5:AIシステム「イーヴォ」回帰
空港の搭乗ゲートには、緊張と静寂が漂っていた。
搭乗者たちは、数日ぶりに見る自分たちの服を着て、旧式の通信端末を大切そうに胸に抱えていた。エリナは、振り返らなかった。彼女の表情は穏やかで、どこか透明だった。
「ここでは、心が静かになりすぎる。私は……イーヴォの声があってこそ、自分を感じられるの」
彼女の言葉に、誰も反論しなかった。それは、もう治すべきことではなかった。彼女の在り方そのものだった。
見送る関係者の中には、目を赤くした者もいた。彼らは確かに知っていた。あの情報が中毒であり、あの企業が人間を依存の仕組みで囲い込んでいることを。
そして、自国の技術でその鎖を断ち切れることも。
だがそれをすれば、干渉になる。
「我々が他国を正そうとした瞬間、この国の独立は理念でなくなる」
悔しさが、静かな涙として頬を伝った。それでも彼らは手を振った。選ばせたのではない。選ばせてしまったという事実を抱えながら。
そして飛行機は離陸した。搭乗者たちは、機内のモニターにイーヴォ・アルカディアが映るのを見て、まるでふるさとの景色を見たかのように、喜びの涙を流した。
誰かがそっとつぶやいた。
「戻ってこれた……イーヴォの……世界に……」
[終]