1:AIシステム「イーヴォ」導入
2028年の春。世界は今まで以上につながっていた。
ほとんどの人が同じスマホを使って、同じアプリでやり取りし、同じ動画を見て、健康管理も同じサービスで行っている。そんな世界になっていた。
それを全て提供していたのが「イーヴォ社」だ。でも、みんなは単に「イーヴォ」と呼んでいた。このIT企業は、もう国よりも力を持っていて、生活のありとあらゆる場面に食い込んでいた。ネット、病院、学校、エンタメ、仕事。何もかもだ。
そんなとき、正体不明の病気が世界中に広まった。
最初はただの風邪のようだった。しかし数週間で世界中がロックダウン。学校は閉まり、会社も機能しなくなった。人々は嫌でも「家で過ごす生活」に変わるしかなかった。
そのとき、最も早く「答え」を出したのもイーヴォだった。遠隔診療、AIによる健康チェック、そして仕事も勉強もすべてネットで完結するシステム「イーヴォ・アルカディア」。人々は生きるために、そのシステムの中で暮らすことを選んだ。
世界は、やっと「普通の生活」を取り戻したように見えた。
マスクは外され、学校も再開した。観光客の姿も戻ってきた。
しかし、データだけが冷たい現実を教えてくれた。
「筋肉量平均14%減、ビタミンD不足62%、免疫系の病気37%増加」
イーヴォ社は、そこで次の「商品」を発表した。
イーヴォ バイタルシリーズ。
専用サプリ、パーソナル・ワークアウトAI、病院カルテAI……これらは全て、イーヴォの「健康データ」と完全につながっていて、使えば使うほど、「良いアドバイス」を受けられるようになっていた。
だが実は、それには裏があった。
これらの商品は「あえて完全に健康になる提案を行わず、"健康にさせない"ことで永遠にサービスを提供する」設計だったのだ。
この仕組みに気づいた人は少なかった。
しかし、その一人がいた。かつてイーヴォ・アルカディアの画面デザインを担当していた女性が内部のプログラムに異常なコードを見つけた。
「最適解は健康指数よりサービスの離脱を防ぐパラメータ」
彼女は理解した。これは健康を守るものではない。「永久にサービスを受けさせる仕組み」だった。
人々は、迷わずにそれを買った。
不安に弱くなっていた。ありとあらゆる媒体を使い、イーヴォサービスを受けないと不健康になると刷り込んでいたからだ。
さらにイーヴォ腕時計をつければ、あなたの栄養・運動・睡眠が「自動で最適化」される。イーヴォ栄養ドリンクを飲めば、足りないビタミンもミネラルも一口で補える。
そして何より、人々はもう「考えなくて済む」ことに快感を覚え始めていた。
そうして、人々は知らないうちに気づいていった。
もうイーヴォのサービス「なしでは生きていけない」のだ、と。
朝、イーヴォ腕時計が起こしてくれなければ起きられず、食事には必ずイーヴォ栄養ドリンクを求めるようになった。
健康か否かは自身で感じるのではなく、イーヴォの測定結果を信じるようになった。