ちょっと説明しておくわ 1
お読み頂きありがとうございます。楽しんで頂けたら嬉しいです。
「これ、先月に出た新製品なんだけどすっごく良いわ。とーってもリラックスできるの」
歌保ちゃんが嬉しそうににっこりと笑う。
その手には、うちの部署で一次加工を請けおった「お薬」の瓶。
見れば回りにも同じような「お薬」を飲んでいる人達が何人かいる。
さっき歌保ちゃんが飲んでたのも含めて、色々なメーカーから色々なタイプの「お薬」が販売されているから、全部が同じってわけでは無いんだろうけどね。
で、この「お薬」。
ざっくり言ってしまえば、それは感情の起伏をコントロールするための「お薬」なの。
あ、説明が必要かしらね?
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月と火星で「石」が見付かってから、いわゆる「産業革命」ってのが起きて、人類の科学技術は、それはそれはもうとんでもなく、一気に進んじゃったんだけど。
で、その過程で「未知とのソーグー」ってのがあってね。
思えばいろいろな「お薬」ができたのも、そのことがきっかけだったの。
......えーと、少し長くなるけどいい?
「あら、もうこんな時間? そろそろ戻らないとお昼休み終わっちゃうわよ」
「........」
「?? ショウコちゃん? どうしたの?」
「........」
「おーい」
「........」
「ノックしてもしもーし!」
「........」
「ショウコちゃん......誰かとしゃべってるの???」
「........」
.............................................
やっぱり「石」が人類史に与えた影響って大きいのよ。
元素変換機能を持つ特殊な「石」のおかげで分子構造を好きなように弄くれるようになったものだから、とっても頑丈な高分子――厳密には違うけどまあプラスチックだと思ってもらえればいいかな――が簡単に作れるようになったわ。
とにかく丈夫だから軌道エレベーターやそれらをつなぐ宇宙鉄道、それにラグランジュポイントに浮かぶ宇宙コロニーの材料にももちろん使われてるんだけど、この高分子で作られた潜水艦が地球の海の底で、スゴイものを見つけてきちゃったんだ。
それはね、「ルルイエの檻」に幽閉されていた「宇宙生命体」。
で、万一に備えて潜水艦に準備されていたロボット――機体名をライデン君っていう――を使って、経年劣化していた「ルルイエの檻」から抜け出した「宇宙生命体」と相撲をとったらしい。
勝負は一進一退の攻防を経て、一本背負いでライデン君の勝ち。
(相撲の決まり手に「一本背負い」があるって知ってた?)
んでその後、宇宙生命体はライデン君の制御コンピューターと一体化して、今もこの地球に住んでいるそうよ。
(あ!今、気付いた! ロボットの名前、雷電為右衛門からとったんだ!)
宇宙生命体との遭遇も十分にセンセーショナルだったんだけど、肝心なのはむしろ、この時に見つかった「ルルイエの檻」のほう。
子供の頃、博物館で模造品をちらっと見たことがあるんだけど、ほんのちょっと見ただけで気持ち悪くなっちゃった。
「2秒以上見ないように」っていう注意書きがあったぐらい。
俗に言う「幾何学的に狂った」構造をもつこの「ルルイエの檻」には、それでもその狂い方に一定の法則があって、苦労の末にその法則が数式化されたの。
で、ようやくここからが本題よ。
ごめんね、長々と説明続きで(汗)
で、その法則を数式化した際にある一人の天才科学者が、その数式の応用で人の記憶をデータ化して保存できることに気付いたの。
余談だけどこの天才科学者、絶世の美女だったと言われているわ。
(ま、「絶世の美女うんぬん」は噂話に尾ひれが付いただけだと思ってるけど......)
私が産まれるずっと前のことだから当時のザワザワがどんなものだったのか実際には知らないけど、これってなかなかスゴイことよ。
ん?
どうスゴイのかイマイチ分からない??
じゃあ、もう少し話を続けるわね......
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