してください」
誠は直感で、「こちらの壁に隠し通路がありそうです」と提案した。
蒼馬はアルファで詳細スキャンを行い、「確かに、この部分だけ壁の厚さが違います」と確認した。
二人の異なるアプローチが組み合わさって、チームは制限時間内に脱出に成功した。
「素晴らしいチームワークでした」試験官が評価してくれた。
実技試験が終了すると、受験者は結果発表まで待機室で過ごした。
「君とチームを組めて良かった」蒼馬が誠に言った。
「僕もです。技術的な視点、勉強になりました」
「お互い、違ったアプローチでダンジョンに挑んでいるけど、協力すればもっと可能性が広がりそうだね」
「そうですね。もし合格したら、今度は一緒に探索してみませんか?」
「ぜひ」
結果発表の時間になった。
「合格者を発表します」
誠の名前が呼ばれ、続いて蒼馬の名前も呼ばれた。そして、紅蓮家の全員が合格していた。
「やったー!」莉子が飛び跳ねた。
「みんな、おめでとう」大悟が家族を抱きしめた。
蒼馬も合格の喜びを隠しきれないようだった。「これで、本格的な探索者活動が始められる」
「蒼馬君とも、また会えるといいですね」真弓が言った。
「はい。今度は誠君のダンジョンも見せてもらいたいです」
帰りの電車の中で、誠は新しいライバルとの出会いを振り返っていた。
「技術と直感、違ったアプローチでも同じ目標を目指している。面白いですね」
「そうだね」大悟が同意した。「多様性こそが、進歩の源だ」
「これからは、もっといろんな人と交流する機会が増えそうね」真弓が期待を込めて言った。
「お兄ちゃん、蒼馬君のロボット、すごかったね」莉子が興奮気味に話した。「私も何か発明してみたい」
「莉子の観察力なら、きっと面白いものが作れるよ」誠が妹を励ました。
家に帰ると、アメジストから祝福の電話がかかってきた。
「皆さん、合格おめでとうございます。特に誠さんは、蒼馬さんとの協力プレイが高く評価されています」
「蒼馬君のことも知っているんですか?」
「ええ。彼は技術系ダンジョンマスター候補として注目されています。あなたとは対照的なタイプですが、将来的にはお互いを補完し合える関係になるかもしれませんね」
「技術系ダンジョンマスター?」
「機械とAIを駆使したダンジョン管理を目指す新しいジャンルです。従来の直感型ダンジョンマスターとは異なるアプローチですが、両方の特長を活かしたハイブリッド型の可能性も研究されています」
誠は興味深く聞いていた。「僕も技術的なことをもっと学んだ方がいいでしょうか?」
「いえ、あなたはあなたの強みを伸ばすことが重要です。ただし、異なるタイプの仲間と協力することで、より大きな成果を上げられるでしょう」
翌日、誠は机ダンジョンでスライムたちに報告していた。
「みんな、僕たち全員が正式な探索者になったよ」
スライムたちは相変わらず意味が分からないながらも、誠の嬉しそうな様子に反応してぴょんぴょん跳ね回った。
「それと、新しい友達もできたんだ。蒼馬っていう同い年の子で、君たちとはまた違ったタイプの相棒がいるんだよ」
その時、スマートフォンにメッセージが届いた。蒼馬からだった。
『試験お疲れ様。今度、僕のダンジョンも見に来ませんか?』
誠は興味を持った。蒼馬もダンジョンを持っているのか。
『ぜひ見せてください。僕のダンジョンも案内します』
『それは楽しみです。来週末はどうですか?』
『大丈夫です。家族も一緒でよろしければ』
『もちろん。僕の方も、研究仲間を紹介したいと思います』
約束が決まると、誠は家族に報告した。
「来週、蒼馬君のダンジョンを見学に行くことになりました」
「面白そうね」真弓が関心を示した。「技術系のダンジョンって、どんな構造なのかしら」
「僕も興味がある」大悟が言った。「エンジニア同士で話が合いそうだ」
莉子も手を上げた。「蒼馬君のロボット、また会えるかな?」
一週間後、紅蓮家は蒼馬の自宅を訪れた。彼の家は工業高校の近くにあり、地下に大きな工房を構えていた。
「ようこそ」蒼馬が出迎えてくれた。「こちらが僕のダンジョンです」
案内された地下工房は、まさにハイテク研究室だった。壁一面にモニターが並び、中央には大型の3Dプリンターやロボット工作機械が設置されている。
「すごい設備ですね」大悟が感嘆した。
「父がエンジニアで、母がプログラマーなんです。二人とも僕の研究を応援してくれています」
工房の奥に、蒼馬のダンジョンがあった。誠のダンジョンとは対照的に、完全にデジタル化された空間だった。
「これは仮想現実ダンジョンですか?」真弓が質問した。
「はい。VR技術とAIを組み合わせて作った、完全プログラム制御のダンジョンです」
ヘッドセットを装着すると、そこには美しい機械都市が広がっていた。住人はすべてロボットで、プレイヤーの行動に応じて様々な反応を示す。
「生物的なダンジョンとは、全く違った魅力がありますね」誠が感心した。
「君のスライムたちのような温かみはないけど、論理的で予測可能な環境を提供できます」
莉子がVR体験を終えて興奮していた。「ロボットたちが話しかけてくれた!本物みたい!」
「AIの音声認識と自然言語処理を組み合わせています」蒼馬が説明した。
その時、工房に別の来客があった。蒼馬の研究仲間たちだった。
「紹介します。プログラマーの白石さん、ハードウェア担当の田村さん、そしてAI研究の山田さんです」
皆、蒼馬より少し年上の大学生や専門学校生だった。
「紅蓮さんですね。有名な若手ダンジョンマスターの」白石が握手を求めた。
「有名って…」誠が困惑した。
「シグナでの試験結果、話題になってるんですよ」田村が教えてくれた。「15歳で最高評価なんて、前例がないそうです」
「それに、機械を使わずに魔力測定ができるなんて、僕たちには信じられません」山田が興味深そうに言った。
誠は照れながら答えた。「僕の方こそ、皆さんの技術力に驚いています」
「お互いの長所を学び合えたらいいですね」蒼馬が提案した。
その日は、両方のダンジョンを体験し合い、それぞれの特徴について深く話し合った。
「生物的なダンジョンには、予測不可能な魅力がある」白石が感想を述べた。
「一方で、技術的なダンジョンには、再現性と拡張性がある」真弓が分析した。
「両方を組み合わせたら、もっと面白いものができそうだな」大悟が提案した。
蒼馬の目が輝いた。「それ、面白いアイデアですね。生物とAIが共存するダンジョン…」
「スライムたちとロボットが一緒にいる空間なんて、想像しただけでワクワクします」莉子が興奮した。
誠も同感だった。「お互いの技術を組み合わせれば、これまでにない新しいダンジョンが作れるかもしれません」
「コラボレーション・プロジェクトですね」蒼馬が提案した。「時間はかかるかもしれませんが、挑戦してみませんか?」
「ぜひやってみましょう」
こうして、二人の若きダンジョンマスター候補による共同プロジェクトが始まることになった。
帰りの電車で、誠は今日の経験を振り返っていた。
「技術と直感、機械と生物…対照的だけど、組み合わせることで新しい可能性が生まれるんですね」
「そうですね」真弓が同意した。「科学の世界でも、異分野の融合から画期的な発見が生まれることが多いの」
「蒼馬君との協力、楽しみですね」大悟も期待を込めて言った。
莉子が窓の外を眺めながら呟いた。「お兄ちゃんに、本当の仲間ができたんだね」
誠は心の中で、新しい友情と可能性への期待に胸を膨らませていた。シグナでの試験は、単なる資格取得以上の意味があった。新しい世界への扉が開かれ、素晴らしい仲間との出会いがあった。
これから始まる本格的な探索者生活が、どんな冒険をもたらしてくれるのか。15歳の誠には、無限の可能性が広がっているように思えた。
「紅蓮探険隊」の新たな章が、今まさに始まろうとしていた。
実はDジェネシスのスピンオフも作ってみている。世界感が同じで、登場人物は紅蓮誠なんの許可も取っていないのでUpするか?迷っています。アドバイスを受け付けます。
歌を作りました良かったら聞いて下さい。
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