お客さんと面談 3
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「ちょっとええですかね?」
「あぁ!?....... 何です?」
場ちがいなぐらいに陽気で大きな日来課長の声が割って入る。
話の腰を折られて不機嫌そうな先方の上司さん。
そんな空気を読もうともせず、日来課長はコーヒーカップを持ち上げて呑気に言う。
「やっぱり洒落たカップで飲むコーヒーはうまいですな。すいませんが、もう一杯いただけませんやろか?」
はい???
お客さん達、「何を言ってるのだこいつは?」って顔をしてるけど、きっと私も同じ表情のハズ。
言葉の意味を理解するのに1秒、2秒と時間が経過していくのが分かったもん。
「.......君、もう一杯持ってくるよう電話して」
「は、はいっ」
「ああそれと、フレッシュと砂糖は3つずつお願いしますわ。彼女にもね」
「はぁ.......」
私より早く立ち直ったと思いきや、さらに注文をつけられて再び毒気をぬかれるお客さん達。
でも、かしこいショウコちゃんは理解した。
これは日来課長が作ってくれたインターバル。
今のうちに体勢を立て直すわよっ!!!
......
.....
...
えーと、まずは深呼吸して、と......
すーーーっ...
はーーーっ...
で、おちついて相手をよく見る、と......
話が中断したせいで部屋の中にはややユルい空気がただよっていたけど、先方の上司さんも再び攻撃準備に入ろうとしている。
それをすっとぼけた顔で雑談を投げかけ、食い止めてくれる頼もしい日来課長。
向こうさんもホントはすぐにでも話を続けたいのだろうけど、今のタイミングだとエキサイトしてる最中にコーヒーが届いてしまう。
そうなったら、カラオケでサビに入った時にドリンクが届くのと同じ気まずさになるのはほぼ間違いないから、今は不承々々といった感じで日来課長の話に相づちをうっている。
「......地元ではミルクじゃなくてフレッシュって呼ぶんですわ。僕なんか小さい頃からずっとフレッシュて言うてましたからね、これがなかなか直りませんのですわ......」
「はあ......そうですか......」
「ただこれはね、植物性の油を乳化したもんなんで、やっぱり厳密には牛の乳とは違うんですわ......」
ふーーん......なるほど。
日来課長の言っていたとおり、冷静に観察すると見えてくるものがある。
先方の上司さんは、さっきと変わらず険しい顔。
だけどその仮面の裏には「不安と焦燥」が.......あるみたい?
そうか......
よく考えてみれば当たり前の話かもしれないけど、今回の件では先方の上司さんこそ社内で微妙な立場にいるハズ。
だから目に見える形で「極東貿易株式会社」の責任ってことにしておきたいんだろう。
でも......それは無理よ。
「売り手」と「買い手」は対等なんだから。
これは日来課長の教えで、ついつい忘れがちだけど、「お客さん」と「極東貿易株式会社」とが「物とお金」を対等にやり取りする、それが商売ってもの。
だって、どちらが欠けても成り立たないじゃない?
まあ、いまだに買い手のほうが無条件に偉いと思ってる人が多いのも事実よね。
私だってさっきまで、そういう負い目みたいなものを感じてたんだし........
自分のことを都合よく棚の上に放り投げて言うけれど、
多分この上司さんは仕事のできる人じゃない。
単に隠すのが上手い人なんだろう。
でなけりゃ宇宙人達の文化について無理解が過ぎるし、仕入先に向かって恫喝まがいのごり押しなんかするハズがないわ。
ふふん!
相手が悪かったわね!!
冷静沈着な潟田ショウコさんが戻ってきたからには、もうそちらの思惑どおりにはいかないわよっ!!
.......
.....
...
コンコンコン、とドアがノックされコーヒーのお代わりが運ばれてきた。
心を落ち着かせるイイ香り。
そして「失礼いたしました」の声とともにドアが閉められる。
「それでは話を続けますよ。そもそも4M変更の重要性をあなた方は軽く考え過ぎている!!」
再び大声でわめき始めた上司さんを無視。
私も日来課長のマネをして、お代わりのコーヒーにお砂糖とミルクを3つずつぶち込んでゆっくりとかき回す。
ずびっ!!
..
..
あ.....あっま--っ!!!
さてさて、第2ラウンド開始といきますかっ!!!
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