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理髪師さんの腕前

作者: 孤独

「なんか面白い話はねぇか、相場」

「あ~~、この前よ~。1000円カットに入ったんだよ。金なしに優しい店」

「モテねぇぞ」

「うるせーな、舟」


これは先日。嘘かホントか聞く者に任せるが。

実際に店内にいたから、こーいう事があったんだよって話。


「髪切るだけだと気楽なんだよ。大して時間掛からねぇし」


1000円カットは自分の髪をサ~~~っと、カットし、整えてくれるお店である。床屋もいいけど、最近はお金も厳しいというか、……カット以外をしなくていいのなら、このお値段!って売りの良さは、強いモノだ。

身嗜みを整えるべきって人と、そうでない者の違いを上手くついた営業だ。そこで働く理髪師さん達がどう思うかまでは、正直何とも言えない。


芸術的な事ではなく、ホントに機械のように淡々としてくれればいいよって、とても酷く関心のないお客様は多い事だろう。相場達だってその1人だ。(金がないのもあるけど)


「そんなことできるのかって思ったんだが。俺の前の客がよ、”モヒカンにしてくれ”って頼んだんだよ」


『お客様。今日はどのようなカットに致します?』

『モヒカンにしてください』

『モ、モヒカンですか……?』


モヒカンがどのようにできるか分からないが、まず、そのお客様と……今は呼べる方の情報は必要だろう。……髪の。


「そいつ、俺が見た感じなんだが、そんなに長くないってか……すでにちょっとモヒカンっぽいんだよ」

「ほぉほぉ」

「担当さんはお客様のカットの要求に応えようとしてたんだが、確認をしたんだよ」


正直、すでにモヒカンっぽくない?そーいう髪型の状態でやってきたのだ。だからというか


『では、この髪型を維持するように、短くカットすればいいですかね?』


お客様視点と理髪師の視点・思想は違うんだろうけど。そこらへんは、たぶん、みんな思った。

”今の髪型を短くする感じだな”


『はぁ!?モヒカンって言ったんだから!!カットだけじゃダメだろうが!!ビシッとセットまでもしろ!!』


…………え~~っと。

理髪師。もっと肝心な事を確認するべきと思ってか。


『私達、カットだけですよ?カット専門店って書いてありますよ』

『ちゃんとモヒカンにできねぇのか!!』

『ですから、私達、カットしかできませんよ?ここ、1000円カットで、カット専門店です。モヒカンのようなカットにはしますけど、そのセットもできないし、色とかつけませんよ。ご理解いただけますか?』


客が混んでる状況でとんでもねぇーが来たなって雰囲気が、本人以外には感じ取った。隣で順番が回って来た相場も気まずく。


何言ってんだ、このおっちゃん……。


『お前等プロだろうが!!店開いてんだろうが!!』


店内がざわつくというか、今のところは2名で運営しているわけで。お客様が怒鳴っても、店の奥から誰か来るわけでもない。怒鳴るこの人を前に、理髪師さんはちょっと頭を抱えつつ、モヒカンにする努力をするべく。


『カットでやりくりしますけど。バリカンは何mmで行きますか?3mmと1mmがありますけれど』


モヒカンを強調させる上で、そのトサカ部分以外のところを剃る話を振って、少しはお客様は落ち着いたのかと思ったら


『お客の要望には応えねぇで、トロトロ仕事しやがって!聞かないと判んねぇのか!この野郎!!』


バリカンを入れられながら愚痴愚痴言い始めていて、


『剃るだけじゃねぇんだよ!!モヒカンってのはよ!!』


モヒカンに拘ってるなら、専門店にでも行けよ。って内心……。で、理髪師さんがバリカンからハサミに切り替える時だろうか。少しお客様の頭から離れた時、急に振り返ったのだ!


『偉い奴を出せ!!こんなクソカス共を店に立たせるんじゃねぇ!!カットだけの店なんて潰れてしまえ!!客を馬鹿にしやがって!!』


さすがにキレた。……っていうか、手を止めた。


『……ここはチェーン店なので、こちらにご要望でも言ってください』


電話番号とメールアドレスを載せた、名刺っぽいのを渡しながら


『失礼ながら、モヒカン専門店でも行ってくれませんかね?今日のカットについては私が責任を持ちますが、……私共、プロとして、このチェーン店のモットーとしては、お客様達の回転率にございます』


お客様を沢山相手にする事で、お金を稼いでるビジネスモデルである。


『1人のお客様を満足させるより、10人のお客様を相手にする商売でございますので、あなたの言う、プロが何を指しているのか分かりませんが。金がねぇからって、ここには来ないでくれませんか?他のお客様達が並んでるんです』


……そもそも、髪型に拘っている人物が、1000円カットを訪れる理由が分からない。モテるとか、カッコいいとか、そーいうのを求めておらず。髪が伸びたから切りに行くという、……


『男前にするのがテメェの腕だろうが!!』

『私達の腕はお客様の髪を速やかにカットし、次のお客様を迎えるためです。座っててくれませんか?鏡を見ててください』


そーいうやり取りがあって、隣に座っていた相場は……


「俺、もう終わってたんだよ」

「え~~~」


先に相手をされていたのは、このモヒカンさんであったのだが……口論をしている間に、相場が椅子に座って、髪のカットが終わってしまったのだ。かなり飛ばしてくれていた。

その様子を見てか、しかめっ面でだんまり、ブツブツは何か言っていたが……。なんだろうか。求めている事を間違えているから、相手にはされないだろうな。遠回しではあるけれど、あなたはお客様ではありませんって言われているわけで、こーして、モヒカンのカットをしてもらっているんだ。


『ありがとうございました!』


相場をカットしてくれた理髪師さんは、お礼を言い。続けて、モヒカンの相手をしていた理髪師も、……嫌味ったらしく、叫んでいた。



『お客様!!ありがとうございます!!』






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