地球人
太陽系の第三惑星、その名を地球という。
その惑星で生まれた、自らを地球人と呼称する生き物達。
今や太陽系を越えて、遥か遠くの惑星まで進出した彼等は、超広域宇宙生活圏連合においても、まずまずの敬意と存在感をもって広く知られていた。
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「来たよ長老!あれ!!輝く宇宙船だよ!!」
「うむ、来られたか.....」
ソーラーパネルの反射で輝く大きな宇宙船が、ゆっくりこちらへと向かってくる。
ちなみに駆動機関の音はしていない。
重力に逆らっての逆噴射もしていない。
「石」を使い、位置エネルギーを吸収しながら降りてくるのだ。
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かつて地球人が、超広域宇宙生活圏連合に加入どころかその存在すら知らなかったはるかな昔、宇宙に住む様々な種族の間で、大規模かつ長期にわたる戦いが繰り広げられていた。
その原因となったのは、ある「石」である。
ほんの時折、宇宙のあちこちで発見される特殊な「石」。
戦いは、生半可な貴金属などよりはるかに高い価値を持つこの「石」の奪い合いによるものであった。
その特性については後述するが、本来は創造に役立つ「石」を破壊のために使い、結果誰もが特をせず疲弊した全ての種族。
彼等はその反省を踏まえ、超広域宇宙生活圏連合を設立した際、「石」の所有権については特に慎重に議論を重ね、事細かに条項を制定した。
その全てをここに示すことは出来ないが、概ね次のとおりである。
「石」の所有権は、それが見つかった場所に住む種族にある。
「石」を譲渡以外の方法で他の種族から得ることは原則禁止とする。
「石」を兵器として用いてはならない。
「石」の新たな用途が発見された場合、その情報については秘匿を禁止とする。
地球人が所有する「石」はまず月、次いで火星の開拓時に発見された。
既にその所有権は超広域宇宙生活圏連合における専門機関へ登録されている。
逆説的に考えれば、「石」を発見して使いこなす事こそが、超広域宇宙生活圏連合への参加資格であるとも言えた。
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何故ここまで「石」の管理に神経質になるのか?
二つの大きな特性により、「石」の保有量が種族間のパワーバランスを崩しかねない力をもたらすためである。
その一つ、それは元素変換。
この「石」は、光、熱、電気などあらゆるエネルギーを吸収し、そして特殊なエネルギー波として放出する。
この特殊なエネルギー波を浴びた物質は、元素レベルで組成を変えられ、別の元素へと変わってしまう。
太古の地球人類が夢見た「錬金術」、それが現実のものとなるのである。
もう一つ、それは慣性制御。
この「石」を真空状態に保ちつつ、エネルギーだけを与えると「石」はその与えられたエネルギーを無尽蔵に蓄えてゆく。
そして蓄えられたエネルギーを、運動エネルギーとして放出することで、ロスの無い慣性制御を行うことが出来るのだ。
人類は、超々高性能なエンジンを手に入れたのである。
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み使い様の宇宙船が、静かに広場へと降りてくる。
「歓迎の音を!」
長老の指示に従い、笛を吹く者がいる。
木の棒を打ち鳴らす者がいる。
歌をうたう者がいる。
シンプルだが味のある音が鳴り響く中、宇宙船の一部がゆっくりと開き、階段が下りてきた。
階段の先が、そっと地面にふれる。
その近くへ長老が歩みより、平伏する。
他のみんなもそれにならう。
いよいよだ。
「どうもー!こんにちわーっ!!」
おごそかなフンイキをぶちこわす、去年までの「み使い様」とは異なるかん高い声。
そしてカンカンカンという、ややあわてて階段をかけ下りるせわしないクツの音。
長老をはじめ、みんなが思わず顔をあげる。
そんな中、
ツルッ!
「あっ!!あわわわっ!!」
((((((((((え?))))))))))
ズデーン!!!
そこにいた誰もが、階段を踏みはずした「み使い様」がハデな音を立ててすっ転ぶのを見たのだった。