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ある惑星(ほし)にて


「もうそろそろ来られるはずじゃ」



長老は顔のまん中にある巨大な一つ目をまぶしそうに細め、その宇宙船ふねがやって来るはずの東の空を見上げていた。



雲が少なくすきとおった空には、お日さまが二つ出ている。

白い砂浜にはたえず波が打ちよせ、海の湿気しっけをふくんだあたたかな風がさらさらと吹いてくる。


こんな日はニグの実を干すのにちょうどよいのだが、今日ばかりはそうもいかない。

なにしろ今日は、「み使い様」がいらっしゃる日なのだから。

干し終わったニグの実をおおさめする日なのだから。



歓迎かんげいうたげの準備は、もうすっかりととのっている。



.............................................



かつて銀河中を長きにわたってかけめぐり、超広域宇宙生活圏連合(コズミックワールド)にその名をとどろかせた一ツ目の種族。



だが彼等は、いつしか宇宙そら拓くとぶことにつかれ、この惑星ほし住処すみかと定めた。

惑星ほしの名をとってジューブ星人と名のることにした彼等は、土をたがやしケモノを追い、魚をとるという、少し不便で心のおだやかな暮らしへと戻っていった。



今でもなお、山の中腹には彼等の宇宙船ふねが技術的なアップデートをくり返しつつ整備メンテナンスされてはいる。

されてはいるのだが、彼等自身はあえてテクノロジーに背を向け、自然への感謝と祈りの日々をすごし、それを楽しんでいる。



つまりは壮大そうだいな「ごっこ遊び」をしているのだ。



.......

.....

...



そんな彼等が唯一ゆいいつ、他の惑星ほしとの交易に使うのがニグの実である。



ちょうどゴルフボールぐらいの大きさのニグの実は、そのまま食べるとお腹をこわす。

急に乾燥かんそうさせるとひび割れてしまうので、そうならないようほどほどの湿しめりけの中で何日もかけてじっくりと天日干しにする。

すると皮が固くなり、割るのには苦労するが、その中身なかみは食べられるようになる。



手間てまがかかるわりに、食べてもあまり美味うまくはない。

だが一度干してしまえば何年も保存がきくので、畑の不作の時にそなえた非常食としていつも少しだけたくわえられていた。



そんなニグの実が重要な交易品になったのは、ここ数十年ほど前のことだ。



.............................................



ある日、神々こうごうしく銀色にかがやく宇宙船ふねにのってやって来たのは、1人のでっぷりと太った男だった。



その男は自分の種族を「地球人」だと名のり、ニグの実との交易を申し入れ、そしていくつかのカタログと商品サンプルをわたしてきた。



機械や道具のたぐいには、だれも興味を示さなかった。

当たり前だ。

山の中腹にいつもアイドリング状態で待機している彼等の宇宙船ふねへ行けば、日常のちょっとした不便を解決する道具などいくらでもあるのだから。



だから彼等がえらんだのは食べ物、特にジューブ星には無かった農産物だった。



.......

.....

...



最初の2~3年は、様々さまざまな農産物がニグの実と交換されていた。



だが、たとえば彼等のお気に入りのパイナップルというくだもののように、(のち)にジューブ星でも育てることができると分かったものも多く、交換するものの種類はだんだんとっていった。



そして今では、たった一種類、何故だかどうしてもジューブ星では育てることのできない「米」というものだけが、ニグの実と取引され続けていた。



いや、育てることができないわけではないのだが、不思議と地球人から得られるものほどには味が良くはならなかったのだ。



彼等の技術をもってしても育てることのできない美味うまい「米」。

そのため彼等は、「米」を「神からの恵み」、そして取引相手を「神のみ使い」としてあがめることにした。



もちろん、彼等のよくやる楽しい「ごっこ遊び」ではあるのだが。



.............................................



「まだかのう?」



長老はその大きな一つ目で空を見上げる。

村のみんなも、どこかソワソワして落ちつかない。


宇宙船がおりるための大広場の片すみには、大量のニグの実がつみあげられている。

今年は豊作であった。

だから「米」もたくさんいただけるのだろう。


とくに今の、とれたての新「米」の美味うまさはこたえられない。

美味うますぎて、目玉が落っこちそうなほどだ。



「あっ!」

「長老、あそこ!!」

「む、お見えになられたか」



東の空に、小さく宇宙船ふねのかがやきが見えた。



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