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9話 お嫁さんになります!

次の十話で完結します。

ソフィーは今、ライアンの商談に同行している。

生まれて初めて念願だった国境を超え、隣国へ降り立ったことに感動していた。


ここがスナイデラ!!

なんだか空気までもが違う気がするわ。

自由時間はもらえるのかしら?

お土産はもちろん買いたいけれど、何より名産の織物が気になるわよね。

あわよくば織っているところが見られるかもしれないし。


そわそわと落ち着かないソフィーに、ライアンが宥めるように落ち着いた声で話しかけた。


「今日の商談さえ終われば、あとは好きに行動してくれて構わない。短期間に無理をさせてしまったからな。せめてもの償いだ」


いえいえ。

好きな服を作って、国外に連れ出してもらえて、更に好きに過ごせる時間があるなんて、待遇良すぎでは?

私、ライアン様に出会ってからいいことづくめだもの。

以前、ちっちゃい男と言ったのは訂正しましょう。

ライアン様、あなたは顔も中身も最高です。


こういう時に限って心の声が漏れ出ることはなく、せっかくの訂正もライアンには届かなかった。


「商談、頑張りましょうね!」

「ああ、今回こそ具体的な話に持っていってみせる。しかし、まさか女性の君を頼る日が来るとはな。人生とはわからないものだ」


ライアンは瞳を優しく細めながら、ソフィーの頭をポンポンと叩いた。


私だって、ライアン様に優しく触れて貰える日が来るとは思っていなかったわ。

ほんと人生ってわからない。

そして、今の尊いライアン様の残像だけで、何着でも作れてしまいそう……。


ソフィーは新たに湧き出たデザインを、頭の中のスケッチブックに必死に記録していた。



◆◆◆



到着した宿泊先のホテルで、二人はそれぞれソフィーが商談用に仕立てた服に着替えた。

ソフィーが身に纏ったジャケットとワンピースを初めて目にしたライアンは、驚いたように目を丸くしている。

今日まで秘密にしてきた甲斐があったと、ソフィーのニヤニヤは止まらない。


「ライアン様、少し屈んで下さい」


屈んでくれたライアンの襟元を直した後、隅々までチェックしていく。

ライアンの服はいつものシンプルなものとは全く異なり、むしろ装飾がそこかしこに付いている。

飾りのポケットやボタンはもちろん、わざと見せている裏地や、違う素材の布をアクセントに多用している為、皆の視線を集めるに違いないだろう。

その分、色数を抑えたり、ライアンの聡明な印象を計算に入れて、品が悪く見えないギリギリを攻めてみたつもりだ。


「うん、いい感じですね。これで私が並んで立つとーー」


ソフィーは言いながら、ライアンの隣に立った。

ライアンの衣装の素材の切り返しや飾りは、並ぶとソフィーの服にデザインが繋がるように作ってある。

色味も同じで、誰が見ても連れだとわかるだろう。


「凄いな。立ち位置や身長の差まで考えてあるのか」

「やり過ぎましたか? 今まで築き上げたライアン様のイメージが崩れてしまうかも……」


急に心配に襲われたソフィーだったが、ライアンは満足げだ。


「これでもう真面目とは言わせない」


わざとキリッとした顔で言うので、ソフィーも笑ってしまった。



◆◆◆



結果、商談はビックリするほど上手く進んだ。

お相手の貴族は、ライアンの姿を見た途端に饒舌に話しかけ、斬新な服だと絶賛した。

最終的には『君は面白い男だ』と言われ、なんと独占的に輸入させて貰えることに決まったらしい。

ソフィーのセンスも誉められ、服の依頼も入り、特別に織物の工場まで紹介してくれたほどだった。


別れ際、その貴族男性が言った。


「君達夫婦とは長い付き合いになりそうだ。次は私がそちらを訪ねよう。また会える日を楽しみにしているよ」


夫婦?

『婚約者』でも驚いたのに、『夫婦』って……。


チラッとライアンの様子を窺うソフィーだったが、ライアンは少しも動じることなく、平然と返事をしている。


「我々も楽しみにしていますよ。妻の服が出来上がったら送ります」


妻!?

妻ってお嫁さんだよね?

私、第二関門を突破したってこと?

ライアン様の専属デザイナーになれるのかしら?


呆然としたまま帰国の馬車に乗り込むと、しばらく経ってからライアンが真剣な口調で話し始めた。


「ソフィー嬢、いや、ソフィー。約束通り結婚しよう。……いや、違うな。私と結婚して下さい。一生私の傍で服を作って欲しいんだ」


真摯な瞳で見つめられ、ソフィーは嬉しさで涙が溢れてきた。


「はい! ライアン様は一生私のミューズです!! 私も約束通りお仕事の邪魔はしないので、お顔は見せて下さいね」

「ソフィーを邪魔だと思うはずがない。顔くらい好きなだけ見ればいい」

「嬉しいです。ああ、もうずっと作りたい服のイメージが涌き出し過ぎて困っているのです」

「ははっ、ほどほどにな。式の準備もあるし」

「ライアン様のタキシード!! 腕が鳴りますー」


この時の二人はまだ気付いていなかった。

お互いにとっての『結婚』の意味が、大きくかけ離れているまま話が進んでいることを……。

二人が食い違いに気付くのは、もう少し先のことだった。


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