電車
お読み頂きありがとうございます。楽しんで頂けたら嬉しいです。
「それじゃあ、お先に失礼しまーす!」
「しっかり頼むわな」
「はーい」
夕方、残った仕事を日来課長に押し付け、少し早めに会社を出る。
こういう時、人の良い上司ってホントありがたいわねっ♪
家に戻り、キャリーバッグに荷物をつめこむ。
大事なのは3つ。
星間パスポート
仕事の資料
お金
それから特に私の場合は、万一にそなえたお腹の薬。
最低限、これだけあればなんとかなるもんよ(フンス!)。
って、おっとと、着替えとおパンツを忘れるところだった(汗)
......
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キャリーバッグをガラガラと転がしながら駅へ行き、「専用」の電車が来るのを待つ。
ちなみに習慣的に「電車」と言っているけど、電気でモーターを回してるわけじゃないのよ。
物理学の話になるから詳しいことは分かんないけど、バッテリーの電気を「石」を使って「運動エネルギー」とかいうのに変えて走るんだって。
発電に関しては、今はほとんど太陽電池が使われてて、それこそ街のいたるところにあるわ。
今の時間は無理だけど、この電車の屋根だって太陽電池になってて、昼間は充電できるようになってるし。
元素変換装置で高純度の「シリコン」とかいうのが簡単に作れるようになったかららしいんだけどね。
うん、それ以上は分かんないから聞かないで(笑)
あと、パワーがあるからって原子力発電もちょっとだけ行われてる。
万一のことがあっても、元素変換装置で放射性物質を無害化できるから、昔に比べて安全性はスゴク高いのよ。
だもんで、今じゃガソリンで走る車なんか(内燃機関っていうらしい)は、一部のマニアだけの楽しみになっちゃってるわ。
「20番線に『第1120宇宙港』向けの特急列車が参ります。安全柵の内側にて、2列に並んでお待ちください」
ホームに電車が滑り込んできた。
キャリーバッグをよいしょと持ち上げ、電車に乗りこむ。
めずらしく車内はすいていた。
......
.....
...
郊外へ向かって、ガタンゴトンと電車は走る。
しばらくすると、車内販売の小さなワゴンがやって来た。
端から順番に、乗客全員におしぼりを配ってくれる。
それも使い捨てのじゃなくて、ちゃんとした布のあったかいやつよ。
なかなか粋なサービスよね?
「おしぼりどうぞ」
「ありがと。それとコーヒーもください。あ、お砂糖とミルクはいらないです」
「有難うございます」
おしぼりをもらい、ついでにあったかいコーヒーを買う。
甘い物は大好きだけど、コーヒーだけはブラック派なの。
え?いや別にカッコつけてませんけど?
「ふぅ.....おいし」
黄昏時の薄暗い景色をぼんやりとながめていると、日々の喧騒が嘘みたいに思えてくる。
窓の外はどこまでも続く田んぼと畑。
鉄やプラスチックをはじめとする工業製品の材料、そのほとんどが元素変換装置によって生産できるようになってから、少しずつ田んぼや畑が増えてきた気がする。
月に火星、それとラグランジュ点に浮かぶいくつものスペースコロニー。
たくさん人が増えたから、今では食料生産って「お薬」に次ぐ重要産業なの。
そういや来年もまた、ジューブ星へお米を持っていかなきゃね。
......
.....
...
少し大きめの街の郊外には、必ずといっていいほど長距離移動のための拠点があるの。
そこでは私みたいに「S2」を持ってる人達が、「物質転送装置」を使ってあちこちへと出かけていく。
旅行で行く人もいないことはないけど、この時間帯なら、仕事での方が多いかな?
あ、ちなみに、うちの会社で取りあつかってる商品みたいに、荷物だけを運ぶ場合は、それ専用の宇宙港があるんだけどね。
人とモノの出入りは細分化、専門家されてるのよ。
「あーおいしかった」
コーヒーを飲みおわり、トイレへ行ったついでにカップをダストボックスに捨てる。
そろそろ着くわね。
「まもなく終点、『第1120宇宙港』、『第1120宇宙港』に到着いたします。電車は両側のドアが開きます、ご注意ください。本日は『第1120宇宙港』行き特急をご利用頂き、まことにありがとうございました。どちら様も、お忘れ物の無いようにご注意ください....」
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