ちょっと説明しておくわ 2
お読み頂きありがとうございます。楽しんで頂けたら嬉しいです。
「ああもうショウコちゃんったら、お昼休みが終わっちゃうわよ!!」
歌保ちゃんが何か言いながら、私の手を引いて歩いている。
回りを見ると、お昼を食べおわった人たちが慌ただしくそれぞれの会社へもどる途中のようだ。
......いつの間に??
「何を言ってるのよ? いくら声をかけてもうわの空だったのよ!」
「ご、ごめんなさい.....」
素直にあやまる私。
でもそういえば、まだ話の途中だったわね.....
.............................................
えーと、どこまで話したっけ?
そうそう、人の記憶をデータ化して保存できるようになったってところだったわね。
で、何がスゴイのかっていうとね。
記憶を保存できるってことは逆に言えば、記憶を書き込むのも可能になったってことなの。
だから事故や病気でもう助からないってなっても、新しい身体を用意すれば、今までの記憶を書き込んで命をつなぐことができるのよ。
スゴイでしょ???
スゴイよね???
だから今、人類の寿命はとんでもなく伸びてるの。
もっとも一部の人達は「自然のままに」って言って穏やかに死を受け入れているけど、それはやっぱり極々少数派。
ほとんどの人は生き続けることを選んでいる。
まあ誰だって死ぬのは怖いよね?
私だって怖いもん。
だもんで、いま人類は厳格な戸籍&出生管理のもと人口増加に歯止めをかけながら、それでいて少しずつその版図を広げている最中なの。
衣食住を確保しないことには、やらなくてもいい争いを引き起こすだけだからね。
人間はもう、戦争には飽きてるのよ。
......
.....
...
で、ここで私の部署で取り扱ってる「お薬」が関わってくる。
さっき新しい身体をクローンで用意するって言ったわよね?
でもよく考えてみてよ。
クローンってのは遺伝子は同じだけど、本質的には別個の生命体なのよ。
だからいくらクローンに生前の記憶を読み込ませたって、それは他人の記憶を知っているだけの別人になっちゃうわよね?
ここまでは分かるかしら??
ババーン!!!
ここで「お薬」が重要になってくるの。
「お薬」を定期的に服用することで、クローン本来の人格が発生するのをおさえつつ、書き込んだ記憶をよりしっかりと定着させる効果があるんだ。
詳しく説明すると、喜怒哀楽の感情を本人の人格に合わせて増幅あるいは低減させることで、書き込んだ記憶と身体のアルゴリズムを整えるってわけ。
そこら辺のドラッグストアで気軽に買えて、しかも幾つもの製薬会社がしのぎを削ってるから、いろんな種類があって迷うみたいだけどね。
さっき歌保ちゃんが飲んでいた「お薬」もそう。
基本的には一日三回、食後に服用することが推奨されてるわ。
......ん?
んん??
いやちょっと待って......
てことは、歌保ちゃんも最低一度は身体を交換してるってことよね?
同期で同い年ってことになってるけど実は歌保ちゃんってば「むぎぃ......」
いきなりほっぺたをつままれた。
「はいそこまで! 淑女の年齢ってのは、決して踏み込んじゃいけない聖域なのよ?」
歌保ちゃんがにっこり笑いながら私のほっぺをつまんでいる。
それでも目が......目が笑ってない(冷汗)!!
「どう? 分かったかしら?」
「ふ......ふみまへぇん......」
......
.....
...
イタタタタ......
ま、まあそんなわけでこの「お薬」は、私達の生活に欠かせないものになってるわ。
さっきのレストランでも、飲んでる人達がたくさんいたし。
え?
じゃあ私も「お薬」を飲んでるのかって?
「なんとか間に合ったわね。とりあえずショウコちゃん、お化粧直してきた方がいいわよ。ほっぺも少し赤いし。」
「いや、これは歌保ちゃんが......」
「何か言った?」
「な、何でもないです......」
自分で生産に関わってはいるものの、私は「お薬」を飲んでいない。
実はある理由で私の体も既に複製品になってるけど、そもそも私は「お薬」を飲む必要が無いんだ......
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